「もしもし、アランさんですか? はい、リン・サザナミです。いま、グラナダのモビルスーツ工場にいるんです。やっぱり、アナハイムの工場ってすごく大きいですね。格納庫ひとつとっても、整備中のモビルスーツがぎっしり」
月面都市グラナダのモビルスーツ格納庫から、リン・サザナミが端末で通話していた。
端末の向こう側にいるのは、ストラダーレ号できたる資源衛星B79での決戦に備えていたアラン・ダレンたちである。
『グラナダか。そこで働いているメカニックには知り合いが多い。警備部のアラン・ダレンの友人だと言えば、ちゃんと案内してくれるはずだ』
「ご友人が多いんですね」
『その辺りのメカニックには、元ジオン系企業の者も多いんだ。一年戦争の頃からの付き合いさ。……それで、何かあったのか?』
すこしためらうように端末から目を逸らすリン。その綺麗な瞳と顔には、少なくない同様の色が表れていた。
「……なんだか、胸騒ぎがして。いま話しておかないと、取り返しがつかないことになる。そんな気がしたんです。何となく、そういう予感ってあるでしょう?」
『それは……』
困ったように頭を掻くアラン。
そんなアランを押しのけて、マリアが通話画面を占有する。
マリアは常に仏頂面で感情を表に出さない性格だが、今の彼女は珍しく不機嫌そうに目を細めていた。
『ご心配には及びません、サザナミ嬢。アラン隊長は
『あのー……、マリア副隊長。一応、自分もいるんスけど』
『貴方は自分の身くらい、自分で守れるでしょう。そういう甘えは、身を滅ぼしますよ』
端末の向こうで繰り広げられる光景を見て、リンは思わず笑ってしまった。
この人たちが一緒なら大丈夫だろうという安心感が、リンの心を落ち着かせる。
それと同時に、いまリン・サザナミという人間がこの端末の向こう側に、ストラダーレ号にいないという事実にやりきれない無力感を覚えていた。
「うらやましいです。そういう、守れる強さを持っている皆さんが」
『大丈夫だ。戦い以外に、人を救う方法なんて幾らでもある。キミは賢く、俺たちのような戦士とは別の強さを持っている。それを活かしてみるんだ』
「別の、強さ……?」
アランの言葉に、伏せていた目を上げるリン。
『そうッスよ。殺し合いなんて、しない方がいいに決まってるッス。それより、アナハイムより待遇の良い転職先を自分たちに紹介してくれる方が、よっぽど助かるッス』
『ジャン、そういう話をしているんじゃ……』
そのジャンの言葉を聞いて、リンは何かを思いついたようだ。
「任せてください。こう見えて、サザナミって地球だと結構大きな企業なんですよ。皆さんなら、警備部門か技術部門に推薦できると思います」
『いや、今のはジャンの冗談で、そもそもこの仕事はそう簡単に……』
「その辺りは、父に頼んでどうにかします。いえ、してみせます。その代わり……」
リンは両手で端末の左右を掴み、端末の向こう側で困惑するアランの目をまっすぐに見る。
「絶対に、次のお仕事も生きて帰ってきてください。詳しい事情は何も知りませんけど、絶対に生き延びてください」
リンは、心のどこかで感じていた。
この人たちは、今から大きな戦いに赴く。
生半可なものではない、死と隣り合わせの戦場へと向かうのだと。
だからこそ、まるで縋りつくようにリン・サザナミという少女は願う。
「約束です。わたしが、皆さんにもうひとつの未来を用意します。だから、その未来を生きられるように、現在を生き延びてください」
約束という言葉で、どうにかアランたちを繋ぎとめようとするのだ。
『……あぁ、分かった。約束する。俺も、マリアも、ジャンも。必ず、生きて帰る』
「はい、待ってます」
そして、アランたちとの通信は切れた。
「どうだった、アランくんの様子は」
「はい。きっと、あの人たちなら大丈夫です」
「そうか……。ああいう、気の良い男には少しでも長く生きてほしいものだが」
リンは彼女の父、アキオ・サザナミと合流する。
アキオは、自らのあごひげを撫でてアランの身を案じた。
「アラン……? ひょっとして、お二人はアラン・ダレン隊長とお知り合いなんですか?」
偶然、サザナミ親子の会話を聞いていたメカニックが、二人に近寄る。
「そうだが、それがどうかしたかね?」
少し思案するメカニック。
そして、何かを決心した彼は、ゆっくりと話し始めた。
「お願いします。アラン隊長を、助けてもらえませんか。このままじゃあ、あの三人は絶対に生きて帰れない」
あまりに唐突な話に、アキオとリンは目を開いて驚く。
「それは、一体どういう……」
「クソッタレの上層部は、このサイコフレームにまつわる一件を、まるごと闇に葬るつもりなんです。ここじゃあ、誰に聞かれるているか分からない。こっちへ」