機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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静かの海の守り人③

 ボロボロになったデミ・ドーガが、アラン・ダレンの前からゆっくりと流れていく。

 宇宙という冷たい海を漂流する、朽ちた人形となって。

 ファンネルのビームが直撃して溶解したデミ・ドーガの腕部を、プルス・ガンダムが掴もうとする。

 マリア・リアスの生存は絶望的だったが、アランは手を伸ばさずにはいられなかった。

 しかし、もはやマニピュレータとしての形を保っていないそれを掴むことはできず、デミ・ドーガはプルス・ガンダムから離れていく。

 

 ────はじめて、貴方を、守る側になれた。

 

 アランの最後に聞いたマリアの声が、彼の脳で繰り返される。

「……すまない、マリア」

 最初に、悲しみ。

 次に、怒り。

 アラン・ダレンの心で、その二つの感情が膨れ上がっていく。

 アランの感情の増幅、心の熱の高まりにプルス・ガンダムのサイコフレームが応えていく。

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「……この命、無駄にはしない」

 相反するはずの二つを凝縮して、アラン・ダレンの強さに変えていく。

 プルス・ガンダムのサイコフレームが、光った。

「何の光だ!」

 ドライベロスのコクピットで、カミロ・カーダが叫ぶ。

 照明弾や信号弾のものではない。

 そういう理屈の上に成り立つ光ではないことを、カミロは理解した。

 淡く、何色ともいえる、オーロラのような光。

 カミロ・カーダにはプルス・ガンダムの放つその光が、ひどく目障りに感じられた。

「……なんだ、その光はァ!」

 再び、戦いが始まる。

 

 ドライベロスのファンネルが、目にもとまらぬ速さで空間を飛び回る。

 ぱっ、ぱっとコマ送りの動画のようにプルス・ガンダムの周りを移動しながらビームを放ち、プルス・ガンダムを撃墜(おと)そうとする。

 だが、そんなものでは、いまのプルス・ガンダムには届かない。

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 サイコフレームの淡い光を黒い宇宙に振りまきながら、自由に宇宙を疾駆する。

 モビルスーツという機械の枠を超えた動き。

 サイコミュ兵器とサイコフレームをもってしても、それを捉えることはできない。

「何故だ……!」

 血が出るほど、唇を噛むカミロ。

 そうしている間にも、ドライベロスの残り一基となったファンネルは再びエネルギー残量が枯渇し、有線インコムへの切り替えを余儀なくされる。

 その事実が、より一層カミロを苛立たせた。

「その速さは、なんなんだァ!」

 カミロが叫ぶ。

 それと同時に、プルス・ガンダムがドライベロスに向かって、一気に距離を詰める。

 この接近で勝負を決めるつもりだと、カミロは瞬時に察した。

 プルス・ガンダムが、左手でビーム・マシンガンを構える。

 対するドライベロスも、有線インコムでそれに応じる。

 

 放たれた二つのビームが交差した。

 ひとつのビームは、ドライベロスの有線インコムを破壊。

 もうひとつのビームは、プルス・ガンダムの左肩を撃ち抜いた。

 ビーム・マシンガンを持ったままのプルス・ガンダムの左腕が、宇宙に放り出される。

 これでプルス・ガンダムにもドライベロスにも、補助的なものを除いて射撃武装は無くなった。

 プルス・ガンダムに残された武装は、右腕部に取り付けられたウミヘビと頭部バルカン、そしてビームサーベル。

 一方のドライベロスは、ビームサーベルを除けば、両腕部の三連装ビーム砲に腰部内蔵のビーム砲と、左腕部に構えるラージシールドのみ。

 ビームサーベルを構え、相手に向かって突進する二機。

 鍔迫り合いが起こった。

 ビームサーベルの力場だけでなく、二機から放たれるサイコフレームのオーラが交わり、衝突する。

「貴様のような俗物が、ニュータイプなどと……!」

「ニュータイプだなんだと、お前に人の何が分かる!」

「黙れ!」

 ドライベロスの腰部内蔵ビーム砲の発射口に、ビームの光が収束されていく。

「そうやって、誰も理解しようとしない人間が、ニュータイプなどと呼べるものかよ!」

 しかし、それを察知したアランはサーベルとスラスターの出力を全開にした。

 内蔵ビーム砲へとエネルギーを回していたドライベロスは押されはじめ、姿勢を大きく崩される。

 そして、その隙を突いたプルス・ガンダムは瞬時に上方へと飛んで、発射された内蔵ビーム砲を回避。

「上を取ったぞ!」

 ドライベロスの上方から、ビームサーベルで斬りかかった。

 

 再び、鍔迫り合い。

 だが今度は、明らかにプルス・ガンダムが有利であった。

 原因は、ドライベロス側のサーベルのパワーダウン。

 ファンネルや腰部の内蔵ビーム砲に、エネルギーを使いすぎたのだ。

「こ、こんなことが……!」

「終わりだ、カミロ・カーダ! その思想も、ジオンの呪いも!」

 何回か姿勢と位置を変えて切り結んだあと、じりじりと押されはじめるドライベロス。

 ドライベロスのコクピットにあるモニターの映像が、プルス・ガンダムのビームサーベルによって放たれる力場とプレッシャーに占有されていく。

 死の恐怖が、カミロ・カーダに襲い掛かった。

「死ねるものかよ!」

 ドライベロスの左腕部に付けられていたラージシールドで、プルス・ガンダムの頭部メインカメラを殴打する。

「往生際の悪い……!」

 二度、三度と叩かれ、その衝撃で僅かに姿勢の制御が狂うプルス・ガンダム。

 

 にやりと、カミロ・カーダが笑った。

 

 それを好機と捉えたドライベロスが、プルス・ガンダムの腰部に蹴りを入れて、蹴り飛ばす。

「白兵戦では初めてオレに勝てたようだが、これまでだ!」

 ドライベロスがラージシールドを捨て、左腕部にある三連装ビーム砲をプルス・ガンダムに向けて構えた。

「そこまでして……!」

 対するプルス・ガンダムも、ビームサーベルを放棄し、右腕部のウミヘビをドライベロスに放つ。

 

 三連装ビーム砲は、プルス・ガンダムの頭部と左脚部に命中。

 しかし、ウミヘビはドライベロスに当たらなかった。

 姿勢を崩していたからか、アラン・ダレンの集中力がついに切れてしまったからか。

 一撃必殺のウミヘビはドライベロスに電撃を放つことはなく、ただのワイヤーとしてドライベロスの近くを通過していった。

「ハ、ハハ、ハハハ! やはり、所詮は貴様だアラン・ダレン! まがい物の、ニュータイプめ!」

 もはや反撃の術を無くしたプルス・ガンダムに対して、ゆっくりと三連装ビーム砲の照準を合わせるカミロ。

 一方、照準を合わされてなお、回避運動のひとつも取らず、ウミヘビを射出したままの姿勢で固まっているプルス・ガンダム。

 どれだけプルス・ガンダムがサイコフレームと専用のシステムによる超高機動を使えようとも、それは十全の姿勢制御と運動性能があってこそ。

 頭部のメインカメラと左脚部のスラスターを失った今の状況では、到底不可能だったからだ。

「さらばだ、アラン・ダレン! ニュータイプのなり損ないめが!」

 カミロ・カーダは、己の勝利を確信した。

 

「やはり、お前は何も理解してないよ。カミロ・カーダ」

 

 カミロは、見落としていた。

 斬り合いの中で二転三転した位置と姿勢。

 土壇場で放たれ、命中しなかったウミヘビ。

 そして、最後まで冷静さを失わなかったアラン・ダレン。

 そういうすべてのピースを見落とし、どちらがニュータイプとして相応しいかということに固執してしまった。

 

 アラン・ダレンが放ったウミヘビは、()()()()()()()()()のだ。

 それは、ドライベロスにではない。

 白兵戦を仕掛ける過程で切り落とされた、自らの左腕部。

 まだ残弾の残っていたビーム・マシンガンを持った左腕部こそ、アラン・ダレンがウミヘビというワイヤーで狙った標的。

 回避運動も取らずに固まっていたのは、カミロに気づかれることなく、射出したワイヤーを巻き取るため。

 

 そして今、プルス・ガンダムの右腕部には、ビーム・マシンガンが。

 

「終わりだと言ったぞ、カミロ・カーダ」

 放たれたビームの雨が、ドライベロスの胸部を散々に撃ち抜く。

 何かを叫ぶ猶予もなく、カミロ・カーダは機体諸共、爆散した。

 

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