アラン・ダレンが、カミロ・カーダのドライベロスと死闘を繰り広げていた頃。
マリア・リアスの乗るデミ・ドーガと、ジャンが搭乗するジム・グランツァは、資源衛星B79の停止に向けて動いていた。
目標は、資源衛星に取り付けられた核ノズルの制御部分。
デミ・ドーガで狙撃するか、或いはジム・グランツァの火力で破壊するか。いずれにしても容易いことではなかった。
ハルパー部隊のモビルスーツと、その母艦であるグワンバン級戦艦がそれを阻止しようとするからだ。
「挟撃部隊の方は、どうなってるんスか……、ねぇ!」
白兵戦を制し、敵のガザⅮのコクピット部分をビームサーベルで切り払ったジム・グランツァ。そのコクピット内部でジャン・ミンウェイが言った。
全天周囲モニターによって与えられた広い視界をフルに使い、ジャンはそのまま周囲の索敵を行う。
彼はいま、遠距離狙撃を行おうとしているデミ・ドーガを護衛していた。
デミ・ドーガが、高精度のセンサー類を搭載した改良型フェダーイン・ライフルで狙うその目標は、グワンバン級戦艦。
その護衛に張りついている、ザク・トーテンコップであった。
「一応、仕事はしているようですね。あの禍々しいザクとその隣にいるドライセン以外に、敵がいないので。あのザクさえ落とせば、障害となるものはもういない……」
ジム・グランツァから繋がれた通信用ケーブルによって、ジャンとの通信を行うマリア。
ジャンとマリアが立てた作戦は単純明快であった。
まず、狙撃によってザク・トーテンコップを仕留め、次に接近してグワンバン級戦艦を沈める。そして、資源衛星の核ノズルへと近づき、確実に制御部分を破壊。
非常にシンプルで、ともすれば安直ともいえる作戦。
だが刻一刻と状況が変化し、ミノフスキー粒子によって相互の通信も不確実となった戦場では、高度な連携と味方の位置把握が欠かせない複雑な用兵は不可能だと、ジャンとマリアはアランから学んでいた。
「必ず仕留めてみせる。アラン隊長が、敵の最新鋭機と戦っているのだから……」
操縦桿を握るマリアの手にも、力が入る。
デミ・ドーガの全天周囲モニター前方には、高精度センサーによって高解像度で拡大されたザク・トーテンコップ、その隣でザク・トーテンコップへと通信ケーブルを出しているドライセンが映し出されていた。
時折、ヘルメットを被った兵士のような頭部をゆっくりと動かしているだけである。
不審に思ったマリアであったが、逡巡している余裕はない。
モニターに映るザク・トーテンコップに、マリアはフェダーイン・ライフルの照準を合わせた。
機体の姿勢を微調整し、マリアは深く息を吸って、吐く。
デミ・ドーガに搭載された精密射撃用プログラムと、長距離の狙撃を行えるように改良を施されたフェダーイン・ライフル。
そして何より、それらをより現場で使いやすいように手を加えたアラン・ダレンを、マリア・リアスは信じていた。
故に、それを撃つことに、迷いなどない。
当たる。マリアがそう思い、操縦桿のボタンを押した。
その瞬間。ザク・トーテンコップのモノアイが輝き、マリアの方向を見た。
刹那。
ザク・トーテンコップは味方であるはずのドライセンを
「そんな馬鹿な!」
「なにが起こったんスか、副隊長!」
盾にされたドライセンは、背部からコクピット部分にかけてを大きく焼かれ、一切の挙動を停止する。
そんなドライセンに目もくれず、ザク・トーテンコップはその驚異的なスラスター噴射によって、瞬く間にデミ・ドーガとの距離を詰めていく。
旋回と立体的機動を交えながら、敵の元へと飛び込んでいくその様は、まさに獲物を見つけた猟犬。
マリアの目では到底、その機敏な動きを捉えることはできない。
「ジャン、敵が来ます!」
「もう見えてるッスよ!」
ジャンがマリアとの通信ケーブルを切断した。
一方、ザク・トーテンコップは進行方向とは逆方向へとスラスター噴射を行うことで強引に機体を減速させて射撃姿勢をとり、その長大なガトリング砲をこれでもかと撃ちまくる。
横薙ぎに撃ち込まれたその弾幕をデミ・ドーガは下方へ、ジム・グランツァは上方へと咄嗟にスラスターを吹かすことで回避する。
下に逃げたのは悪手だった。
マリアは自身の身体へと襲い掛かる強烈なGに耐えながら思う。
「反省は……、あと……!」
歯を食いしばり、操縦桿を動かしてデミ・ドーガの姿勢を上へと向けるマリア。
そこにはもう、デミ・ドーガに向けてビームサーベルを振りかざすザク・トーテンコップの姿があった。
このままでは、死ぬ。
一瞬で、マリアの全身から血の気がサッと引く。
これまでの記憶が
──マリア・リアス。噂は聞いているよ、ジオン公国の建国にも関与した政治家一族出身の、
えぇ。軍隊とは、何とも嫌な場所ですね。そういう噂話が広まりやすいことも含めて。
気が合うな。実は俺も、つくづく軍隊というものに嫌気がさしている人間でね。だから君にも、戦場以外で命令する気はない。
俺と君は、人間としては対等だ。なら、兵士として戦っていないときは、対等に接してほしい。
……変わった人、ですね。
「────マリア!」
誰かの叫ぶ声で、マリア・リアスは我に返る。
だが、彼女を
彼女のモニターに映っていた光景は、ザク・トーテンコップと鍔迫り合うジム・グランツァだった。
「……テメェ、ナメた真似してんじゃねぇぞ!」
「おいおい。こっちのジムもどき、随分と活きが良いなぁ!」
ガトリング砲を上方に避けたジム・グランツァ。
しかし、デミ・ドーガへと詰め寄るザク・トーテンコップを見た瞬間、ジャンの身体は思うよりも早く、デミ・ドーガの元へと駆けるべく、スラスターを全開にしていたのだ。
ジム・グランツァはその基礎設計がとても古い機体である。
当然、コクピット内部の耐G機構なども、デミ・ドーガなどの新しい機体に比べれば脆弱であり、急激な加減速に伴うパイロットへの負担もまた、比較にならないほど厳しい。
しかし、いまのジャン・ミンウェイにとって、そんなことは些末事であった。
先ほど、
マリアはそれを理解して微笑んだ後、操縦桿を再び強く握る。
「呼び捨てにしたこと、今回は不問にしてあげますよ」
フェダーイン・ライフルの付属サーベルを構え、ザク・トーテンコップの脇腹へと刺突を繰り出す。
鍔迫り合いをしている場合ではないと瞬時に悟ったサルバ・ダグランは、ビームサーベル同士の力場の反発と、脚部のスラスター噴射を併用することで、一瞬にして二機から距離をとった。
「二対一かい……。ちょうどいいハンデだ」
「無事で何よりっスよマリア……、副隊長」
「少なくとも、戦場では副隊長と呼びなさい」