機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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オーストラリア大陸 サザナミ商会の訓練場にて

 ザクⅡJ型、通称は陸戦型ザク。

 一年戦争時の傑作モビルスーツであり、知らぬ者はいない名機、ザクⅡF型。そのF型に地上での運用を目的とした軽量化と細かな改修を行ったのが、J型である。

 いまアラン・ダレンが乗り込み、慎重にオーストラリアの乾いた大地を一歩、また一歩と踏みしめているのもまた、そのJ型だ。

 

「おーっ、流石はアラン隊長。難なく乗りこなした。見てるか、ガキンチョ。アレがモビルスーツの動かし方だ」

 それを遠巻きで眺めるジャン。

 そんな彼の隣には、不貞腐れてそっぽを向く一人の少女が立っていた。

 

 彼女の名前は、シャーラ。

 

 先ほどまでザクⅡJ型に乗っていた、ジャンク屋の娘を名乗る少女である。

「……どうでもいい。あと、父さんの方が()()()上手い」

「バカ言え。絶対に隊長の方が上だって。あのアラン隊長が、ジャンク屋の親父に負けるわけない」

()()?」

()()?」

 二十代も後半に差し掛かろうかという大の大人が、十代の少女と本気で睨み合うという()()()()()を後目に、ザクⅡJ型は前進や後退、敵機の攻撃を回避するように横へ動いたりしている。

 しかし、このJ型は通常のものとは大きく異なるものだということを、アランは理解し始めていた。

「モニターや計器類もさることながら、何より駆動系が朽ちていない。こちらの操作に対して、素直に応えてくれている。メンテナンスを怠っていたり、姿勢制御プログラムがお粗末な機体なら、ここまで良い動きはできない」

 アラン・ダレンは驚いていた。

 フットペダルを踏みこむ彼の足。

 操縦桿を握る彼の手。

 それらがまるでザクⅡとシンクロしているのかと錯覚しそうになるほど、このザクⅡJ型がアランに馴染んだからである。

 

 一年戦争の頃、アランは宇宙でザクⅡのF型に搭乗していた。

 量産型の代名詞ともいえるザクⅡF型は初期のモビルスーツだけあって、後に登場するドムやゲルググなどの機体と比べると、性能面では明らかに見劣りする。

 しかし、その素直な操縦性と汎用機らしい癖のなさ、良くいえば堅実、悪くいえば地味なその性能や設計思想がアランは気に入っていた。

 そしてこのザクⅡJ型にも、そういう()()()()()がしっかりと受け継がれている。

 アランはそう感じ取った。

 極端な改造や原型を留めない改修は施さず、あくまでザクという機体の持ち味を活かす。

 ()()()()()()()()()()

 いかなる状況にでもそれなりに対応が可能で、パイロットの腕次第で如何様にでも運用可能な汎用機。

 この機体に手を入れた人物は戦場という場所を理解していると、アランは確信していた。

 相応の武装を装備すれば、地球連邦軍の後方部隊程度なら単機での攪乱が十分に可能だろうと、アランは想像する。

「ただのジャンク屋が、こんなにも実戦を見越した機体を作れるわけがない」

 動きを止めたザクⅡがゆっくりと片膝を地面に下ろし、胸部のコクピットを覆うハッチが開く。

 それを確認したジャンとシャーラが、アランの元へと歩きはじめた。

 コクピット部分に掛けた昇降用のワイヤーを使い、ザクⅡから降りるアラン。

 それから彼は自分の身長の何倍もあるモビルスーツを、じっと見た。

「お前はまだ、戦いたいのか?」

 アランはザクⅡに、そう語りかける。

 当然、返事はない。

 だが。

 その特徴的なモノアイが。

 砂塵で汚れた装甲が。

 他のザク系機体のパーツで補修されたその姿が。

 ()()()()()()()()()()というこの機体の、そしてこの機体を所有していた者の意思の表れではないかとアランは思う。

 青空と荒野を背景に佇むモビルスーツに、アランはどうしようもないほどの戦いの空気を感じ取らずにはいられなかった。

 

「楽しかったッスか、アラン隊長。……で、どうッスかこの機体。使い物になる感じスか?」

 近寄ってきたジャンの言葉で、ふと我に返るアラン。

「あ、あぁ。これほどの機体なら、十分に使えるだろう。ここで働きたい、という話に関しては、リンさんに任せよう」

「……了解ッス」

 アランの様子が普段と異なることから、ジャンは察した。アランはシャーラという少女の背後にいる()()を警戒している、と。

 彼ら二人の関係も、かれこれ二十年になろうとしている。相手が何を考え、思っているかくらいは、表情から容易に推察できるのだ。

 ジャンはシャーラの方を向き、何事もなかったかのように話す。

「よかったな、ガキンチョ。じゃあ、あっちのビルでリン・サザナミってお嬢さんと会って、色々と手続きしてもらってこい。くれぐれも礼儀正しくしろよ。サザナミ商会で働くつもりなら、まずはそこからだ」

「あんたに言われたくない」

 シャーラはそう吐き捨てるように言うと、ジャンが指し示した建物に向かって歩いて行った。

「……クソ生意気なガキだ。親の顔が見てえ」

 

 そうして、シャーラの背中が豆粒ほど小さくなったとき。

「アラン隊長、このザク……」

「あぁ。こんなにも弄り回された逸品が、ジャンクヤードに転がっているわけがない。あのシャーラという子には、間違いなく何か裏があるだろう」

 二人の声色は、モビルワーカー乗りの警備員から、モビルスーツを乗りこなす戦士のものへと変わっていた。

「脅されているか、或いは洗脳されているか。いずれにしても、あの子だけの企みとは考えづらい」

「やっぱし、ッスか。いや、あんなクソ生意気で性格悪そうなガキが、兄弟のために働くなんておかしいと思ったんスよ」

「……それはともかく。狙いがなんであれ、探りを入れる必要はあるだろう。それと……、もしものときの備えもな」

 にやり、とジャンが笑う。

「ジーカスタム・パラベラム、いつでも動かせるッスよ。けど、隊長の機体はどうするんスか?」

 そのジャンの言葉に、アランはシャーラが持ちこんだザクⅡJ型の方を見た。

「────俺は、コイツを()()()()しようと思う」

 

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