「……では、あの残党勢力、ハルパー部隊の首魁は、アラン隊長のかつての戦友なのですか?」
「あぁ、信じたくはないが。カミロ・カーダ……。ア・バオア・クーで死んだものとばかり思っていたよ」
航宙輸送艦ストラダーレ号の操縦室で、アラン・ダレンが沈痛な面持ちを浮かべながら事情を話していた。
この船は現在、工業コロニーでの戦いを終えて、月面都市グラナダに向かっている。
アランの乗機、プルス・ディアスは右腕部切断、胴体部にダメージを受けており、戦闘はおろか動かすことすら危険な状態であった。
しかし、アランやマリア、ジャンたちの表情が険しい理由は別にあった。
「端的にいうと、典型的なニュータイプ信奉者、そしてスペースノイド至上主義者だ。まさか、アクシズにまで落ち延びていたとはな……。ヤツはまだ、地球連邦軍との、ヤツがオールドタイプと呼んでいた敵との戦いを続けているんだろう」
「うへぇ、いかにも
「おそらく、カミロの率いる本隊は別の場所にいる。やけに弱かったコロニーの敵も、俺たちやアナハイムへの陽動だとするなら納得がいく」
ふう、とアランは大きくため息をつく。
今回の任務がこれまで以上に困難なものになるということは、アランも予感していた。
だが、死んだはずの戦友が率いるネオ・ジオンの残党勢力と戦うことになるなど、誰が予想できようか。
それでもこうなってしまった以上、戦士である自分ができることは戦うことだけだと、アランは自分に言い聞かせる。
昨日までがどうであれ、今のカミロ・カーダはもうアラン・ダレンという人間にとって敵でしかない。
アランも、そしてカミロも、そういう戦い続ける道を選んでしまったのだ。
「可能性が一番高いのは、本社が地球連邦軍のモビルスーツ部隊をわざわざ派遣していた資源衛星だが……。資源衛星B79は周辺の衛星や小惑星の中では大きいというだけで、地球に落とすとなるとあまりに小さすぎるだろう」
「あの資源衛星のデータならあります」
マリア・リアスが手に持っていたタブレット端末を操作し、資源衛星B79のデータを画面に表示。
アナハイム・エレクトロニクス資源開発部のデータベースから引っ張ってきたそれには、資源衛星B79の様々な情報が記載されていた。
ストラダーレ号にはブリーフィング用の機材などはないので、アランやジャンはマリアのタブレットを彼女の後ろから覗きこむ形で説明を受ける。
「あ──……。自分、こういう細かい数字とか苦手なんスよねぇ……。というわけで副隊長、お願いしまッス!」
両手を合わせてわざとらしくマリアを拝むジャン。
アランはしょうがない奴だと笑い、マリアはこめかみを抑えてあきれ返る。
「……ジャンにも分かりやすく言うと、あの衛星は地球へ落とすには小さすぎるということです」
「これを地球に落としても、都市圏をひとつ壊滅させるのが限界だろう。十分な惨事だが、
「これ以上は、敵の出方を待つ他ないかと。とにかくいまはサザナミ親子の護送、そしてプルス・ディアス修復のためにグラナダへ帰還するのが────」
その時、マリアのタブレットに緊急通信が入った。通信相手は、警備部主任である。
「はい、アラン・ダレンです。先ほど報告を入れたように、コロニーの敵勢力は排除を完了し、現在グラナダに帰還を……」
「そんなことはもうどうでもいい! そのハルパー部隊とかいう残党どもから、たったいま我々アナハイム・エレクトロニクスに対して、ある声明が送られてきた!」
マリアのタブレットを受け取り、応答するアラン。しかし、相手の警備部主任は非常に取り乱している。
「上層部は地球連邦軍に更なる増援を要求する意見と、まず内々で処理を試みる意見とで真っ二つだ! 事態がここまで悪化する前に対処できなかったのかと、私の責任も問われている!」
「そう怒鳴られても、こちらはまだ事態の全貌すら把握できていません。その声明を、まず我々に見せてください」
アランの言葉に主任はしばらく唸ったあと、一本の動画ファイルを送ってきた。
「……いいか、この一件は最重要機密となった。くれぐれも口外するなよ、分かったな! これからの計画に関しては、貴様らのグラナダ到着後に伝える!」
そう吐き捨てると、主任は乱暴に通信を切る。
アランはマリアとジャンの顔を一瞥したあと、その動画ファイルを開いた。
────堕落した月の民に告ぐ。我々は、崇高なるジオンの精神を受け継ぐ部隊、ハルパー部隊である。
我々はいま再び地球連邦との、そして旧人類であるオールドタイプどもに対して戦いを仕掛ける。
貴様らも新人類たるスペースノイドの端くれならば、我らの闘争に参加せよ。
ニュータイプの存在を否定し、宇宙の開拓者である我らスペースノイドに不当な弾圧を加える地球連邦政府に対する抵抗は、宇宙に住む者の権利であり、義務でもある。
その義務すら果たせぬ愚か者どもは、我々がこの手で粛清する。
48時間だ。
それ以内に返答がなければ、資源衛星B79を月面都市フォン・ブラウンへと落とす。
我々はグリプス戦役のティターンズのようなヘマはしない。
必死に築いた月の都を破壊されたくなければ、我々と共に戦え。
以上だ。
「カミロ、お前はここまでになったのか。ここまでになってしまったのか……!」
タブレットを持つアランの手に、力がこもる。
声明文を読み上げていた彼のかつての戦友、カミロ・カーダの目には迷いや恐怖などまったくなかった。
彼はこんな凶行を、一片の躊躇や後悔もなく宣言できてしまう人間になったのだ。
「アラン隊長……」
怒りで肩を震わせるアランを、心配そうな目で見るマリア。
部下たちにこれ以上いらぬ心配をかけまいと、アランは深く呼吸をして、どうにか気持ちを落ち着ける。
「心配はいらない、マリア。こんな声明を出す男に、もう戦友としての情はない。──このテロリストは、倒さなければならない敵だ」
そしてアラン・ダレンもまた、迷いをひとつ捨てた。