「資源衛星、B79周辺宙域です。ミノフスキー粒子の散布を確認、通信およびレーダーに障害が発生し始めるのは時間の問題です」
マリア・リアスの声。通信が不安定になり始め、彼女の怜悧な声にもノイズが混じり始めていた。
航宙輸送艦ストラダーレ号、格納庫の側面が開く。
プルス・ガンダムが発艦用のカタパルトについていた。
「基本は変わらない。俺が切り込み役、ジャンがその後に続き、マリアが後方から狙撃および援護を行う。敵のガトリング砲を使うザクⅢと遭遇した場合はマリアとジャンが、カミロと遭遇したときは俺が受け持つ。最重要目標は、あくまで資源衛星の核ノズル破壊だ」
プルス・ガンダムのコクピット内部で、リニアシートに座っているアラン・ダレンが深呼吸をする。
決戦。
初めてモビルスーツに乗り、戦場を駆けたときよりも心拍数が上がっていることに、アランは気づく。
緊張しているのだ。
はっきりと、アランは自覚していた。
戦友との戦い。これまでにないほどの、大規模戦闘。
一年戦争を最後に、アランが生き延びてきたものは、
それでも、このガンダムで、戦場と化した
「……できるとも、いまの俺なら。迷いはもう、振り切った」
背負った希望。
リン・サザナミとの約束。
部下たちの命。
自身の過去との決着。
プルス・ガンダムのパイロット、アラン・ダレンの姿がそこにはあった。
「────アラン・ダレン。プルス・ガンダム、出るぞ!」
強烈なGがかかり、カタパルトがプルス・ガンダムを加速させる。
スラスターから出る青い光の尾を黒い宇宙に引きながら、アランの乗るプルス・ガンダムはまっすぐに資源衛星B79へと、対峙すべき戦友の元へと向かっていく。
その後ろを、マリアのデミ・ドーガとジャンのジム・グランツァが追随していた。
「通信が不可能になる前に、お前たちに伝えておく。──資源衛星を停止させたら、すぐにこの宙域を離脱しろ。ストラダーレ号に到達できるくらいの推進剤は残しておくんだ。これは、上官命令だ」
「……隊長! それでは────!」
はじめて、マリアが明確にアランの命令に異を唱えようとする。
「了解ッス」
しかし、それをジャンの力強い言葉が遮った。
「承服しかねます! 隊長を見殺しにはできません!」
「副隊長。こういうのは、男の意地の問題なんスよ。そのカミロってヤツと、アラン隊長は最後まで
自分には過ぎたるほど、良い部下を持った。
アラン・ダレンはいま、マリア・リアスとジャン・ミンウェイに心から感謝している。
「大丈夫だ、好き好んで命を捨てるわけじゃない。……それに、俺はガンダムに乗っているんだ。必ず生きて帰るよ」
「……っ。貴方は、またそうやって……!」
それから先を、マリアは喋らなかった。
聡明な彼女は理解してしまったのだ。
いまのアランは、自分の言葉では止まらないということを。
「レーダーが利かなくなった……。ミノフスキー粒子が濃くなったか」
プルス・ガンダムのコクピットで、アランが独り言を呟く。
「い……、いよ、敵の本丸……。暴れまく……、ッスよ」
途切れ途切れになる、ジャンの音声。
ノイズがひどくなっていることは、明らかだった。
ミノフスキー粒子が濃くなれば、遠距離通信は不可能になる。敵も味方も、至近距離まで近寄らなければ声ひとつ届けることはできないのだ。
無論、レーダーなども沈黙する。
頼れるのは、己の目と技術、そして戦士として磨き上げられた直感と戦術眼だけ。
そして、
「敵旗艦、グワンバン級! 前方!」
アランが吼える。
彼の目に小さく見える、一隻の赤い戦艦。
ハルパー部隊の旗艦、グワンバン級戦艦であった。
直後、アランは自身の右前方に動くものを視認する。
「──っ、ザクⅢか!」
アランに向けて、ザクⅢのビーム・ライフルが数発放たれる。
光の線がアランのすぐ横を奔り、アランはその殺意を感じながら回避運動をとった。
数発のビームを、アランはことごとく最小限の動きで避ける。その間に、近くにいたデミ・ドーガとジム・グランツァが散開。本格的に交戦状態へと入った。
アランは驚く。
プルス・ガンダムという機体の持つ、圧倒的な運動性能にではない。
「この機体、
理屈ではない。それでは到底、説明がつかない。
アラン・ダレンの感覚に、直接伝達される殺意の方向。敵が攻撃を行おうとしている位置が、いまのアランには何となくではあるが理解できるのだ。
「このガンダムの力……? だが、あまりに理屈を飛び越えている」
そうしている間に、今度は左前方からの殺意をアランは感じ取る。
彼は咄嗟にその方向へ、プルス・ガンダムが右手に装備していたクレイ・バズーカを放った。
まさかその速度で反応されると思っていなかったのか、ハルパー部隊のガ・ゾウムは回避する間もなく爆散。
次いで、先ほどのザクⅢを仕留めたデミ・ドーガとジム・グランツァが、プルス・ガンダムの近くへと戻ってくる。
「なんだ……、この機体は。まさか、脳波に感応する素材はこの機体にも……」
予想外の力。
機械のものとは思えぬほど、感覚に飛び込んでくる未知の性能。
アランはそれに困惑しつつも、この戦いでこれほど頼もしいものはないとも思っていた。
「こんなにも、感覚で戦場を把握したことはなかったな……」
少し、アランの心に余裕が生まれ始めた。
その瞬間。
黒い巨兵が、超高速で殺意を振りまきながら現れる。
理屈を語る必要はない。アラン・ダレンは、直感で理解する。
それはプルス・ガンダムに組み込まれた新素材、サイコフレームの為せる業なのか。或いは、宿命の対決がそうさせたものなのか。
「カミロ……! カミロ・カーダ!」
「見紛うことはないな、アラン・ダレン────!」
プルス・ガンダムと、ドライベロス。
アラン・ダレンと、カミロ・カーダ。
引き寄せられる二機のモビルスーツと、二人の戦士。
プルス・ガンダムの放ったクレイ・バズーカの弾を避け、ドライベロスはまっすぐに白兵戦を仕掛ける。
プルス・ガンダムは、バズーカを左手に持ち替え、ビーム・サーベルを右手に装備。
対するドライベロスも、左手にラージシールドを構え、右手のビーム・サーベルを振り上げた。
サーベルの力場がぶつかり、光が弾ける。
白いモビルスーツと黒いモビルスーツが、その光を挟んで向かい合った。
「ジオンの亡霊に、取りつかれたか!」
「ニュータイプの可能性を、捨てた男め!」