「初めて見るモビルスーツだ。このサルバ・ダグランの攻撃を、こうも簡単にしのぐとは。殺す前に、名前を聞いてもいいか?」
プルス・ディアスと、ザク・トーテンコップ。
宇宙空間で対峙する二機のモビルスーツと、二人のパイロット。
互いに機を窺う緊迫した状況で、ダグランがアランに話しかける。
「……アラン・ダレンだ。そちらも、昨日今日でモビルスーツに乗ったというわけではないようだが」
ザク・トーテンコップのパイロット、サルバ・ダグランのモビルスーツ操縦技術はアランにとって既視感のあるものだった。
他ならぬ、アラン本人と似ているのだ。
全天周囲モニターが開発される以前の、計器とモニターによって構成された旧型のコクピットに乗り慣れていたパイロット特有の動き。
広いと言えないメインカメラ用モニターを使っての有視界戦闘によって染みついた、敵機を頭部のメインカメラで常に追い続けるという独特の癖。
そして、ネオ・ジオンのモビルスーツを改造して使っている事実。
ここから導き出される答えは、
「まさか、元ジオン兵か?」
「当たりだぜ、アラン・ダレン。おたくと同じ、一年戦争を生き延びた兵隊さ。もっとも、いまはハルパー部隊なんていう残党勢力の寄り合い所帯にいるがね」
その言葉に、アランは怒りを噛みしめる。
「あの戦争を生き延びて……。やることがジオンの残党か!」
「そりゃあ、お互い様だろうが! アナハイムの私兵さんよぉ!」
アランとダグランの間に、これ以上の会話など必要なかった。
プルス・ディアスが背部のスラスターを噴射し、その右手に持つビームサーベルを横薙ぎに振るう。
ザク・トーテンコップも、その一撃を左手のビームサーベルで受け止めた。
そして、反撃と言わんばかりに、右手のみで保持していたガトリング砲を鈍器のように扱い、プルス・ディアスの機体左側面を叩く。
プルス・ディアスの機体がくの字に曲がり、伝わった衝撃がコクピット内部を大きく揺らした。
「どうやら、白兵戦はそこまで得意じゃないみたいだな? えぇ?」
舌打ちをしながら、アランはザク・トーテンコップの次なる一手に備える。
プルス・ディアスは大きく体勢を崩しており、制御にはもうあと数秒はかかるとアランは想定していた。
この状態で次の攻撃を回避しようとしても、背部や脚部のスラスターを強引に噴射すれば更に姿勢は崩れ、ガトリング砲の餌食になるだけ。
つまり、スラスターを使って距離をとったり、いきなり加速して回避するという方法は不可能。必然的に、モビルスーツの純粋な運動性能だけを頼ることになる。
必殺の一手を仕掛けてくる。アランは確信していた。
その一手を、アランは読みきる必要がある。
モビルスーツという、自らの肉体を離れた機械を操る戦いで、相手の攻撃を見てから回避するなど、ニュータイプでもなければそう易々とできる芸当ではない。至近距離の白兵戦では
だからこそ、多くのモビルスーツが射撃戦の武装を多く装備したり、そもそも攻撃を当たらぬほどの高機動を行えるように、スラスターの数や推進剤の搭載量に注力するのだ。
先ほど、ザク・トーテンコップの放ったミサイルを紙一重で回避したのは奇跡だということは、アラン自身が分かっていた。
一手の読み違いが、そのまま死に直結する局面。アランは考える。
大型のガトリング砲。腰部ミサイルポッド。アランが見たザク・トーテンコップの武装はいまのところ、全て射撃戦のみ。
対する白兵戦の武装といえば、ありきたりなビームサーベルだけである。
どこかに、白兵戦用の奥の手を隠しているのでは。
アランの思考が巡る。
────ザク・トーテンコップが、仕掛けた。
腰部アーマーに隠されていた、第三の手。まさに
ビームサーベルを持ったサブ・マニピュレーターが、プルス・ディアスの胸部を狙う。
だが、アランはそれを読んでいた。
右手のビームサーベルを振るって、サブ・マニピュレーターを一刀両断。
「見切るかい、これを!」
「ザクⅢの腰部アーマーにしては長すぎる。単純な装甲という割には、補強されている様子もない。必ず何かの仕掛けがあると
体勢を持ち直したプルス・ディアスは左手にワイヤー型の電撃兵器であるウミヘビを構え、それをザク・トーテンコップめがけて射出した。
直撃はまずいとダグランの直感が叫び、ザク・トーテンコップはウミヘビに対してガトリング砲を盾にする。
電撃がガトリング砲を奔り、ザク・トーテンコップは慌てて手を離した。
「ちぃっ! 長物がやられちまったか!」
「ここで仕留める!」
プルス・ディアスが、頭部ガトリングで更にザク・トーテンコップをけん制。
ザク・トーテンコップは腕部を犠牲にして、コクピットへの直撃を避ける。
形勢逆転。
アランはダグランを圧倒しはじめていた。このまま距離をとってクレイ・バズーカを放つか、或いは腕部のグレネードランチャーを使えば、確実にアランは勝利できる。
「なるほど、カミロの旦那が未だに執着するのも頷ける! 大した腕だ!」
カミロ。
その名前が、なぜサルバ・ダグランの口から出るのか、アランには理解できなかった。
カミロ・カーダ。かつて、アランと共に一年戦争を戦い、最後は互いの考えの違いから離れていった彼の戦友。
死んだと思っていた、アランの友人。
それが生きて、ネオ・ジオンの残党になっている。
アランの操縦桿を握る力が、無意味に強くなった。
「カミロだと……! カミロ・カーダを、なぜお前が知っている!」
アランはダグランを問い詰めるように、頭部のバルカン砲を放つ。
だが、腰部のアーマーに数発が当たった程度で、致命傷にはほど遠い。
明らかに無意味な攻撃、無駄な行動。
その隙を見逃すダグランではなかった。
「おいおい……、動きが雑になってるぜぇ!」
ザク・トーテンコップに備わっている口吻部の小型ビーム砲が光り、プルス・ディアスの右腕部と胸部の一部装甲を貫通。
右腕部は千切れ、コクピットのモニターが点滅するほどのダメージを受ける。
プルス・ディアスのコクピットは機体の頭部にあるとはいえ、このまま機体を動かしてはどんな不具合が起こるか分からない。
「同じ元ジオン兵のよしみで、今回は引き分けにしといてやるぜアラン・ダレン。カミロの旦那……。いやカミロ司令に、あんたがまだ戦場にいるってことを教えておいてやるよ。旧友との再会、楽しめるといいなぁ?」
方向をくるりと転換し、ガ・ゾウムが放棄したSFSへと向かうザク・トーテンコップ。
「……カミロ司令、だと?」
歯を食いしばり、うつむくアラン。
拳を握りしめ、その悲しみと怒りをどうにかこらえる。
――――この戦いは、人類の革命なんだアラン! お前なら分かるはずだ!
「馬鹿が……! 大馬鹿が……!」
カミロ・カーダの声が、アランの心に蘇る。共にジオン軍に入隊し、戦いの中で命を預けた無二の戦友の声が。
運命は、かつて別れた彼の友を、敵として再び登場させた。
ガ・ゾウムを撃退し、損傷した機体に近寄るマリアとジャンの通信も、いまのアランの耳には届かなかった。