グラナダの北東ブロックに位置するターミナル。
この場所に、月面都市グラナダに駐留していたジオン公国軍のなかで、即時停戦を是としない者たちが集まっていた。
リック・ドムやザクⅡ。
それどころか運搬作業用に使われていたザクⅠすら引っ張り出して、バズーカやザク・マシンガンなどの武装を持たせていた。
モビルスーツさえないものはジオン公国のノーマルスーツを着用し、雑多な銃火器を装備して整列している。
そして、そこに集まったものの大半は、寄せ集めのモビルスーツと同様に寄せ集めの軍隊であり、地球連邦軍に対する徹底抗戦を断固として唱えている者など少数であった。
月に駐留していた間に戦争が終わってしまった、やるせなさ。
敗戦という現実を受け入れたくない、逃避。
そういった自棄にも似た、行き場のない感情をどうにか発散するために集結している者が大半であった。
「────この場に集まった皆は、卑劣なる地球連邦政府の傀儡となったジオン共和国から発せられた、愚かな停戦命令に抗う闘志と信念を持つ者だと、私は理解している」
整列した兵士とモビルスーツたちを前にして、この司令部の長であるジオン公国軍の将校が演説を行っている。
その将校が搭乗しているのは、ⅯS―14ゲルググ。
最新鋭のモビルスーツに乗り込み、広域通信で司令部の外にも徹底抗戦を呼びかけている。
「我々の戦争はまだ終わっていない! ジオン公国の、そしてスペースノイドの戦いは、我々が最後の一人になっても続く! どれだけの犠牲が伴おうと、我々が戦う意思を────」
「……その犠牲がどれだけ悲しいものか、お前は一度でも直視したことがあるのか!」
そのゲルググの近くに、一機のザクⅡが着地する。
搭乗者は、アラン・ダレン。
アランの駆るザクⅡは射撃武装どころか、ヒートホークすら装備していない。
対するゲルググは、バズーカとビーム・ナギナタを装備しており、そもそもの機体性能すらザクⅡを凌駕している。
一年戦争終盤に作られたゲルググは、その基本性能だけなら地球連邦の伝説の機体、ガンダムと同等であるとも言われた高性能機体なのだ。
武装があったとしても、勝ち目の薄い相手だった。
「犠牲はもう、十分だ。そんなことはもっと早くにみんな気づくべきだった。それを、お前のような連中が誤魔化してきたから、こういうことになったのさ。こんな茶番で、人を戦争に誘うのはやめろ」
しかし、アラン・ダレンはそれに臆することなく対峙する。
整列していた兵士たちの間に、動揺が広まっていく。
「貴様……、アラン・ダレン曹長だな。誇り高きジオン軍人にあるまじきその敗北主義的発言。粛正されても文句は言えんぞ?」
「覚悟の上だ」
ビーム・ナギナタを構えるゲルググ。
一方のアランは、動揺して立ちつくしている兵士たちの方を一瞥する。
「マリア、兵士たちを下がらせてくれ。……すぐ終わる」
「了解です。ご武運を、隊長」
部下のマリアが先導して、兵士たちをモビルスーツ同士の戦闘に巻き込まれにくい距離まで後退させたのを確認すると、再びゲルググの方を向き直った。
「余裕だな、周りを気遣うとは」
「当たり前だろう」
これ以上の話し合いは意味がないと悟った将校は、ザクⅡの腕部を切り落としてアランの戦意を喪失させるべく、先制攻撃を仕掛ける。
ビーム・ナギナタを回転させ、攻撃の軌道を読めなくしたうえで上段に振りかぶった。
そこで、アランのザクⅡの足元で
「大層なモビルスーツの割に、実力はてんで駄目ッスね」
その正体は、歩兵用のバズーカを構えたジャン・ミンウェイだった。
狙いは、ゲルググの振り上げられた腕部の関節部分。
バズーカから発射された弾頭は、見事にゲルググの右腕部の関節に直撃。右腕部の操作が利かなくなったゲルググの態勢が僅かに崩れ、攻撃のタイミングがずれた。
直後、アランの搭乗するザクⅡの放った右ストレートが、ゲルググの頭部を捉える。
「ぐぉぉっ、馬鹿な!」
当然ながら、ザクⅡの右手も砕けるが、メインカメラを失ったゲルググに比べれば大した損害ではない。
そのままザクⅡは間髪入れずに右前蹴りを放ち、ゲルググを地面へと蹴り倒した。
約19メートルの巨体が、地面へと仰向けに倒れる。
そして、とどめと言わんばかりにザクⅡはゲルググの残っていた左手も踏みつぶし、ゲルググ対ザクⅡという前例のない戦いは、あっけなく幕を閉じた。
「対決に部下を使うとは、卑怯な……」
そんな彼の前には、拳銃を構えたジャンが待っていた。
「卑怯? 卑怯ってのは、大層な御託並べて部下を無闇に死なそうとする、テメーみたいなことを言うんスよ」
将校の身柄を荒っぽく拘束するジャン。
その近くで、ザクⅡのコクピットからアラン・ダレンが兵士たちに呼びかける。
「この戦争で、何が生まれた! 何が得られた! 何も生まれていない! ただ無闇に大勢の命が消えて、誰も彼もが傷ついただけだ! 続ければ、もっと多くの命がなくなる! 戦友も、故郷も、何もかもなくなっていくだけだ……!」
先ほどまで武装蜂起に賛同していた兵士たちは、黙ってアランの言葉を聞いていた。
「……戦いはまた起こるかもしれない。だが、今はもう終わりにしよう。死んでいった者たちを思えるのは、いま生き残った俺たちだけなんだ」
マリアも、ジャンも、アランの言葉に耳を傾けている。
「これは命令じゃない。もうジオン公国はないからな。襟につけた階級章ではなく、この悲惨な戦争を生き延びた同じ一人の戦士として」
アラン・ダレンの声を、この場の誰もが聞いていた。
「頼む。もう戦う意味のない戦争は、やめにしよう」
──時は、宇宙世紀0080。1月2日。
月面都市グラナダでの、駐留軍武装蜂起は未然に阻止された。
この出来事と、アラン・ダレンの名前が、記録に残ることはなかった。