オーストラリア、ホワイト・クリフス。
砂漠化が進行しつつあるオーストラリアでも特に進行が酷く、サハラやゴビの砂漠と同様の砂と熱が支配するこの地で、戦いは起こった。
ジオン残党による一大攻勢を受けたトリントン基地は、周辺基地に増援を要請。それに応じたアデレードから先遣隊として、
しかし、その部隊は運悪くリムド・リンクリッツが率いる部隊の頭上を通過してしまう。
それを目の当たりにしたリムドが、120ミリガトリング砲を備えたザク・キャノンに対空射撃を命じたのは、言うまでもない。
「この辺りは砂漠化の影響で丘陵が多い。稜線を盾にしつつ展開し、墜ちた機体を狩れ。指揮官機を優先しろ」
「了解!」
リムドの指揮によって、砂ぼこりを巻き上げながら
ギラギラと照りつける太陽を装甲板に浴びながら意気揚々と砂漠を駆ける、ザク・デザートタイプやグフ。その様はまるで、一年戦争における地上戦の再現である。
対する連邦軍側は不意を突かれ、SFS撃墜の際に着地を失敗した一機が脚部を大破させてしまい、早くも行動不能となっている。
「敵の半数以上を墜としたか、上々だ。残りの連中も、じき降りてくるだろう。その前に────」
リムドもまた、愛機グフ・パサードで突撃する。
コクピットのモニター越しに流れていく風景。
じりじりと画面中央に迫りくる敵機の姿。
リムド・リンクリッツにとっての、見慣れた光景。馴染んだ、いや馴染んでしまった戦場の光景。
そして、おたおたと周囲の僚機を探すジムⅡがリムドの乗るグフ・パサードの接近に気づき、咄嗟にビーム・ライフルを構えた瞬間。
グフ・パサードが、
ジムⅡのパイロットが、グフ・パサードの姿を見失う。
それで終わり。
次の瞬間には、グフ・パサードのヒートサーベルが深々とジムⅡをその脳天から切り裂き、
「────墜ちた機体を、狩り尽くすまでだ」
残り八機。
リムドは心の中で敵機の数を数える。
リムド・リンクリッツが死にぞこないといった部隊の練度は、連邦軍の先遣隊とは比にならなかった。
アジアからアフリカにかけて、傭兵のように紛争地帯を渡り歩いていた彼らは、卓越した少数での戦闘技術を備えている。
集結も分散も思いのまま。
敵が一点突破を図れば分散し、敵が散開して各個撃破を狙えば集結する。
十機ほどしかない、それも骨董品同然のモビルスーツでいくつもの紛争を生き延びてきたのだ。これしきの芸当は、彼らにとってできて当然であった。
まさに
リムドという頭に従いながら、個の意思で獲物を狩る者たち。
リムドの部隊は、宇宙で生まれたモビルスーツという兵器を、地上で運用する術を熟知していたのだ。
ヒートホークがコクピットに突き刺さり、そのまま沈黙したガンキャノン・ディテクター。
至近距離でのザクマシンガンの射撃によって、無残にもコクピット周辺を撃ち抜かれたジムⅡ。
一切の遊びも、手心もなく、連邦軍兵士たちの断末魔とモビルスーツの爆発だけが砂漠に響き渡っていた。
黄色い砂に、
残り、五機。
撃墜された僚機を救うべく引き返した先遣隊の残りも、味方のあまりに無残であっけない散り際を目の当たりにして、ある者は恐怖して硬直し、ある者は冷静さを欠いて
これが、戦場。
殺す者と殺される者の、憎しみと悲しみがうんざりするほど充満する場所。
生きていれば、他に何かをできたかもしれない命が、こんな砂漠で無残に散っていくことが、正しいことなどあるわけがないのだ。
だが、それでも人類は、リムド・リンクリッツは戦いを止めることができない。
「なんと愚かで、救いがたい……」
リムドは、グフ・パサードのコクピットで呟く。
この戦いは、最早リムドが動かずとも勝利するだろう。
連邦軍の先遣隊はもはや部隊の体を為しておらず、散り散りになってしまっていた。
リムドは先遣隊の残数を数えることを止め、グフ・パサードの頭部は憎らしいほどに青い空を見上げる。
曇りきったリムドの心とは対照的に、彼が見た青空はどこまでも青く澄み渡っていた。
この先遣隊を全滅させたあとは、予定通りアデレードの連邦軍基地へと向かい、そこで思うがままに戦い、死ぬだけ。
質量ともに、アデレードの連邦軍はリムドたちの部隊よりも優っていた。勝負になど、なるはずもない。
今度はリムドたちが蹂躙される側になるだろう。彼らにとっての勝ち戦は、これが最後。
それでいい、とリムドは思っていた。
勝ち戦しかできない者は、ジオンの残党などやっていない。
むしろ、
彼らジオン残党は思う存分に戦い、負けたいのだ。
突然の休戦条約と、解体されたジオン公国。
己の中でくすぶり続けるジーク・ジオンという呪いと、在りし日に抱いた打倒地球連邦の夢。
戦士としても、兵士としても中途半端なままで雌伏の時を過ごした日々。
そういう心の残骸ごと吹き飛ばしてくれるほどの負け戦によって、自身の生を終えたい。
ジオン残党というのは、つまるところ
────これが、自分の最後の戦いとなるのか。
そんな気持ちが、リムドの心に湧き出た。
その時。
「────隊長殿! 北から未確認機が二機、接近中!」
部下からの報告。
リムド・リンクリッツは静かに笑った。笑うしかなかった。
「……来たか、アラン・ダレン。違う道を歩んだ戦士よ」
本当に来た。来てしまった。
放っておけば勝手に死ぬ老兵を救うと言った、あの男が。
本来ならば戦う理由など既にないはずの、あの戦士が。
ならば、戦うのみ。
「気を引き締めろ。その二機は、連邦軍の雑兵とは格が違う」
リムド・リンクリッツはグフ・パサードの操縦桿を強く握る。
グフ・パサードと、ザク・プロキシム。
リムド・リンクリッツと、アラン・ダレン。
そして、過去を生きる戦士と、現在を生きる戦士。
オーストラリア、ホワイト・クリフスの地で両者が激突する。