機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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第Ⅱ部 極光の見えた地で ─U.C.0096─
─prologue─ アクシズを運ぶ極光


 宇宙世紀(Universal Century)0093。

 

 オーストラリアの地で、アラン・ダレンは極光(オーロラ)を見た。

 地球に落とされようとしていた小惑星・アクシズがその極光に運ばれ、地球から離れていく奇跡を見た。

 オーロラ。虹。未知なる光。

 呼び方など、いまのアランにとってはどうでもよかった。

 彼の頭上でアクシズを包み込むようにして輝く光の幕は、そういった理屈や言語を超えて、アランの心を揺れ動かす。

「アラン隊長! マリアとリンのお嬢は地下のシェルターへ避難完了ッス。農場の作業員もほとんどがそこに、あとは隊長だけッスよ」

 一年戦争から共に生きてきた部下、ジャン・ミンウェイがアランへと駆け寄る。

「……ジャン、空を見てみろ」

「なに呑気なこと言って────」

 空を見たジャンは、言葉を失った。

 どう考えても、現実的にはあり得ない光景。

 オーストラリアの地でオーロラが、それもアクシズを包み込むようにして、地球に核の冬をもたらそうとした小惑星を何処かへと運んでいる。

「あ、あれはなんなんスかね……?」

「さぁな……。だが、少なくとも悪いものではない」

 ポカンと口を開けて、光の幕がたゆたう空をただ眺めるジャン。

 一方、アランはあの光の正体が少しだが理解できた。

 

 あれは、人の心の光。

 

 かつて、アランが乗ったモビルスーツ。

 サイコフレームが搭載された未知なる機体、プルス・ガンダムがみせたものと、同じ光だったのだ。

 人の心に働きかけ、その心の振れ幅を光と力に変える素材であるサイコフレームが、いかなる奇跡を起こすのか。

 アラン・ダレンは少なくとも一度、それを体験している。

 そして極光の幕に乗り、戦った男はいま、再びその極光がもたらす奇跡を目の当たりにした。

 チベットのラサに対する5thルナ落下から始まったシャアの反乱、その終わりをいま、アランたちは見ている。

 愚かな地球人類を罰するべく行われた新生ネオ・ジオン総帥、シャア・アズナブルによる地球寒冷化作戦。

 人類の断罪と、地球への贖罪。

 人間の愚かさと、知恵の相克。

 そういったものに対する答えがこれなのだと、アランは思った。

 

「人の過ちも、生み出される悲しみも、この光があるなら……」

 

 アランとジャンの後ろから、声がした。

 その声を発したのは、リン・サザナミ。

 アナハイム・エレクトロニクスに雇われた、モビルスーツのパイロットでしかなかったアランを変えた少女である。

「お嬢! シェルターにいないと!」

 ジャンは狼狽するが、リンは微笑んでいた。

「いいんです。わたしは、アランさんと一緒にいますから。……それに、もう心配はいらないでしょ?」

 そう言って、リンはアランの手を握る。

 この少女にも、既に伝わっていた。

 あの光が何であるか、という科学的なことではない。そういう理屈の上の話は、いまのアランとリンにとってさほど重要ではなかった。

 なぜなら、いま空で輝く極光の幕は、そういう理屈から生じるものではないから。

 だが、あの光がなにをもたらすのか、そしてあの光はなぜあそこまで優しく光るのか、アランとリンには感覚で伝わっていたのだ。

「あぁ。あの温かい光のおかげかもしれない」

 

 温かい。

 触れたわけでも、ましてや近づいたわけでもないのに、なぜこんな言葉が出たのか。それはアランにも分からなかった。

 だが。

 あの極光を表現するのに最も相応しい言葉は、これしかないとアランには思えた。

 あんな光を人間が生み出せるなら、人間だって捨てたものではない。

 人間の持つ誰かを救おうとする意志は、悲しみを振り払おうとする意志は、暗い宇宙でも極光のように輝くのだ。

 そういう気持ちを胸に抱きながら、アランたちはずっと極光の幕を見ていた。

 その心が、あの温かい極光を忘れぬように。

 

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