一年戦争。
地球から宇宙を支配する地球連邦軍と、それに反旗を翻したスペースコロニー・サイド3のジオン公国軍との戦争。
この戦争では数十億もの尊い生命が失われ、コロニー落としによって地球は傷つき、宇宙と地球の双方に深い傷跡を残した。
そして、宇宙世紀0080、1月2日。
ジオン敗北の報せが、各地で戦う兵士たちのもとに届く。
その停戦命令を受け、ジオンの兵士たちは様々な反応を見せた。
ある者は嘆き。
ある者は安堵し。
ある者は怒りと憎しみを蓄え、闇へと潜った。
それは、月面都市グラナダできたる地球連邦軍との戦いに備えていた、アラン・ダレンたちのグラナダ駐留軍も例外ではなかった。
「停戦命令が出たのに、何故ザクが動いているんだ!」
アラン・ダレンは未だ戦いを続けようとするザクⅡのパイロットを止めようと、生身で武装も持たずに立ちはだかる。
モビルスーツ格納庫にいた者たちの多くは、その成り行きをただ見ていた。
「どいてください、アラン隊長! グラナダの本部からの放送は聞いたでしょう! あの停戦命令は偽物で、まだ戦いは続いているんですよ!」
「馬鹿なことを言うな! 戦いはもう終わった! ザビ家の連中は死に、ジオン公国は共和国になった! この戦争は、ジオンの負けなんだ!」
「じゃあ、この戦いはなんだったんですか? 多くの人が死んだ、この戦いは何の意味があったんですか!」
ザクⅡのパイロットの慟哭が、格納庫に木霊する。
その嘆きにこもる行き場のない怒りと悲しみは、アラン・ダレンにも十分に伝わった。
そしてこの怒りと悲しみは、この格納庫で事態を見守る整備士や兵士たちの心にも燻っているものだ。
しかし、だからこそアラン・ダレンは告げなければならない。明確に、そして淀むことなく。
「……この戦い自体の意味は、ないだろう。この戦争で死んだ命のほとんどは、この戦争がなければ
この終わった戦いに、続ける価値などないのだと。
「だが、そんな過酷な戦いを生き延びた俺たちの記憶は、何か価値のあるものに、意味のあるものにできるかもしれない。……そうするためにも、この戦争はもう終わりにするべきだと俺は思う」
モビルスーツにとって、ノーマルスーツを着用しただけの人間などちり芥に等しい。
握りつぶす。
弾き飛ばす。
武装で薙ぎ払う。
いくらでも、アランを排除する方法はあった。
「────頼む。もうこれ以上、
だが、ザクⅡのパイロットには、それができない。できるはずがない。
ザクⅡのパイロットは涙を流し、操縦桿から手を放した。
ザクⅡのコクピットハッチが開き、内部から先ほどのパイロットが姿を現す。
彼はザクⅡのハッチの上で立つと、アランに対して敬礼を行った。
その敬礼は、格納庫にいた者全員に波及した。
一人、また一人とアランに対して敬礼を行う者が増える。
ジーク・ジオンという呪いの言葉のない、ただ静かな敬意の表れ。
アラン・ダレンの周りには、それが満ちていた。
「ひやひやしました、アラン隊長。隊長は時折、無茶なことを迷いなくやるところがある」
「本当ッスよ。俺なんて、もうちょっとでリック・ドムに乗り込むところだったんスよ」
アランに近づく、マリア・リアスとジャン・ミンウェイ。
この二人はアランが一年戦争で得た数すくないものであり、かけがえのない信頼できる部下であった。
「すまない、二人共。……ここから更に無茶をする、と言ったら怒るか?」
二人に対し、
そんなアランの様子を見て、マリアとジャンはやれやれと肩をすくめるも、敬礼をしてアランの言葉に答えた。
「反対する意味を見出せません。是非お供させてください、アラン・ダレン隊長」
「同意見ッス。こんな学徒兵のクソガキでよければ、隊長の力になるッスよ」
「……助かる。心から感謝するよ」
アランは自身の前で先ほどまで動いていたザクⅡのコクピットに近寄り、そのパイロットの肩を軽く叩く。
「そういうことだ。すまないが、このザクⅡを少し借りるぞ。武装はこの場に置いていくが。たしか、あの戦争継続の放送を行っていたグラナダの司令部は、ここから北東のターミナルだったかな?」
「は、はい! ですがアラン隊長。自分の聞いた話では、司令部では既に武装蜂起の準備がほぼ完了していると。そんな状態の場所に、丸腰のザクⅡ一機ではあまりに無防備……」
「いいんだ。俺には頼れる部下が二人もいるからな。……それに、もう戦いは終わったんだ。武器はもう要らない」
そう言うと、アランはザクⅡのコクピットに乗り込んだ。