地球という揺り籠の中から人類が巣立ち、宇宙へとその生存圏を広げはじめてから、百年の時が経とうとしていたとき。
オーストラリア大陸。
一年戦争においてコロニーが落下した地で、その百年の間に堆積された怒りと憎悪が、新たな戦いを生み出そうとしていた。
────連邦に一泡ふかせる。協力されたし。ダカールは前哨である。
かつて、ジオン公国軍が地上降下作戦の折に用いていた符牒。それを使ったジオン残党勢力への蜂起の呼びかけ。
長きに渡り、地球の各地で潜伏していたジオン地上軍の生き残り達の多くが、それに呼応した。
ザクやグフ、ドムやズゴック。ともすれば
その様はまるで、燃え残っていた一年戦争の火種が再び燃え広がるように。
攻撃目標は、トリントン。
◆
「────アラン隊長。ジオン残党が、ダカールを襲撃したって話ッス」
「あぁ、聞いている。……始まるのか、とうとう」
ザク・プロキシムとジーカスタム・パラベラムが置かれている格納庫に、アラン・ダレンとジャン・ミンウェイはいた。
自らの乗機であるザク・プロキシムの前に立ち、アラン・ダレンは改めて思う。
一年戦争から、もうすぐ二十年の月日が経つ。
人類の半数以上が死に、未だに消えぬ傷跡を宇宙と地球の両方に残したあの戦争から、二十年。
ジオン軍として戦っていた日々は、アランにとっては最早
そういうふうに区切りをつけられたのは、過去を過去のものとして今日を生きられるようになったのは、ひとえに多くの人々とのかけがえのない出会いがあったからだと、アランは痛感している。
「……俺は、なれるだろうか。リムドにとっての、
ぽつり、とアランが呟く。
彼が見上げるザク・プロキシムは、何も答えない。
戦う兵器でしかないモビルスーツが、語りかけに応じるわけがなかった。
ガンダムだろうと、ザクだろうと、そこは変わらない。
機械に善も悪もない。宇宙世紀になろうと、変わらない道理だ。
ならば。
「やってみるさ。あぁ、やってみるとも」
その決意に淀みはなく、その瞳に迷いはなかった。
「これが、俺の最後の戦いだ」
◆
「ヨンム・カークスの部隊と連絡が取れました。予定通り、他の部隊と合流してトリントン基地へと向かうようです。……
「あぁ、
副官の言葉に、リムド・リンクリッツは目を瞑った。
彼はいま、乗機であるグフ・パサードのコクピットに座っている。
時代は既に全天周囲モニターとリニアシートだというのに、古臭いモニターと機材類が並ぶコクピットに座る彼は、時代に取り残されたようであった。
「連中にはシャンブロがある以上、連邦に対しても善戦できるでしょう。……あとは、我々がどれだけ敵の戦力を割けるかですな」
「アデレードの連邦軍基地は、オーストラリアでも有数の規模だ。こことトリントンを同時に攻撃すれば、この一帯の連邦軍はしばらく混乱するだろう。連中が暴れまわる時間は、十分にあるはずだ」
副官は、待ちかねていた祭りの段取りを説明するように、作戦について滔々と語っている。
だが、そんなことなどリムドにとっては、最早どうでもよかった。
「……来るのだろう、アラン・ダレン」
リムドは思い返す。
自らの前に同じ戦士として立ちながら、青臭いとも思えるほどの理想を心に残していた男の姿を。
その瞳にあった確かな輝きに、リムドは嫉妬すら覚えていた。
「何もかも取りこぼした、既に手遅れの老兵を、よもや助けるとはな」
ああいう輝きが自分にもあれば、何かが違ったのだろうか。
そんな他愛のない思考が、リムドの脳裏をよぎる。
「……だが、立ちはだかるなら、戦うのみ」
それが、リムド・リンクリッツという男の生き方。
つくづく愚かな男だと、リムドは自らを嗤う。
「往こうか、グフ・パサード」
リムドは操縦桿を握る。彼が愛した者たちの手よりも長い間握ってきたその操縦桿は、彼が相応しい最期を迎えるその時まで、リムドの求めにモビルスーツとして応じるだろう。
そして、その最期は近いと、リムドは確信していた。
「これが、最後の戦いだ」