機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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デミ・ドーガ 対 ザク・トーテンコップ

 マリア・リアスが、戦いに意味を求めたことなどない。

 彼女の兄が、父の意向通りに政治家への道を歩んだ時。マリアもまた、父の意向通りに軍隊へと入隊した。

 一族の経歴に箔をつけるという、彼女の両親の考えに従ったわけではない。

 戦いが起こる中で、権威と財力を盾に戦線の後方で笑う人間に、つまりは彼女の一族のような人間になりたくないと思ったからであった。

 そこからずっと彼女は戦いの中にいるが、そこに意味を見出すこともなく、その必要性も感じたことなどなかった。

 自分は戦士であり、戦うことしか生きる術を知らず、宇宙世紀という()()()()()()はそんな人間を常に必要としている。

 それで十分だと思っていた。

 アラン・ダレンという男と出会い、彼の元で戦うまでは。

 

 資源衛星B79、周辺宙域。

 カミロ・カーダの率いるハルパー部隊とアランたちアナハイム警備部、そして謎の多い挟撃部隊。

 資源衛星の月面都市への落下と、その阻止を狙う三者の戦いは苛烈さを増していくばかりであった。

 マリア・リアスのデミ・ドーガが、フェダーイン・ライフルの付属ビームサーベルを銃剣のように扱い、三度刺突を繰り出す。

「じゃれつくなよ、子猫ちゃん!」

 しかし、ザク・トーテンコップのパイロットであるサルバ・ダグランは、その攻撃を造作もないと言わんばかりに躱す。

 脚部、および腰部アーマー下部にあるバーニアを僅かに噴かせることで、機体の姿勢を大きく崩すことなく回避したのだ。

 僅かに噴かせると言うは易いが、その調整と姿勢制御の難易度は非常に高い。

 それをこの激戦の、さらに二対一の状況で行える技術と判断力に、マリア・リアスは自分ひとりだけでは勝率は低かっただろうと推測する。

 

「そこだぁッ!」

 しかし、マリア・リアスはいま、一人で戦っているわけではない。

 ジャン・ミンウェイの乗るジム・グランツァが、ザク・トーテンコップの背後からビームサーベルで斬りかかったのだ。

 いくら全天周囲モニターによって、パイロットの全方向の映像がモニターに映し出されるようになったとしても、乗っているのはただの人間である。

 正面の敵と戦っている最中に背後を見ることなど、背中にも目がついているような鋭敏な感覚と空間把握能力を持つニュータイプでなければ不可能。

 完全に背後をとったジム・グランツァ。マリアとジャンの連携による勝利か。

 

「だから、アマいんだよぉ!」

 

 ザク・トーテンコップの背部バックパック、その側面にある円筒形の装備の蓋が開いた。

 その瞬間、強烈な閃光と散弾のように拡散されたビームが、ザク・トーテンコップの背後にいたジム・グランツァへと降り注ぐ。

「ちっ、うっとおしい!」

 ジャンは咄嗟にジム・グランツァの左腕に装着していたジムⅢ用シールドで、拡散されたビームを防いだ。

 ドム系のモビルスーツに搭載されていた、拡散ビーム砲のようなものかとジャンは理解する。

「ジャン!」

 シールドで正面の視界を大きく塞がれたジャンを援護するため、デミ・ドーガは再びフェダーイン・ライフルの付属サーベルを構えて、ザク・トーテンコップに白兵戦を仕掛けた。

 対するザク・トーテンコップも、左手のビームサーベルでそれに応じる。

 一度。

 二度と切り結ぶ。

「ガトリング砲を使わせまいとしてるんだろうが、悠長だねぇ。そんなことじゃあ俺たち全員、アナハイムのお掃除部隊にやられちまうぜぇ? 現に、こっちの兵隊はもう何人かやられちまってるみたいだからな」

 ザク・トーテンコップから聞こえた近距離通信。マリアは眉をひそめる。

「……意味が、分かりませんね」

「意外に()()()()んだなぁ。この一件に関わった人間全員、アナハイムはここで()()しちまおうって魂胆なんだよ!」

 

 戯言を。

 マリアがそう言おうとしたとき。

「馬鹿やってんじゃねぇ! こっちは味方だろうが!」

 彼女の上方から、ジャンの声が聞こえた。

 ハルパー部隊の増援かと、マリアが上を向く。

 

 そこには、ダークグレーに塗装されたジェガンと斬り合うジム・グランツァの姿があった。

「まさか、ジェガン? 早期生産型をこんなところで使えるのは……!」

「マリア副隊長! コイツ、挟撃部隊ッスよ! ネオジオンの残党が、ジェガンなんて使えるワケがないッス!」

 ジャンの言葉で、マリアの思考の点と点が急速に繋がっていく。

 捨て石同然の扱いであるアランの部隊に、プルス・ガンダムを使わせたこと。

 挟撃部隊から事前の作戦会議も何もなく、現場でも何ら連携の意思を見せなかったこと。

 そして、いまこの資源衛星B79で戦闘が行われているという事実を、ごく少数の人間しか知らないということ。

 

 アナハイム・エレクトロニクスという企業ならば、やる。

 この場にいる全員の抹殺を。

 人の心に作用する謎の素材。その存在と力を知る者の消去を。

 

 マリア・リアスは、覚悟を決めた。

「────ジャン! 貴方は挟撃部隊を避けながら、資源衛星の停止に向かいなさい! 私が挟撃部隊なら、ハルパー部隊や私たちの撤退を阻止するために、限界まで資源衛星を止めない!」

 ミノフスキー粒子の散布下で、いくら近距離とはいえどこまで声が届いているのか。

 そして、たった一人で眼前のザク・トーテンコップを仕留められるのか。

 そういう不安を押し殺して、マリア・リアスはジャン・ミンウェイへと叫ぶ。

「このザクは、私が止める! だから貴方は資源衛星を、アラン隊長のために!」

「……ダメ……だ! それじゃあ……、マリア……まで……!」

 散布されているミノフスキー粒子と、ザク・トーテンコップとの斬り合いで生じる衝撃によって、ジャンからの通信をマリアは殆ど聞き取れない。

 マリアは理解している。

 この作戦は、おそらく誰かが死ぬこと。

 そして、ハルパー部隊と挟撃部隊からの攻撃を退けつつ、資源衛星を止める手立てはこれしかないことを。

 だからこそ、ジャンに最後の通信を送る。

 

「任せなさい。()()()()()()()()()()()

 

 ジェガンを撃退したジム・グランツァの右手が、デミ・ドーガへと伸びたあと。

 ジム・グランツァは、資源衛星の方向へとスラスターを噴射した。

「泣かせる話じゃないか。月面都市の金持ちどもに、そこまでしてやる義理はないだろう?」

「黙りなさい。貴方のような人間には、一生分からない」

 

 マリア・リアスは、これまで戦いに意味を求めたことなどなかった。

 だが、いまの彼女には明確に、戦う理由がある。

 アラン・ダレンのため。

 ジャン・ミンウェイのため。

 そして、一人でも多くの命を生き残らせるため。

「私の心は変わらない。貴方たちハルパー部隊を倒し、資源衛星を止めてみせる」

「やってみせな、子猫ちゃん」

 マリア・リアスは、デミ・ドーガを駆る。

 倒すべき敵は、サルバ・ダグランのザク・トーテンコップ。

 

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