機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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幕間 資源衛星B79停泊中のグワンバン級戦艦内部

 資源衛星B79、周辺宙域。

 この場所はいま、カミロ・カーダ率いるネオ・ジオン残党部隊『ハルパー部隊』によって占拠されていた。

 この資源衛星を、月面の都市へと落とすために。

 

「……アナハイム側の回答は?」

 グワンバン級戦艦、グワイガンの艦橋(ブリッジ)で腕を組んで立っている男。

 カミロ・カーダ。

 かつてアラン・ダレンの戦友であり、いまは不俱戴天の敵となってしまった男だ。

 部下の一人がカミロの前で敬礼し、現状を報告する。

「何度も回答を迫っていますが、その度に上層部間の意思決定がまとまっていない、などとはぐらかしています」

「アナハイムらしい。……B79の落下準備を急がせろ。もうすぐ刻限の48時間だ。一秒でも刻限を過ぎた瞬間、資源衛星を落とせるようにしておけ。()()()()()()()()()()()()に、一泡吹かせろ」

「はっ! 了解しました!」

 部下の敬礼を見ることなく、カミロは艦橋を後にする。

 向かう先は、戦艦グワイガンのモビルスーツ格納庫。

 カミロは通路を進み、格納庫へと向かう。その途中で何人かの部下に出会うが、誰も彼もがカミロに敬礼をするのみで、話しかけようとはしない。

「おやぁ? そこを行くのはカミロの旦那。旦那もサボりですかい?」

 ア・バオア・クー陥落の時からカミロと行動を共にしている戦争狂、サルバ・ダグランを除いて。

「貴様とは違う、ダグラン。自分の乗機を見に行くだけだ。……戦いに気持ちを集中させたい」

()()、ですかい? よほど、あのおかしなモビルスーツが気に入ったんですね」

 からかうサルバに対して、カミロはそれ以上言葉を返さなかった。

 からかい甲斐のなさに辟易するダグランを後目に、カミロは思う。

 彼の乗機。カミロがアナハイムから受領したあのモビルスーツがあれば、もはや誰にも負けることはないだろうと。

 人の心に反応する素材、サイコフレーム。

 そして、それを兵器として活用するために作り出されたモビルスーツ。

 それが、いまのカミロの乗機であった。

 自動扉が開き、カミロとダグランはその未知なるモビルスーツの前で止まる。

 整備していたスタッフがカミロとダグランに気づいて敬礼するが、カミロはそれを気にも留めない。

 彼の目に映るのは、一機の黒いモビルスーツだけ。

「もうすぐ、戦いだ。お前の力を見せてみろ、ドライベロス……」

 

 ⅯSN―XX、ドライベロス。

 

 アクシズを拠点としたネオ・ジオンの最新鋭モビルスーツであるドライセンを元に、サイコフレーム搭載のニュータイプ専用機としての改良を加えられた機体である。

 ドム系統のモビルスーツにある特徴的な頭部デザインや、肩部および腰部のアーマーこそあまり手を加えられていないが、それ以外はほとんど別物となっていた。

 増設された脚部スラスターと、改良型の背部プロペラントタンクにより、機動力が大幅に強化。

 ドライセンにはなかったラージシールドには、ハルパー部隊の象徴である刀身が鎌のように大きく湾曲した武器、『ハルパー』が描かれている。

 ジェネレーター出力も強化され、その強化された分のパワーを腹部の内蔵火器であるビーム砲へと回すことも可能となっている。

 

 しかし、カミロ・カーダが最も信頼を寄せるものは、()()()()()()()()()()

 

「たしか……、ファンネルでしたっけ? ハマーンのキュベレイにも搭載されていた、ニュータイプのための武装。オールレンジのビット兵器とは、厄介極まりない」

 近くでドライベロスを見上げるダグランが言う。

「……ドライベロスに搭載されているのは、その改良試作型だ。キュベレイに搭載されているよりも、さらに精密な動作が可能になり、かつ高出力のビームを放てる」

 その弱点として、わずか二つという搭載数のためにビットの使い捨てが許されない点や、ビット内部のエネルギーが枯渇した際は有線に切り替えて使用しなければならない点もあったが、カミロにとっては些事だった。

 ニュータイプしか乗れない機体に、自分が乗れる。

 カミロ・カーダはニュータイプである。

 そのことがカミロにとっては最も重要だった。

 

「で、おまけにサイコフレームで敵の脳波を増幅させて感知できるから、敵からの攻撃は躱しやすい、と……。なるほど、これならあのアラン・ダレンも余裕でしょうなぁ」

 アラン・ダレン。

 その名を聞いたカミロの精神が逆立つ。

「貴様はアランと、あの大馬鹿と戦ったのだろう。なら理解したはずだ。そういう装備の差だけで殺せるほど、ヤツは甘くない」

「えらく評価してますね、ヤツを。旦那の名前を出しただけで動揺するような、甘ちゃんですよ」

 先ほどまでドライベロスにしか向いていなかったカミロの目が、ダグランをぎろりと睨む。

「侮るな。アラン・ダレン、ヤツの機械に対する理解度の早さは本物だ。そして、その理解度を戦いの中で活かすこともな。──ヤツは、俺が殺す。ダグラン、貴様には露払いを任せる」

「マジですか? 歯ごたえのある戦争、できるかね」

 わざとらしく肩を竦めて残念がるダグラン。

「まぁ、いいさ。このザク・トーテンコップ改で存分に暴れまわれるなら、相手が誰でも関係ねぇや」

 サルバ・ダグランの乗機であるザク・トーテンコップもまた、アランのプルス・ディアスとの戦いを経て、改修されている。

 もっとも、改修といっても消耗した装甲の換装や、失った武装の補充だけだが、モビルスーツを単なる戦争の道具として見ているダグランにとっては、それで十分だった。

 

「アナハイムの連中、どれだけ兵隊を送り込んできますかね?」

「おそらく、そう大勢は送り込んでこない。ヤツらはこちらをネオ・ジオンの残党が集まっただけの愚連隊だと思っている。むしろ、サイコフレームの一件を闇に葬ることの方が、アナハイムにとっては重要だろう」

「なら、アラン・ダレンたちも……」

 そこから先を、カミロもダグランも語らなかった。語らずとも、理解していたからだ。

 この資源衛星B79を巡る戦いは、単なるアナハイム対ハルパー部隊の戦いでは終わらないと、カミロは確信していた。

 これは、この宇宙世紀を生き残るニュータイプは誰なのかを明確にする戦い。

 そして、これまでのニュータイプとオールドタイプの対立に終止符を打つ戦い。

 カミロ・カーダの中で、この戦いはそういう戦争だと定義されていた。

「アラン・ダレン。貴様も所詮、オールドタイプだったということだ」

 再び、禍々しく佇むドライベロスを眺めるカミロ。

「ニュータイプこそ、新しい時代の旗手足り得る。この戦いは、その事実を地球圏に知らしめるだろう」

 

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