ボロボロになったデミ・ドーガが、アラン・ダレンの前からゆっくりと流れていく。
宇宙という冷たい海を漂流する、朽ちた人形となって。
ファンネルのビームが直撃して溶解したデミ・ドーガの腕部を、プルス・ガンダムが掴もうとする。
マリア・リアスの生存は絶望的だったが、アランは手を伸ばさずにはいられなかった。
しかし、もはやマニピュレータとしての形を保っていないそれを掴むことはできず、デミ・ドーガはプルス・ガンダムから離れていく。
────はじめて、貴方を、守る側になれた。
アランの最後に聞いたマリアの声が、彼の脳で繰り返される。
「……すまない、マリア」
最初に、悲しみ。
次に、怒り。
アラン・ダレンの心で、その二つの感情が膨れ上がっていく。
アランの感情の増幅、心の熱の高まりにプルス・ガンダムのサイコフレームが応えていく。
「……この命、無駄にはしない」
相反するはずの二つを凝縮して、アラン・ダレンの強さに変えていく。
プルス・ガンダムのサイコフレームが、光った。
「何の光だ!」
ドライベロスのコクピットで、カミロ・カーダが叫ぶ。
照明弾や信号弾のものではない。
そういう理屈の上に成り立つ光ではないことを、カミロは理解した。
淡く、何色ともいえる、オーロラのような光。
カミロ・カーダにはプルス・ガンダムの放つその光が、ひどく目障りに感じられた。
「……なんだ、その光はァ!」
再び、戦いが始まる。
ドライベロスのファンネルが、目にもとまらぬ速さで空間を飛び回る。
ぱっ、ぱっとコマ送りの動画のようにプルス・ガンダムの周りを移動しながらビームを放ち、プルス・ガンダムを
だが、そんなものでは、いまのプルス・ガンダムには届かない。
サイコフレームの淡い光を黒い宇宙に振りまきながら、自由に宇宙を疾駆する。
モビルスーツという機械の枠を超えた動き。
サイコミュ兵器とサイコフレームをもってしても、それを捉えることはできない。
「何故だ……!」
血が出るほど、唇を噛むカミロ。
そうしている間にも、ドライベロスの残り一基となったファンネルは再びエネルギー残量が枯渇し、有線インコムへの切り替えを余儀なくされる。
その事実が、より一層カミロを苛立たせた。
「その速さは、なんなんだァ!」
カミロが叫ぶ。
それと同時に、プルス・ガンダムがドライベロスに向かって、一気に距離を詰める。
この接近で勝負を決めるつもりだと、カミロは瞬時に察した。
プルス・ガンダムが、左手でビーム・マシンガンを構える。
対するドライベロスも、有線インコムでそれに応じる。
放たれた二つのビームが交差した。
ひとつのビームは、ドライベロスの有線インコムを破壊。
もうひとつのビームは、プルス・ガンダムの左肩を撃ち抜いた。
ビーム・マシンガンを持ったままのプルス・ガンダムの左腕が、宇宙に放り出される。
これでプルス・ガンダムにもドライベロスにも、補助的なものを除いて射撃武装は無くなった。
プルス・ガンダムに残された武装は、右腕部に取り付けられたウミヘビと頭部バルカン、そしてビームサーベル。
一方のドライベロスは、ビームサーベルを除けば、両腕部の三連装ビーム砲に腰部内蔵のビーム砲と、左腕部に構えるラージシールドのみ。
ビームサーベルを構え、相手に向かって突進する二機。
鍔迫り合いが起こった。
ビームサーベルの力場だけでなく、二機から放たれるサイコフレームのオーラが交わり、衝突する。
「貴様のような俗物が、ニュータイプなどと……!」
「ニュータイプだなんだと、お前に人の何が分かる!」
「黙れ!」
ドライベロスの腰部内蔵ビーム砲の発射口に、ビームの光が収束されていく。
「そうやって、誰も理解しようとしない人間が、ニュータイプなどと呼べるものかよ!」
しかし、それを察知したアランはサーベルとスラスターの出力を全開にした。
内蔵ビーム砲へとエネルギーを回していたドライベロスは押されはじめ、姿勢を大きく崩される。
そして、その隙を突いたプルス・ガンダムは瞬時に上方へと飛んで、発射された内蔵ビーム砲を回避。
「上を取ったぞ!」
ドライベロスの上方から、ビームサーベルで斬りかかった。
再び、鍔迫り合い。
だが今度は、明らかにプルス・ガンダムが有利であった。
原因は、ドライベロス側のサーベルのパワーダウン。
ファンネルや腰部の内蔵ビーム砲に、エネルギーを使いすぎたのだ。
「こ、こんなことが……!」
「終わりだ、カミロ・カーダ! その思想も、ジオンの呪いも!」
何回か姿勢と位置を変えて切り結んだあと、じりじりと押されはじめるドライベロス。
ドライベロスのコクピットにあるモニターの映像が、プルス・ガンダムのビームサーベルによって放たれる力場とプレッシャーに占有されていく。
死の恐怖が、カミロ・カーダに襲い掛かった。
「死ねるものかよ!」
ドライベロスの左腕部に付けられていたラージシールドで、プルス・ガンダムの頭部メインカメラを殴打する。
「往生際の悪い……!」
二度、三度と叩かれ、その衝撃で僅かに姿勢の制御が狂うプルス・ガンダム。
にやりと、カミロ・カーダが笑った。
それを好機と捉えたドライベロスが、プルス・ガンダムの腰部に蹴りを入れて、蹴り飛ばす。
「白兵戦では初めてオレに勝てたようだが、これまでだ!」
ドライベロスがラージシールドを捨て、左腕部にある三連装ビーム砲をプルス・ガンダムに向けて構えた。
「そこまでして……!」
対するプルス・ガンダムも、ビームサーベルを放棄し、右腕部のウミヘビをドライベロスに放つ。
三連装ビーム砲は、プルス・ガンダムの頭部と左脚部に命中。
しかし、ウミヘビはドライベロスに当たらなかった。
姿勢を崩していたからか、アラン・ダレンの集中力がついに切れてしまったからか。
一撃必殺のウミヘビはドライベロスに電撃を放つことはなく、ただのワイヤーとしてドライベロスの近くを通過していった。
「ハ、ハハ、ハハハ! やはり、所詮は貴様だアラン・ダレン! まがい物の、ニュータイプめ!」
もはや反撃の術を無くしたプルス・ガンダムに対して、ゆっくりと三連装ビーム砲の照準を合わせるカミロ。
一方、照準を合わされてなお、回避運動のひとつも取らず、ウミヘビを射出したままの姿勢で固まっているプルス・ガンダム。
どれだけプルス・ガンダムがサイコフレームと専用のシステムによる超高機動を使えようとも、それは十全の姿勢制御と運動性能があってこそ。
頭部のメインカメラと左脚部のスラスターを失った今の状況では、到底不可能だったからだ。
「さらばだ、アラン・ダレン! ニュータイプのなり損ないめが!」
カミロ・カーダは、己の勝利を確信した。
「やはり、お前は何も理解してないよ。カミロ・カーダ」
カミロは、見落としていた。
斬り合いの中で二転三転した位置と姿勢。
土壇場で放たれ、命中しなかったウミヘビ。
そして、最後まで冷静さを失わなかったアラン・ダレン。
そういうすべてのピースを見落とし、どちらがニュータイプとして相応しいかということに固執してしまった。
アラン・ダレンが放ったウミヘビは、
それは、ドライベロスにではない。
白兵戦を仕掛ける過程で切り落とされた、自らの左腕部。
まだ残弾の残っていたビーム・マシンガンを持った左腕部こそ、アラン・ダレンがウミヘビというワイヤーで狙った標的。
回避運動も取らずに固まっていたのは、カミロに気づかれることなく、射出したワイヤーを巻き取るため。
そして今、プルス・ガンダムの右腕部には、ビーム・マシンガンが。
「終わりだと言ったぞ、カミロ・カーダ」
放たれたビームの雨が、ドライベロスの胸部を散々に撃ち抜く。
何かを叫ぶ猶予もなく、カミロ・カーダは機体諸共、爆散した。