「一年戦争の贖罪のつもりか、アラン・ダレン! 犯した罪が朽ちることはない! 貴様も、そして地球に住むオールドタイプ共もだ!」
「それを────、お前が言うのか!」
資源衛星B79の周辺宙域を飛び回り、戦い続けるプルス・ガンダムとドライベロス。
射撃戦と白兵戦を繰り返しながら、両機は依然として一進一退の攻防を続けていた。
プルス・ガンダムのビーム・マシンガンは、カートリッジ交換式である。
これは射撃戦による本体のエネルギー消耗を避け、ビームサーベルや機体のパワーダウンを防ぐ意図があった。
「これが、最後のカートリッジか……」
しかしそれは、カートリッジ交換という大きな隙が生まれることや、カートリッジの残数を常に意識しながら戦うことを強いられることも意味している。
このビーム・マシンガンがなくなれば、プルス・ガンダムに残された武装は腕部のグレネードランチャーとウミヘビ、そして頭部バルカンだけ。
遠距離から近距離まで、全ての
「勝負に出るしかないが」
操縦桿を握り直し、決め手となる何かを頭の中で探すアラン。
そんなアランの視界に、大小の爆発を繰り返して
ジャンとマリアのために、ドライベロスを資源衛星から遠ざけていたアランにも見えたということは、戦場と化したこの宙域にいる殆どの者が見ることができたということである。
当然、ドライベロスに乗るカミロ・カーダも例外ではなかった。
「グワンバン、やられたのか……! 軟弱な連中だとは思ったが、まさかこれほどとは!」
「もう終わりだ、カミロ・カーダ! グワンバンが落ちた今、あの資源衛星を守るものは何もないぞ!」
ドライベロスに対して左腕部のグレネードランチャーを牽制として撃ち込みつつ、一気に距離を詰めるアラン。
何度目かの白兵戦。
互いに構えたビームサーベルの力場が衝突し、激しくぶつかり合った。
プルス・ガンダム、ドライベロスともに腕部および肩部関節の駆動系が軋み、力場の衝突と反発によって発生する火花が二機の装甲をわずかに焦がす。
その熾烈な
「投降しろ、カミロ! お前の戦争もここで終わりだ!」
「ジオンに、ニュータイプの戦いに終わりなどない。──我々の自由を奪うオールドタイプを根絶やしにするまでな!」
「その戦いで、どれだけの犠牲が生まれたと思う!」
鍔迫り合い。
プルス・ガンダムの二つの目と、ドライベロスの
「言ったはずだぞ、アラン・ダレン! 犠牲なくして勝利はない! 流す血の重さが、勝利の重さに繋がるのだと!」
「重すぎるんだ、十分に!」
相克し、過熱する二人の意思。
その時、アランの目がドライベロスの背後から近づくジェガンを捉え、彼の感覚が自身の背後から殺気を放つ機体に気づく。
「殺気? なぜ俺に!」
「アナハイムめ、片づけに入ったな」
その殺気は、同じようにカミロも感じ取っていた。
それは、二人の過熱する意思をくべられたサイコフレームの為せる業か。或いは、かつて互いの背中を預けて戦った記憶がそうさせたのか。
アランとカミロはビームサーベルの力場の反発を利用して鮮やかに姿勢を変え、互いの背後に近づく殲滅部隊のジェガンへと向き直る。
そして、まとめて斬り捨てようと接近していた二機のジェガンが事態を把握しないうちに、構えていたビームサーベルで一刀両断してしまった。
邪魔者を片づけ、改めて向き合う二機。
「まさか……、上層部はこの場で全てをなかったことにする気か。──なら、マリアとジャンが危ない!」
だが、アランには明らかに動揺が見て取れた。
その動揺につけ込むように、カミロが笑う。
「ハハ……、ハハハ! 悲しいな、アラン・ダレン! アナハイムは貴様を殺すつもりだ! ようやく見つけた、
「違う! 消え去ってなどいない!」
必死に否定するように間合いを詰め、ビームサーベルを振るうアラン。
しかし、闇雲に武器を振るうだけで倒せるカミロではない。悠々とアランの攻撃を避けたカミロは、言葉で揺さぶりを続ける。
「何が違う? この戦場はもうすぐ、アナハイムの殲滅部隊によって掌握される。貴様の部下も、生きてはいないだろう。資源衛星は止められるが、まぁいい。この戦いは前哨戦にすぎない」
「前哨戦……?」
「そうだ、アラン。もう一度だけ、チャンスをやろう。オレと共に来い。今回は失敗したが、次は違う。スウィートウォーターの蜂起こそが本命だ。人類の革新のための、本当の戦いが始まるのだ!」
カミロのその言葉が、アランのある記憶を呼び起こした。
──なぜ理解しない、アラン! この戦争でジオンが勝つということはニュータイプが、我々スペースノイドが新たなる人類となること! これが人類の革新なのだよ!
──それはただの方便だ! 結局、お前たちは
皮肉にも、カミロの言葉によってアランの動揺が収まっていく。
自分がいま何をすべきなのかを、アラン・ダレンは見失っていなかった。
「……カミロ。お前は結局、変われなかったんだな」
アランの精神状態の変化を感じ取ったのか、カミロの表情から先ほどまでの笑みが消える。
「お前と袂を分かったとき、言ったはずだ。俺はもう、やり返すための戦いを続ける気はないと」
一度、ゆっくりと瞬きをするアラン。
その一回の瞬きの間に、幾つもの思いが彼の心に去来した。
そうした思いの中から、自分にとって大切なものを丁寧に掴み、それを言葉にすることで
「俺がいま戦うのは、戦わなければ生き残れない命があるからだ。お前たちが振りまく戦いの火の粉を、振り払うためだ」
己を。
戦士としての、アラン・ダレンの形を。
「例え、戦いという正しくない方法であったとしても。自身や部下の身が危険に晒されようとも。いま、俺が救うことのできる命があるなら、それをもう見捨てたくない。あのブリティッシュ作戦の光景を、俺の前で二度と起こさせはしない」
赤く燃える憎悪の塊と化したコロニーが、地球へ落ちたとき。
あのときのアランは、ただそれを見ているしかなかった。幾万、幾億の命が一瞬で消えゆく狂気を、ただ恐れるしかなかった。
しかし、いまの彼は違う。
プルス・ガンダム。
マリアとジャンの思い。
そして、リン・サザナミとの約束。
それらはアラン・ダレンの心に熱と力を生み、その熱と力が彼の背を強く押す。
いま再び、自らの眼前で起ころうとする悲劇と戦うのだという意思が、アラン・ダレンの心を固める。
「答えはノーだ、カミロ・カーダ。……俺は、お前を倒す」
わなわなと肩を震わせ、操縦桿を握りつぶしかねないほど力を籠めるカミロ。
そうやって溜め込んだ殺意を解き放ち、彼は叫んだ。
「────ならば死ね! アラン・ダレン!」