機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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デミ・ドーガ 対 ザク・トーテンコップ 決着

「デミ・ドーガの長所は……、機動力と汎用性……!」

 マリア・リアスは、揺れ動くデミ・ドーガのコクピット内部で、アラン・ダレンの言葉を反芻する。

 彼女の乗るデミ・ドーガはいま、ハルパー部隊のザク・トーテンコップと戦っている。

「ちょこまか動くなよ、子猫ちゃん! タマが当たらねぇだろぉ!」

 ザク・トーテンコップのガトリング砲を、デミ・ドーガは加減速と旋回を巧みに繰り返して回避する。

 そして反撃とばかりに、デミ・ドーガは腰部側面のミサイルポッドを一斉発射。命中率の低さを弾幕で補う。

 うち一発がザク・トーテンコップの左腕部付近で爆発。

「ちっ! 左腕が思うように動かねぇ! まぐれ当たりが!」

 ガチャガチャと操縦桿を動かしながら、舌打ちをするサルバ・ダグラン。 

 その隙を突いて急接近し、フェダーイン・ライフル付属のビームサーベルを刺突するデミ・ドーガ。

 何度か切り結び、機を見て離脱。再び射撃戦の距離まで離れ、絶えず移動しながらフェダーイン・ライフルによる射撃を行う。

「小賢しい真似するじゃねぇか、子猫ちゃんよぉ!」

 ダグランの苛立ちは募っていくばかりだった。

 

 白兵戦の間合いでは駆け引きの技術で負け、射撃戦となれば徹甲弾の弾幕を張るガトリング砲に負ける。

 そこでマリアが考えついた苦肉の策こそが、高機動によって接近と離脱を繰り返し、交戦距離を一定にしないというこの戦法だった。

 これはまさに機動兵器としてのモビルスーツの特徴をフルに活かしたものであるが、実際に行うのは容易ではない。

「推進剤残量が、心もとない……」

 まず、加減速はおろか急な方向転換や姿勢制御にすら各部のスラスターを噴かすので、推進剤の消費が非常に早い。

 また、極端な加減速と姿勢制御は機体の駆動系にもダメージを蓄積させる。

 ゆっくりと、しかし確実にデミ・ドーガという機体は限界を迎えつつあった。

 そして、なにより。

「口の中で、鉄と、()()()()()がする……。そう長くは、持たない……」

 パイロットの身体にかける負担が、通常の動きとは比べ物にならない。

 マリアの呼吸は段々と荒くなり、眼球が充血して、臓器には圧がかかっていく。

 彼女もまた、限界に近かった。

 

「次で……、決める!」

 加速するデミ・ドーガ。

 今度は迷いなく、白兵戦の間合いへと詰め寄っていく。

 決着をつけるつもりだと、ダグランも理解した。

 デミ・ドーガの付属ビームサーベルと、ザク・トーテンコップのビームサーベル。

 二つの力場が衝突する。

「楽しいよなぁ、戦争ってのは! モビルスーツってのはよ! 自分より弱いヤツを存分に叩き潰せる! 敵も味方も死んで、俺が生き残ったとき! ()()()()()()()()って実感できるしなぁ!」

「獣の理屈を吼えるな!」

 バチバチと、力場の衝突による閃光が迸る。

「それが戦場の理屈だろうが! アンタも、アンタの隊長も、()()()()()()()()()()()()まだ戦っているんだろうがよぉ!」

 ダグランの不愉快な言葉に、マリアの心で何かが切れた。

 

「あの人のことを、知ったふうに!」

「もう死になよ、子猫ちゃん!」

 強い力場の反発。

 頭部がぶつかりそうなほど接近していた両機が、僅かに離れる。

 ザク・トーテンコップの腰部側面から、小型ミサイルが撃ちだされた。

 デミ・ドーガは、腕部に取り付けられたシールドで咄嗟に防御。そのシールドを即座に切り離す。

 そこで、ダグランは奥の手を使った。

 サブ・マニピュレーター。

 不意の一撃。小型ミサイル防御のために、シールドで機体正面の視界を遮ったことが仇になっていた。

 事前にザク・トーテンコップのことをアランから聞いていたマリアだったが、反応が遅れる。

 

 デミ・ドーガの右脚部が、切断された。

 

「さっきまでの戦いで、アンタがこれを避けられる実力を持ってないってことは分かってたからなぁ!」

 咄嗟にフェダーイン・ライフルを保持するために必要な腕部と、コクピットをかばった結果であった。これでは、機体の姿勢制御も、安定したスラスターの噴射も行えない。

 デミ・ドーガの機動力が死んだ瞬間であった。

「ダメ押しだぁ!」

 そんな状態のデミ・ドーガへ、蛇のようにうねりを打ったサブ・マニピュレーターが襲い掛かる。

 狙いはコクピット。脚部が片方切断された状態では、回避などできない。

 歯噛みしながら、マリアはデミ・ドーガの肩部スラスターを噴射させて、身体をわずかに反らしつつ、左腕部を前に突き出して少しでも姿勢を変えようとした。

 その左腕部を、フェダーイン・ライフルの銃身ごと、サブ・マニピュレーターに装着されたビームサーベルが切断する。

 あれだけ必死にかばったフェダーイン・ライフルすら、マリアは失ってしまった。

 バチバチと火花が散ったあと、フェダーインライフルは小規模の爆発を起こして、両機の装甲を僅かに傷つける。

 勝った。ダグランは勝利を確信した。

 終わってみれば、なんということはない。

 白兵戦でも、射撃戦でも、ダグランに及ばないマリアが勝てる道理などなかったのだと、ダグランは思う。

 あとは距離をとってガトリング砲を撃ち込めば、サルバ・ダグランの勝利であった。

「これで────!」

 

「……えぇ。()()()、です」

 

 そのフェダーイン・ライフルの爆発の中から、一本のワイヤーが飛び出す。

 まずい、とダグランが終わったときには、電流がワイヤーを伝っていた。

 モビルスーツの制御系すら焼き切るほどの出力の電流が、ウミヘビからザク・トーテンコップへと流れ込む。

 あまりにあっけない、戦いの終わり。

 ウミヘビを戻し、残った右腕部にビームサーベルを構えるデミ・ドーガ。

「結局、貴方はそういう、()()()()()()()()()()()()()()()()()……。できないことを悔いるわけでも、他の何かを理解しようとするわけでもなく。それが世界の真理であるかのように」

 沈黙したザク・トーテンコップのコクピットを、デミ・ドーガのビームサーベルが貫く。

「だから、自分より弱いと感じた私を見下し、油断した。傲慢に、理解したつもりになった。自分の理屈だけで、世界の全部をねじ伏せられるわけがない」

 あれだけ戦場を暴れ回ったザク・トーテンコップはもう、ただの宇宙に漂う墓標となった。

「眠りなさい、哀れな兵隊崩れ……。獣の理屈しか理解できない者は、兵士でもなく、戦士ですらない……」

 

 荒い呼吸。

 途切れそうになる意識。

 気を抜けば力なく操縦桿を離してしまいそうなほど、弱った肉体。

 だが、それでもマリア・リアスにはまだやることがあった。

 もはや、戦う機能を無くしたデミ・ドーガをどうにか動かして、曖昧な感覚だけを頼りにマリアはある人の元へと向かう。

「隊長……。いま、行きますから……」

 

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