機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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アナハイムのモビルスーツ格納庫

 リンと公園で語らったあと、機嫌の悪いマリアを待機室でなだめていたアラン・ダレンに、ある連絡が入った。

 

 工業コロニー・インダストリアル5での戦闘で損傷した、プルス・ディアスの修復作業が完了したと。

 

 知らせを聞いたアランは、急いでプルス・ディアスを受領しにモビルスーツ格納庫へと向かう。

 その作業員用出入口に、見慣れた顔の人物が一人立っていた。

「どうも、隊長。プルス・ディアスもすごかったですが、今回のモビルスーツもとんでもないですよ」

 アランにとってお馴染みのメカニックが、帽子をとって軽く会釈する。

「今回、ということはまたモビルスーツが変わるのか?」

 怪訝な顔をするアラン。

 メカニックとアランは出入口から格納庫内部へと入っていく。

 プルス・ディアス受領時の騒がしい様子から一転して、今の格納庫には二人以外に誰もいない。

 地球と異なるものの、この月面都市やコロニーでも人間の生活リズムを一定に保つための疑似的な昼と夜は存在しており、昼は働き、夜は休むという人間の基本的なライフサイクルは依然として変化していなかった。

 しかし、現在は深夜でも早朝でもない。なぜここまで格納庫が無人なのか、アランには分からない。廊下の照明も最低限のものしか点いておらず、都市の裏路地のような得体のしれない不気味さがあった。

 そんな空間に、アランとメカニックの足音だけが響く。

「胴体と頭、それからシステム周りが完成していた、あるモビルスーツがあったんですがね。それにプルス・ディアスの腕や足、装甲……。要はすぐ使えそうな部分を()()()()()んですよ」

「……それは、大丈夫なのか?」

「問題ありませんよ。元々、プルス・ディアスはその試作モビルスーツの機動性テストのために作られたようなものですからね」

 薄暗い廊下の突き当たりにある扉を開けるメカニック。

 僅かに身構えながら、アランもその後に続く。

 二人が格納庫へと足を踏み入れた瞬間、パッと照明が点き、その眩しさに思わず目をつぶるアラン。

 やがて、目が光に慣れ始めた彼が瞼をゆっくりと開いたとき。

 アランの前に、あるモビルスーツが立っていた。

「この顔は……」

 頭部に生えた、二本の角。

 黄色く輝く二つの目のようなメインカメラ。

 そして、戦士が被る兜のような頭部のフォルム。

 モビルスーツのパイロットとして、一年戦争からずっと戦い続けてきたアラン・ダレンが、分からないはずがなかった。

 驚きのあまり、言葉を失くしたアランに代わって、その名をメカニックが呼ぶ。

「そう────。アラン隊長もよくご存知の、()()()()です」

 

 ────ガンダム。

 

 モビルスーツのパイロットならば、誰もが知っている伝説のモビルスーツ。

 アランもその例に漏れず、ガンダムとそのパイロットの様々な逸話、そして最期にまつわる噂を耳にしてきた。

 戦争という暴力の渦の中で、それが振りまく理不尽に飲み込まれまいと、ガンダムのパイロットになることを選んだ少年たち。

 人類の新たな可能性である、ニュータイプのみが搭乗できるモビルスーツ。

 モビルスーツという存在を超えた、気高い反骨精神の象徴。

 一年戦争における連邦の型式番号RX―78―2、ガンダムの通称で知られるモビルスーツを筆頭に。

 グリプス戦役の中を駆け抜けるようにして戦い抜いた可変式モビルスーツ、Zガンダム。

 ネオ・ジオン抗争においてその圧倒的パワーを発揮した重火力モビルスーツ、ZZガンダム。

 それらが生み出したとされる多くの伝説は、モビルスーツのパイロット以外にも広く語られてきたのだ。

 そして、その伝説の新たなる一機がいま、アラン・ダレンの目の前にいる。

「いいでしょう、こいつも。名称は、特に隊長のこだわりがなければ、こう呼ばせてください」

 誇らしげに笑うメカニックの口から、機体名が語られた。

 

「────プルス・ガンダム」

 

 プルス・ガンダム。

 その機体名が、アラン・ダレンの心に深く響いた。

「この機体の開発は極秘中の極秘だったんで、ここまで持ってくるのが大変でしたよ。格納庫にいた連中も、全員早めに帰したりして……。まぁ、久々に早く家に帰れるって喜んでましたけどもね」

 型式番号はRMS―100X。

 プルス・ディアスとの最大の違いは、機体のコクピット位置が胴体に代わったことやシステム周り、そしてジェネレータの出力。

 武装自体はプルス・ディアスの頃から変わっていない。

 そういったプルス・ガンダムのデータをメカニックが列挙していくが、アランはそれどころではない。

「そうか。俺は、ガンダムに乗れるのか」

 アランの目は、プルス・ガンダムに釘付けだった。

 メカニックもそのことに気づき、話を止めて咳払いをする。

「……隊長、確かにガンダムは特別な機体ですけどね。そこまで呆けられると、こっちとしては逆に心配ですよ」

「す、すまない。だが、一年戦争からずっとこのガンダムたちの噂を聞くだけだった人間が、まさかこうして本物のガンダムに乗れるとは、夢にも思っていなかったんだ」

 プルス・ガンダムを見るアランの目は、あまりにまっすぐだった。

「本物かは、ちょっと疑わしいところですけどね。顔はそれっぽいですが、全体的なフォルムとしてはスマートさに欠けるというか……」

 そんなアランの様子があまりにも普段の彼とは違いすぎて、メカニックは思わず茶化してしまう。

「いや……。俺にとっては十分すぎるくらい、これはガンダムだよ」

 そこまで言われてしまったら、もうメカニックとしても言うことはなかった。

 二人はしばらく黙ったまま、プルス・ガンダムを見上げていた。

 

「──―このモビルスーツは、単なる機械じゃありません。詳しくは言えませんが、これまでの機械とは明確に違うものがある」

 ふと、メカニックが呟く。

 メカニックの声は、いつになく真剣なものだった。

「らしくないな。いつもなら、どこがどう違うのか、データや結果で嫌というほど説明してくれるのに」

「色々と、こっちにも事情がありましてね。このガンダムには、見た目からは分からないおっかなさがあるんですよ。……くれぐれも、気をつけてください。ガンダムの名がつく機体の最期は、アラン隊長もご存知でしょう?」

 ガンダムの最期は、常に悲惨なものだった。

 機体もパイロットも、ボロボロになるまで戦い、その戦いが終わると共にガンダムは役目を終えたかのように壊れるのだ。

 それでも、宇宙世紀という時代の中で、ガンダムは間違いなく特別な機体だった。

「気をつけるさ。まだ死ねないからな」

 ガンダムというモビルスーツに乗ることの意味。それに乗って戦うことの重み。

 それらを噛みしめ、アラン・ダレンは戦友との戦いに備える。

 

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