新たなる搭乗機、プルス・ディアスを受領したアラン・ダレンは、アナハイム直轄のターミナルでマリアたちと合流していた。
このターミナルは月面都市グラナダに存在する有象無象のものとは異なり、アナハイム・エレクトロニクスの要人や招待された客人、そしてアランたちのような
アランたちはそこで、出撃の準備が整うまで待機していた。
「正式に命令が下されました。我々はインダストリアル5の周辺宙域を警戒し、ネオ・ジオン残党勢力を発見した場合、即座に撃滅せよとのことです」
アランたちと彼らが乗るモビルスーツを作戦宙域周辺まで運ぶ航宙輸送船、ストラダーレ号の内部。
現在はターミナルに停泊して出航の時を待っているその船の操縦室で、アランたちは出撃前の作戦会議を行っていた。
「とうとうネオ・ジオンの残党であることを隠すのもやめたか。やはり、上層部はまだこの一件に関して秘密にしていることがありそうだ」
「はい。隊長に新しく与えられたプルス・ディアスもそうですが、今回の任務はいつもより更によくない予感がします」
アランとマリアの表情は険しい。
「そうッスね。最初の目撃地点である資源衛星の方には、極秘裏に上層部が手配した地球連邦軍のモビルスーツ部隊も向かっているらしいッス。こりゃあ本当に、嵐の前触れかもしれないッスね」
一方、ジャンは棒つきの飴玉を咥えて副操縦席の椅子にゆったりと座り、マイペースそのものである。
「地球連邦軍が? まさか、資源衛星が地球に落とされると踏んだのか。だが、あれはそこまで大きいものでもないだろう」
アランはその地球連邦軍の部隊が、かつて何度も地球に向かって行われたコロニー落としを警戒していないことに疑問を抱いた。
極秘裏に動いているアランたちが、現場で正規の地球連邦軍部隊と遭遇すれば面倒なことになるのは必然だったので、彼らにとってはありがたい話ではあるのだが。
「はい。資源衛星B79はかつて地球に落とされたコロニーや、周辺の衛星に比べても小さいものです。大気圏突入までを計算に入れないとしても、被害は都市をひとつ壊滅させる程度かと。……十分な惨劇ではありますが」
「とにかく、だ。ネオ・ジオン残党の排除、いやコロニーの警備任務中にそのモビルスーツ部隊が介入してくる可能性も捨てきれない。そうなったとき、上層部が向こうに俺たちのことを知らせていなければ……」
アランはあえて最後まで言わなかったが、マリアとジャンは理解した。
一年戦争の時と同じように、地球連邦軍のモビルスーツと戦わねばならないことを。
しばらく重たい沈黙が流れた後、アランが操縦席から立ち上がった。
「考えたところで、状況はこれ以上好転しないだろう。二人共、よく調べてくれたな。俺も休むから、二人もしっかりと休んでくれ。休むことも、仕事のうちだ」
アランはマリアたちに微笑んでみせたあと、操縦室を後にする。
その背中に透けて見える苦悩をマリアとジャンは感じ取っていたが、二人にはかける言葉が見つからなかった。
アランは独り、ターミナルの待合室へと向かう。
その足取りは決して軽やかなものではなく、ただ行き場もなくうろついているようであった。
「────結局、俺たちは生きている限り、血を流し続けるしかないのか」
一年戦争の終戦直後、アランはもうこれ以上自らの前で意味のない流血が起こってほしくないと、ジオン軍兵士たちの武装蜂起を止めた。
グリプス戦役のときも、ティターンズとエゥーゴ双方の戦いに巻き込まれる一般市民をどうにか守ろうと、救助活動に尽力した。
だが、何度守ろうともこの宇宙ではまだ争いが起こり、悲劇と流血は続いている。
「俺たちが戦うから、また血が流れるのか? ここまでして、まだ戦う意味を俺は持っているのか……?」
アランにはもう、何も分からなくなっていた。
彼は片方の命を守り、もう片方の命を奪うという戦士の終わることのない宿命に、疲れ始めていたのである。
「正しい答えなんて、ないだろうにな。……本当に、俺がニュータイプなら、こんなことにも悩まなくて済んだかもしれないが」
自動で開いたドアをくぐり、待合室に入ったアランは部屋に誰もいないことを感謝した。
彼は待合室のコーティングが施された複合層ガラス越しに見える宇宙を、ベンチに座ってただ眺める。
ニュータイプ。
ある者は、その存在をオカルトめいた噂話だと一蹴する。
ある者は、それこそが人類の革新であると声高に唱える。
ある者は、
一年戦争以前から、宇宙に適応した新人類が存在するという説は常に唱えられており、それがジオニズムの台頭と宇宙移民独立の気運を高めた。
そんなニュータイプならば、今のアランのように戦う理由を考え、悩むこともなかったのではないかと彼はつい考えてしまう。
そして、自分がニュータイプであったなら簡単に答えを見つけ、戦う以外の道を見つけられただろうにと、アランは自らの愚かさを嘆くのだ。
「……やめよう。そういうニュータイプへの限りない羨望が、一年戦争を起こしたんだ」
だが、ならばどうやって答えを見出せばいいのか。
そんな泣き言をアランはどうにか飲み込んで、星々の輝く宇宙を見上げる。
「モビルスーツに乗っている時は気がつかないが、やはり
ぼそっと、アランはまた独り言を漏らす。
「────そうでしょうか? ただ冷たいだけじゃない気がするのは、わたしが地球生まれだから?」
突然、待合室の入口から聞きなれない少女の声がして、アランは後ろを振り向く。
そこには金髪碧眼の少女が立っていた。
アランが振り向いたことに気づいた少女は、彼に対して微笑みかける。その微笑みは彼女が着ている白い服よりも純白に輝いていた。
「……もしよければですけれど、少しお話しませんか?」
自分が突拍子もないことを言っているという自覚はあるのか、少女は僅かにその頬を赤く染めて、時折アランから目を逸らしている。
そんな少女の様子を見て断れるほど、アランは大人になりきれてはいなかった。
「構わないさ。こちらも、一人でいたら際限なく暗い気分になってしまう性分だと、ついさっき自覚したところだからね」
「そうなんですか? わたしは逆に、自分ひとりだと興味の向くままに何処へでも行ってしまうって、父から怒られたことがあるんです」
明るく、しかし口に手を当てて上品に笑う少女に、アランも思わず頬が緩んだ。