機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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決戦前 ストラダーレ号にて

 航宙輸送艦ストラダーレ号。

 決戦の地、資源衛星B79へと向かうその船に、アランたちは乗っている。

 モビルスーツ格納庫でアランとマリア、ジャンの三人がノーマルスーツを着用して集まり、各々のモビルスーツを前に最後のブリーフィングを行っていた。

「資源衛星B79には元々、場所を他に移す計画があったんだ。粗方、資源を取りつくしたということでな。そのために核ノズルをつけていたが、それが仇になったな」

「繰り返しますが、B79自体は衛星というのも大袈裟な小さいものです。ただ、フォン・ブラウンのような月面都市に落とせば、壊滅的な被害を与えることは可能かと」

 アランとマリアが端末を片手に説明する。端末には核ノズルをつけられたB79の立体図が映しだされていた。

 その説明を聞きつつ、アランの端末を横から覗いてうんうんと頷くジャン。

「じゃあ、要はその核ノズルを壊せば衛星は動かせないってことッスか」

「単純に言えば、な。だが、闇雲に壊せばいいというものではない。核ノズルの制御部分を破壊する必要がある。俺たちの機体でそういった精密な遠距離射撃が可能なのは、マリアのデミ・ドーガが持つフェダーイン・ライフルだけだ」

 アランたちの持つ端末に、核ノズル破壊のシミュレーションが表示される。

「形だけなら、大きめの石ころみたいッスね」

「その通りだ。ただし、核ノズルが取り付けられ、月面都市に落とされる可能性のある石ころだが。一度動き出せば、フォン・ブラウンには数時間で落下する。……動き出す前に止めたいところだ」

 

 端末に表示される画像が、資源衛星B79からハルパー部隊の旗艦であるグワンバン級戦艦に変わる。

「そして、これが俺たちの最大の障害となるグワンバン級戦艦だ。全長はおおよそ415メートル、搭載可能モビルスーツは十八機。内部にはドライセンにズサ、バウなどのアクシズ製高性能モビルスーツが詰め込まれているはずだ」

「工業コロニーで戦った寄せ集めとは、一線を画する機体ですね。パイロットの練度は不明ですが、()()()で潰していくのが得策かと」

 マリアの提案に、アランがマリアの方を見て頷いた。

「通常のモビルスーツには、その作戦で十分だろう。……問題は、カミロの機体だ」

 カミロ・カーダ。

 かつて、アラン・ダレンの戦友だった男。

 アランたちがカミロの搭乗する機体について知っていることは、あまりに少なかった。

「パイロットの脳波に感応する新素材を使った得体のしれない機体……、というジャンの情報以外に何も分からないからな。ハマーン・カーンが乗っていた、キュベレイのようなものかもしれない」

「サイコミュ兵器、というものですか。私も直接見たことはないですが、一年戦争の頃からそういった兵器の開発は進められていたとか。我々が戦ったことのない機体ですね」

 アランとマリアが、またしてもしかめ面で思案する。

 

 この二人のこういった真面目、というより考えすぎる性格は似ているなと思いながら、ジャンは場の重たい空気を変えようとアランに話を振った。

「まぁ、分からない機体のことで悩んでもしょうがないッスよ。それより、そのカミロって敵のリーダーは、アラン隊長の知り合いなんスよね? どういうヤツなんスか」

「カミロか? ヤツは……」

 ジャンの問いに、しばらく考え込むアラン。

 一方のマリアは、無神経にアランの訳ありな過去へ踏み込んだジャンの脇腹を肘で小突く。

「いったぁ! 何するんスか、副隊長!」

「貴方は配慮というものが致命的に欠けていますね。もう少し、聞き方というものがあるでしょう」

「そんなこと言ってたら、マリア副隊長は一生聞かないじゃないッスか。敵の貴重な情報は、なんでも手に入れておくべきッスよ。あと、そうやって遠慮ばっかしてるから、サザナミのお嬢さんに先を────」

 すべて言い終わるより先に、マリアからヘッドロックをキめられるジャン。

 

「カミロは……、モビルスーツの操縦に関して、俺の先生だった。俺よりも年齢は上だったが、対等でいいと言ってな。お前にはニュータイプの素質があるといって、随分と訓練に付き合わされたよ」

 ゆっくりと、アランがカミロについて話し始める。

「単なるモビルワーカー乗りの小僧だった俺を、ジオン軍の兵士として育てたのはヤツだ。モビルスーツの操縦、兵士としての心構え、そして戦場での生き残り方。色々なことを教わった」

 騒いでいたマリアとジャンもぴたりと動くのをやめ、黙ってアランの話を聞いていた。

「経歴も何もない俺が、突撃機動軍でモビルスーツに乗れたのも、カミロの推薦があったからだ。ヤツの父親も軍人だと言っていたから、()()()()を使ったんだろう。……当時から思い込みや感情の起伏は激しいヤツだったが、俺にとっては良いヤツだった」

 マリアたちに話しながら、アランはカミロからの言葉を思い返す。

 

 兵士として、相手の命を奪う覚悟が、戦いの中で命を殺すという覚悟がお前には欠けている。

 誰かを殺して生き残る。戦場とはそういう場所だ。

 戦場での迷いは、自分だけでなく味方の死をも招く。

 

 カミロ・カーダの言葉は、かつて兵士だったアラン・ダレンにとっては絶対の指針だった。

 だが、いまはそうではない。

 信頼する部下が。

 偶然出会った少女と、その父親が。

 巡り合った多くの人々が。

 アラン・ダレンという人間の生き方と考え方を変えてきた。

 アランはもう、()()()()()()()()()()()のだ。

「カミロはおそらく、一年戦争の頃から何も変わっていないんだろう。変われなかったんだろう。ヤツはずっと、戦場にいるんだ。オールドタイプとの戦いを続けるニュータイプとしてな」

 アランはまずマリアとジャンの方を、次にプルス・ガンダムを見る。

「ヤツの戦いに終止符(ピリオド)を打つのが俺の運命だというのなら、願ってもないことだ。かつての戦友として、それが最後に果たせる役目なんだろう」

 ガンダム。

 何かへの抵抗の象徴。

 乗る者の願いや思いを成就させる力を与える存在。

 この機体に乗る覚悟を、いまのアラン・ダレンは持っていた。

「カミロとの戦いは、俺に任せてくれ。マリアは核ノズルの制御部分を狙撃。ジャンはその援護と、余裕があれば核ノズルの燃料タンクを叩いてくれ。……無理はするな」

 

「「了解」」

 

 力強く、マリアとジャンが応える。

 それと同時に、格納庫内にブザーが鳴り響く。資源衛星B79が、モビルスーツでも到達可能な距離に近づいていることを知らせる音であった。

「初めてかもしれないな。誰かの希望のために戦うのは」

「……はい。必ず、生きて帰りましょう」

「もちろんッスよ。妹の子供の顔もまだ見てないッスからね」

 三人の戦士が、モビルスーツのコクピットへと向かう。

 後世に語られることはない決戦が、始まろうとしていた。

 

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