「いい感じだ! 一年戦争の機体とは思えない!」
夕暮れの試運転を終え、アラン・ダレンがザクⅡJ型のコクピットから降りてくる。
ザクⅡJ型、改めザク・プロキシムの完成は間近であった。
丸二日かかった改修作業で、フランケンシュタインと表現されていたザクⅡJ型は、アラン・ダレンの乗機へと変化していた。
塗装はオーストラリアの荒れ地に馴染むタンカラーから、アランの好きな色である淡い水色に。
元から換装されていたジェネレーターを最大限に活かせるよう、冷却装置と動力パイプに手を加え、脚部バーニアの推力を調整。
背部バックパックは更なる機動力を確保するために、パワード・ジムのものに換装されている。
全体的なシルエットはおおむねザクⅡから変わっていないが、このパワード・ジム用バックパックは、ザク・プロキシムに少しマッシブなイメージを与えていた。
「あのバックパックはどうだ? 取り付けるのにえらく苦労したが、その甲斐はあったか?」
機体を降りたアランに、ナンドーが近寄る。
「問題ない。最初は半信半疑だったが、思いのほか馴染んでいる。ジェネレーターが良いんだろう」
「そこは、メカニックの腕が良いと言うもんだ」
「世辞は言わなくても、十分に分かっているよ。……武装に関しては、法規制や予算の関係でザクらしい地味なものになったな」
ザク・プロキシムの主武装は、ザクⅡ改が使用していたものと同様の、ⅯⅯP―80マシンガン。
これは小口径高速弾を撃ち出すもので、有名なザク・マシンガンよりも装弾数と反動制御で劣るものの、発射レートと弾倉の携行性では勝っている。
一応、銃身下部に単発式グレネードランチャーは装着しているが、
結果として、
「地味、とは随分な言いぐさじゃねぇか。これでも、あちこち探し回ってかき集めてきた掘り出し物なんだ。見ろ、あのクラッカーを。おめぇが爆発物はダメだって言うから、わざわざ閃光弾のヤツを引っ張ってきたんだ」
ザク・プロキシムの腰部に取り付けられたクラッカーを指さすナンドー。
「すまない、謝るよ。……だが、装備がこのマシンガンとクラッカー、それからヒートホークだけというのは、少し寂しいな」
「仕方ねぇよ。俺たちはもう、軍人じゃねぇ。ジャンクヤードに転がってる装備じゃあ、これが限界だ。できる限りのことはやったさ」
「……あぁ、そうだな」
アランは、完成したザク・プロキシムを見る。
彼の表情は険しい。少なくとも、苦労して作り上げた機体を見る目ではない。
アランは気づいていた。
モビルスーツを前にして、気持ちが昂っている自分に。
戦争の道具であるモビルスーツに、どうしようもなく惹かれている自分に、
つくづく、
アラン・ダレンという人物の真ん中には、どうしても掻き消せないほどの戦士としての心があるのだと、彼はいま痛感していた。
せっかく手に入れた、平穏な日々。
いま自分がやっていることは、それを徒に放棄する愚行ではないか。
だが、降りかかる火の粉を代わりに払ってくれる都合のいい
いや、そもそもそういう発想が、戦いを望むが故の方便なのだとしたら。
そういう堂々巡りの迷いが、アランの心にずしりと圧し掛かる。
「おやっさん、俺は────」
迷いの圧に耐えかねた心の悲鳴が、弱音となってアランの口から漏れ出た時。
「このザクが現役だった頃は、良い時代だったよな」
藪から棒に思えるナンドーの言葉。
だが、アランは特に何も言わず、黙って聞く。
理解したつもりになってはいけない。それはアラン・ダレンがリン・サザナミから最初に学んだことであった。
「連邦軍にまだモビルスーツがなかった頃なんて、コイツが無敵の英雄に思えたもんだよ。連邦なんざ、このザクで蹴っ飛ばして、新しい時代が来るんだってよ」
独白に近い言葉。
しかし、アランはその言葉がまるで自分の口から出ているかのように思えた。
「……でも結局、勝てなかった。たしかにモビルスーツの時代は来たが、ジムだのガンダムだの、えらい性能のモビルスーツがあっという間に連邦から現れて、全部持ってっちまった。おまけに、お次はアナハイムのムーバブル・フレームだのなんだの……」
目を細めて、ナンドーはザクのモノアイを見る。
どれだけ改修や塗装で誤魔化しても、元は今から十年以上も前の一年戦争で使われていた機体。
モノアイのレールや装甲のあちこちには、錆や剥き出しの装甲板が人間の皺のように刻まれている。
そんな姿になっても、戦う理由は。
まだ自分たちの時代は終わっていないと抗うためか。
或いは、自分たちの時代の幕引きを、自らで行うためか。
「ザクの時代は、あっという間だったなぁ」
まるで鏡に映った自分の目を覗き込むように、ナンド―は目を逸らさない。
「けど、それでいい。古き良き時代、なんてのはおいらたち老人が懐かしむだけ。時代は変わり、人も変わる。それでいい。
一度、噛みしめるように瞼を閉じた後、アランの方を向く。
「それを拒んで、暴れまわるヤツなんざ、亡霊なんてもんじゃねぇ。とびっきりの怨霊だ」
アランの肩をポンと叩いたナンドーは、手を振って宿舎へと去っていく。
「アランよぉ。連中の時代の幕を、下ろしてやんな。次の時代に、怨念まで持ってくことはねぇや」
時代。
そういう考えは、今の今までアランの中にはなかった。
これが年の功というものだろうかと、アランは僅かに笑う。
アランやナンドーは、同じくジオンの旗の元で戦ったが、過去に縛られた怨霊ではなく、現在を生きる人間に運よくなれた。
流れゆく時代の中で生きる者になれたのだ。
それを享受することは、悪いことではないと思う。
だが、かつてジオンという旗を振った人間として、そのジオンに引導を渡すのもまた自分たちの義務、責任ではないか。
この考えが例え戦いを求める方便であっても、アランにはこれがとても口当たりの良いものに感じられた。
「その役目、引き受けよう」
そのとき、アランの携帯端末にジャンから短い報告用のメッセージが届く。ジャンはアランから指示を受け、アデレード近郊で何者かの不審な動きはないかを探っていた。
その文面を見たアランは、渡りに船だと指を鳴らす。
「……だが。まずはなるべく文明的に、