機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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幕間 トリントン襲撃へと

 宇宙世紀(Universal Century)、0096。

 地球という揺り籠の中から人類が巣立ち、宇宙へとその生存圏を広げはじめてから、百年の時が経とうとしていたとき。

 オーストラリア大陸。

 一年戦争においてコロニーが落下した地で、その百年の間に堆積された怒りと憎悪が、新たな戦いを生み出そうとしていた。

 

 ────連邦に一泡ふかせる。協力されたし。ダカールは前哨である。

 

 かつて、ジオン公国軍が地上降下作戦の折に用いていた符牒。それを使ったジオン残党勢力への蜂起の呼びかけ。

 長きに渡り、地球の各地で潜伏していたジオン地上軍の生き残り達の多くが、それに呼応した。

 ザクやグフ、ドムやズゴック。ともすれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、一か所に向けて進軍を始める。

 その様はまるで、燃え残っていた一年戦争の火種が再び燃え広がるように。

 攻撃目標は、トリントン。

 

   ◆

 

「────アラン隊長。ジオン残党が、ダカールを襲撃したって話ッス」

「あぁ、聞いている。……始まるのか、とうとう」

 ザク・プロキシムとジーカスタム・パラベラムが置かれている格納庫に、アラン・ダレンとジャン・ミンウェイはいた。

 自らの乗機であるザク・プロキシムの前に立ち、アラン・ダレンは改めて思う。

 一年戦争から、もうすぐ二十年の月日が経つ。

 人類の半数以上が死に、未だに消えぬ傷跡を宇宙と地球の両方に残したあの戦争から、二十年。

 ジオン軍として戦っていた日々は、アランにとっては最早()()()()()()()、過去でしかない。

 そういうふうに区切りをつけられたのは、過去を過去のものとして今日を生きられるようになったのは、ひとえに多くの人々とのかけがえのない出会いがあったからだと、アランは痛感している。

「……俺は、なれるだろうか。リムドにとっての、()()()()()()()に」

 ぽつり、とアランが呟く。

 彼が見上げるザク・プロキシムは、何も答えない。

 戦う兵器でしかないモビルスーツが、語りかけに応じるわけがなかった。

 ガンダムだろうと、ザクだろうと、そこは変わらない。

 ()()()()()()()()()()()()()、物でしかないのだ。どう使い、何を為すかは、結局のところ人間の手に委ねられている。

 機械に善も悪もない。宇宙世紀になろうと、変わらない道理だ。

 ならば。

「やってみるさ。あぁ、やってみるとも」

 その決意に淀みはなく、その瞳に迷いはなかった。

「これが、俺の最後の戦いだ」

 

   ◆

 

「ヨンム・カークスの部隊と連絡が取れました。予定通り、他の部隊と合流してトリントン基地へと向かうようです。……()()()()ですな、隊長殿」

「あぁ、()()()()だ」

 副官の言葉に、リムド・リンクリッツは目を瞑った。

 彼はいま、乗機であるグフ・パサードのコクピットに座っている。

 時代は既に全天周囲モニターとリニアシートだというのに、古臭いモニターと機材類が並ぶコクピットに座る彼は、時代に取り残されたようであった。

「連中にはシャンブロがある以上、連邦に対しても善戦できるでしょう。……あとは、我々がどれだけ敵の戦力を割けるかですな」

「アデレードの連邦軍基地は、オーストラリアでも有数の規模だ。こことトリントンを同時に攻撃すれば、この一帯の連邦軍はしばらく混乱するだろう。連中が暴れまわる時間は、十分にあるはずだ」

 副官は、待ちかねていた祭りの段取りを説明するように、作戦について滔々と語っている。

 だが、そんなことなどリムドにとっては、最早どうでもよかった。

「……来るのだろう、アラン・ダレン」

 リムドは思い返す。

 自らの前に同じ戦士として立ちながら、青臭いとも思えるほどの理想を心に残していた男の姿を。

 その瞳にあった確かな輝きに、リムドは嫉妬すら覚えていた。

「何もかも取りこぼした、既に手遅れの老兵を、よもや助けるとはな」

 ああいう輝きが自分にもあれば、何かが違ったのだろうか。

 そんな他愛のない思考が、リムドの脳裏をよぎる。

「……だが、立ちはだかるなら、戦うのみ」

 それが、リムド・リンクリッツという男の生き方。()()()()が、リムド・リンクリッツという男に残された選択肢だった。

 つくづく愚かな男だと、リムドは自らを嗤う。

「往こうか、グフ・パサード」

 リムドは操縦桿を握る。彼が愛した者たちの手よりも長い間握ってきたその操縦桿は、彼が相応しい最期を迎えるその時まで、リムドの求めにモビルスーツとして応じるだろう。

 そして、その最期は近いと、リムドは確信していた。

「これが、最後の戦いだ」

 

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