U.C.0090 アナハイム管理下の宙域にて
「……宇宙(そら)に上がる度、一年戦争を思い出すな」
時は流れ、
アラン・ダレンはまだモビルスーツに乗っていた。一年戦争で戦う理由を失くしても、アランはこの兵器に乗って戦う以外に生きていく方法を知らなかったのだ。
彼はいま、元ジオン兵のモビルスーツパイロットとして、地球圏有数の大企業であるアナハイム・エレクトロニクスの警備部に表向きは所属している。
「もう、あの戦争から十年も過ぎたのか」
現在の乗機、デミ・ドーガのコクピットでアランは呟く。
十年の月日はモビルスーツのコクピットを全天周囲モニターに変え、ムーバブルフレームにより装甲強度と内部構造の複雑さを両立させる次世代のモビルスーツを作り出した。
アラン・ダレンの心と異なり、技術の進歩は留まることを知らなかった。
「アラン隊長、もうすぐ不審船の報告があった宙域に入ります」
アランの乗るデミ・ドーガの隣に、一機のモビルスーツが並ぶ。
その機体の名はジム・グランツァ。搭乗者は一年戦争からアランの部下であった女性、マリア・リアスであった。
「わかった。……資源衛星の付近で目撃された不審船の捕縛に、モビルスーツを二機も使うとは。上の考えることは分からないな」
「同感です。ただ、我々は名目上、アナハイム・エレクトロニクスの警備部に所属していますから、これが本来の任務なのですが」
マリアの乗るジム・グランツァはジムⅢの後継機として設計された試作機であり、本来ならば『ジムⅣ』の名を冠していた機体である。しかし、量産機というにはあまりに生産、運用コストが高くなりすぎていることから、地球連邦軍への制式採用は見送られていた。
そして、ジェガンという名機の完成によりジムⅣとなる道は完全に途絶え、今はこうしてアナハイムの表沙汰にはできない仕事に使われている。
「実際は、表沙汰にできないモビルスーツの試運転や、アナハイムが秘密裏に片づけたい揉め事の処理が大半だ。……ジオンの兵士だった頃から、大して変わっていないか」
「はい。今も昔も、私たち戦士は戦いから離れて生きられない────。隊長、正面方向。報告にあった通り、採掘用のものと思しき不審船です。資源の盗掘が目的でしょうか」
マリアの言葉を聞いて、アランは正面の不審船に意識を向ける。
アランはデミ・ドーガに搭載された改良型のフェダーイン・ライフルを構え、マリアもまた乗機であるジム・グランツァのビームライフルを構えた。
「単なる採掘船にしては、少し大きすぎるような気がしますね」
「……デミ・ドーガのフェダーインなら、ここからでもあの艦船を狙える。マリア、不審船への勧告を」
アランたちに与えられた任務はあくまで、不審船の捕縛である。
しかし彼やマリアは名目上こそアナハイム警備部に所属しているが、通常の警備部と異なり彼らはアナハイムにとって都合の悪い存在を抹殺することが許可されている。
そんなアランたちに不審船の捕縛という任務を与えた以上、アナハイム上層部はこの不審船を
アランもマリアも、そのことを十分に理解している。だからこそ、二人の声は戦闘を想定した緊張感のあるものへと変化していた。
それでもなお、まず初めに勧告を行うのは、なるべくなら流血を避けたいアランがいまの立場でできる精一杯の努力なのだ。
アランの意図を汲み取ったマリアは頷き、僚機のみに絞っていた無線を広域のものへと変える。
「こちらは、アナハイム・エレクトロニクス警備部。この周辺宙域に存在する資源衛星はすべて、アナハイムの管理下にある。立ち入りの許可されていない採掘船は直ちにこの場を────」
しかし、マリアの勧告はすべてを言い終えるまでに無駄となった。
採掘船後部のハッチが開き、その内部から武装したモビルスーツが一機、姿を現したのである。
「盗掘者がモビルスーツだと!」
「敵機視認、ザクⅢです! ミノフスキー粒子の濃度、上昇中!」
「マリアは船の方を頼む!」
アランが指示を飛ばしてすぐ、彼に向かって採掘船からザクⅢがスラスターを全開にして突撃。
ザクⅢのスラスターの噴射が青い尾となって宙を引き裂き、凄まじいスピードでアランの乗るデミ・ドーガめがけて突っ込んだ。
「……ッ! ビームサーベルでは!」
ビームサーベルへの持ち替えが不可能と判断したアランは、フェダーイン・ライフルの銃床部を槍の穂先のようにして構える。
すると、その銃床部からやや短いビームサーベルが形成され、狙撃用のフェダーイン・ライフルが瞬く間に近接戦闘用の槍となったのだ。
直後、デミ・ドーガの頭部めがけて振り下ろされたザクⅢのビームサーベルと、デミ・ドーガのフェダーイン・ライフル付属ビームサーベルが衝突する。
鍔迫り合いをすることなく一合、二合と切り結ぶ。
ビームサーベル同士の力場が何度も激しくぶつかった。アランの全天周囲モニターには頭長高21メートル、全高およそ24メートルの巨大な人型兵器が映し出されている。
全天周囲モニターに映し出されているのは実際の映像ではなく、それらをリアルタイムで再現したCGであるとアランは十分に理解しているが、それでも自身の前に殺意を持った巨兵がいることに強烈な圧を感じていた。
圧に心を潰されぬよう、歯を食いしばるアラン。
そして一瞬の衝撃が二つのモビルスーツを駆け抜けた後、大きく反発した力場が二機をわずかに離す。
「間一髪か……!」
しかし、いまだ二機は互いのビームサーベルがコクピットを貫ける位置を維持しており、ほんの少しの油断やミスが命取りとなり得る必殺の間合いであった。
ザクⅢは次なる手として、より距離を離して
この戦いに時間を割きたくなかったのか、或いはアランを白兵戦では仕留めきれぬと悟ったのか。
それが悪手だったとザクⅢのパイロットが知ることになるのは、数瞬後だった。
直後にデミ・ドーガの左腕から伸びる一本のワイヤー。
そこから、モビルスーツの電子機器はおろか、コクピットにいるパイロットすら感電させる電流が放たれた。
バシッ、とザクⅢの身体が一瞬の電光をまとう。
為すすべなく電流にやられ、一時的に動きが完全に停止するザクⅢ。中のパイロットはすでに死んでいる可能性もあった。
「恨むな、とは言わんさ……」
だが、ここで慈悲をかける者は戦場で長生きできない。
槍で心臓を突くように、アランは銃剣のようになったフェダーイン・ライフルでザクⅢのコクピットを貫く。
そこに余計な手心などない。
回避する術を持たなかったか、或いはもう息絶えていたのか。
ザクⅢは介錯といえるほど、潔くそれを受け入れる。
アランがフェダーイン・ライフルをゆっくり引き抜くと、先ほどまで確かに人が乗っていたコクピットはぽっかりと穴が空き、その周囲がバチバチと閃光を散らして蒸発しているのがよく見えた。
勝負は決した。
明日は我が身か、と思いながらアランは難なく採掘船を確保していたマリアの方へと向かう。
これが一年戦争を経て、今も続くアラン・ダレンの日常であった。
彼はジオンの兵士から雇われの傭兵となり、生きるために命のやり取りをしているのである。
戦うことしか知らず、戦うことでしか生きていけない者。
この宇宙世紀では珍しくない、戦士と呼ばれる者の一人であった。
【挿絵表示】
この素晴らしいデミ・ドーガの設定画は、あーてぃ様(TwitterID:@RT_DESU)からいただきました!
いや、もう本当に感謝というしかありません。
お話の中だと曖昧なイメージでしかなかったデミ・ドーガも、これでかなり明確で美麗なものを与えてあげられたかなと思います。
あーてぃ様、ありがとうございます。