アラン・ダレンは理解していた。
いまこうして、カミロ・カーダのドライベロスと戦えているのは、ひとえに彼の乗機であるプルス・ガンダムの性能によるところが大きい、と。
「忌々しいガンダム諸共、宇宙の塵になれ! アラン・ダレン!」
容赦なく、二基のファンネルをアランに向けるカミロ。
上下、左右。
空間を自在に飛び回るファンネルを、肉眼で捉えることは極めて難しい。コマ送りになった映像のように、パッと現れてはビームを放って消えるファンネル。
そうして放たれたビームを、サイコフレームによる感応波検知でどうにか回避するアラン。
それでも、躱しきれなかったビームがプルス・ガンダムの右肩部装甲を剥がし、フレームが剥き出しになる。
サイコフレームによって増幅された感応波で、ファンネルが存在する方向は感覚で理解できても、正確な位置までは分からない。
それがアラン・ダレンという人間の持つ、ニュータイプ能力の限界であった。
「手強いな……!」
勝率は、第三者から見れば三割くらいだろうとアランは思う。
圧倒的な戦闘技術の差。
サイコミュ兵器の有無という、如何ともしがたい装備の差。
「だが……、やれないわけじゃない」
それでもなお、アランが現状に絶望しないのは、プルス・ガンダムにはまだ
戦いが熾烈さを増し、アランの心が熱を持てば持つほど。
プルス・ガンダムに搭載されたサイコフレームは、その感応波検知能力を高めている。
しかし、
より得体の知れないものが、プルス・ガンダムの中で強まりつつあることを、アランは理解していた。
「操作よりも先に、俺の意識がこの機体を動かしているのか?」
荒唐無稽だと、自分の言葉を疑うアラン。
ガンダムだろうと、ニュータイプ専用機だろうと、所詮は機械。
人間が操作、入力しなければ、マニピュレータひとつ動かすことはできないはず。
パイロットの意識と感覚を借りて、自ら攻撃を避け、動くなどと。
「ありえるのか、こんなシステムが」
だが、そうでなければ説明できないほど、ドライベロスによるファンネルの攻撃は人間の反射神経の限界を超えつつあった。
アランの目がファンネルに追いついた時には既に、ビームが放たれた後。長引く戦いによって彼の肉体も疲弊し、反応速度や操縦の精密さにも悪影響を及ぼしているのは明白。
だというのに、アランはまだ戦えている。
ファンネルのビームによって装甲を削られてもなお、プルス・ガンダムという機体はまだ戦える状態を維持していた。
サイコフレームによって増幅、強化されたアランの精神が、プルス・ガンダムという機体を、アランの肉体を引っ張っている。
そう表現するしかなかった。
「なんなんだ、その動きはァ!」
一向にアランを仕留められない歯痒さが、カミロ・カーダを叫ばせる。
そしてついに、二基のファンネルのエネルギーが無くなった。
「チィッ、肝心なときに!」
一旦、ファンネルを背部に戻し、ケーブルを接続することで有線インコムへと切り替えるドライベロス。
ケーブルを繋がれたファンネルは、獲物に食らいつく蛇のように、目標であるプルス・ガンダムへと向かう。
しかし。
「有線に切り替えたのなら!」
サイコフレームとプルス・ガンダムに搭載されたシステムによって、感覚が強化されたアランには、インコムが描く軌道がはっきりと理解されていた。
呼吸を止め、集中するアラン。
そしてアランが操縦桿を動かすよりも早く、アランの意識と感覚がプルス・ガンダムを動かす。
二基のインコムの軌道を読み、最適な位置へと、人間の操縦技術では不可能なタイミングでのスラスター噴射と姿勢制御を織り交ぜて、駆ける。
そのままインコムのビーム砲を、避けつつ進む。
避けるだけでは進めず、進むだけでは被弾する。
だから、ビームの間をかいくぐるようにして、避けつつ進む。
鋭くなったアランの感覚と、プルス・ガンダムのシステムがあって初めて成立する離れ業。
「こんな馬鹿な!」
「狙うのは────!」
そんな真似をしてまでアランが進み、狙ったもの。
プルス・ガンダムの右手に構えたビームサーベルを、振り下ろしたもの。
それは、ファンネル。
ビームサーベルによる、ファンネルの切断。
例えワイヤーに繋がれ、有線インコムと化していたとしても、実行など
いま、その奇跡がアラン・ダレンによって成った。
「……認められるものかよ」
ドライベロスに残されたファンネルは、残り一基。
しかし、カミロ・カーダの怒りが彼の理性を壊したのは、ファンネルが壊されたからではない。
「貴様がニュータイプなどと、認められるものかよォ!」
ニュータイプでしか成しえない所業を、アラン・ダレンが見せたから。
ドライベロスの装甲の隙間。
フレームの内部に埋め込まれたサイコフレームが、禍々しい赤色の光を放ち始める。
戦場という異常な空間がそうさせたのか。
或いは、カミロ・カーダという男のニュータイプに対する妄執が、それを引き起こしたのか。
ドライベロスのサイコフレームはいま、一線を超えた。
ドライベロスから放たれたサイコフレームの光が、アランの感覚を塗りつぶす。カミロ・カーダの憎しみ、怒りがアラン・ダレンに強烈なプレッシャーを与えたのだ。
プルス・ガンダムのサイコフレームによって増幅されていたもの、強化されていたものが一気に喪失する。
「まずい、これは────!」
「その可能性ごと、消してやろう!」
見失った。
アランがそう思ったときには、ケーブルから解き放たれたドライベロスのファンネルが、アランのモニター中央に映っていた。
まさに意識外の一撃。
「避け────!」
アランが口にするよりも早く、プルス・ガンダムのコクピット部分へとビームが放たれた。
人は死を意識した瞬間、時間が遅く感じられるという。
まるで、目の前の光景をスロー再生されているように、アランの視界をビームの光がゆっくりと覆っていく。
必死にプルス・ガンダムを動かし、回避しようとするが、既に間に合わないことはアラン自身がよく分かっていた。
死ぬのか、こんなところで。
結局、アラン・ダレンはまた、悲劇を止められないのか。
────アラン隊長!
声。
マリア・リアスの声。
どこからか聞こえたその声を、アラン・ダレンが聞き取った時。
プルス・ガンダムのコクピットが大きく揺れた。
ビームの直撃か。
否。それにしては熱を感じず、アラン・ダレンはビームによって蒸発することなく、まだ生きている。
では何が。
その答えは、アランのモニターの前にしっかりとあった。
ビームの直撃によって右腕部と胸部装甲を焼かれ、無残な姿となったデミ・ドーガが。
「マ、マリア……」
震える声で、自らの副官の名を呼ぶアラン。
「良か、った」
ノイズ交じりの音声が返ってくる。
声だけしか聞こえなくとも、マリアの生命がいま絶えようとしていることを、アランは理解した。
「はじめて、貴方を、守る側になれた」
それっきり、デミ・ドーガから声が聞こえることはなかった。