黄色い砂漠と青い空の狭間、地平線から二機のモビルスーツが現れる。
ザク・プロキシムと、ジーカスタム・パラベラム。
かつてジオン軍で採用されていたザクⅡと、連邦軍で運用されていたジム改をベースにした改造機が肩を並べて戦うこの光景は、一年戦争時のジオン公国軍モビルスーツだけで構成されたリムド・リンクリッツの部隊とは対照的であった。
向かい合う両部隊。
たった二機のモビルスーツに対して、リムドの部隊は十機。先ほど連邦軍の先遣隊を平らげた、この群狼のような部隊は士気も高かった。
そして特に策を弄する必要などないと判断したのか、リムドの部隊は集結することもなく、各々がまっすぐにアランたちへと向かっていく。
「敵中央の機体、あれが指揮官機と見て間違いないだろう」
「じゃあ、自分がそこまでの道を切り拓くんで、アラン隊長はそこで存分に
余計な問答など必要ないと言わんばかりのジャン・ミンウェイの言葉。
「いいのか?」
「今さら。それをするために、ついてきたようなものッスからね」
「……ありがとう、ジャン」
「いいんスよ。……そういう隊長だから、自分もマリアもついていくんだ」
速度を落とすジャンのジーカスタム・パラベラム。
対して、散開している敵の中央、グフ・パサードに目がけて突っ込んでいくザク・プロキシム。
「アラン・ダレンが
当然、敵の半数がアランの乗るザク・プロキシムを反転して攻撃し、残り半数がジーカスタム・パラベラムを包囲しようと動く。
二機対十機。
そんな圧倒的といえる数的不利の状況でさらに戦力を分散させるという、愚策中の愚策。
自殺志願者かと、リムドの部下たちはコクピットで笑う。
「────隊長の邪魔をするんなら、覚悟しろよ」
しかし、その笑みはすぐに消えた。
ジーカスタム・パラベラム、正面に肉薄。
ジム改から余分な装甲や重さを切り捨て、突破力と一対一での戦闘に特化した接近戦用機体が、急激な加速を見せる。
余分な装甲、といえば悪く聞こえるかもしれないが、これはつまるところもしもの時の備えである。
攻撃や衝撃からパイロットを守る意図された余分、いわば転ばぬ先の杖なのだ。
しかし、ジーカスタム・パラベラムはそれらの余分が殆どない。転ばぬ先の杖ならば、転ばなければいいとでも言わんばかりに、あらゆる余分を削り落としている。
だからこそ可能な、殺人的なまでの加速。
じりじりと包囲を狭めつつあったリムドの部隊を突破しかねないほどの、驚異的な突破力。
「ぼーっ、と突っ立ってんじゃねぇよ!」
そして、自身の正面にいた敵のザクⅡが振るったヒートホークを、最低限の動作で躱したかと思えば。
それを半ば踏みつけるように蹴り倒して、さらに前へ。
包囲を突破したジーカスタム・パラベラムとジャン。だが、まだ止まらない。
標的は自身を包囲しようとするモビルスーツではなく、アランを追う敵機の群れ。
「……追いついたぁっ!」
弾丸のような向こう見ずな加速でその最後尾に接近すると、ジーカスタム・パラベラムは自身の右脚部側面に取り付けられた
直後に発砲。
ドウッ、と一発の銃声がしたかと思えば、最後尾でアランを追っていたザク・キャノンの頭部が消し飛んだ。
散弾が有効な距離ではなかった。
「当たるもんだな、
ガコンという音を立てながらフォアエンドを後退させ、ジーカスタム・パラベラムは次弾を薬室へ装填する。
メインカメラを失ったザク・キャノンは、為す術なくその場に倒れた。
もしや、これが敵の作戦なのか。自らをさらなる不利に叩き落すような愚策も、あまりに極端な改造が施された機体も、初めから単機で指揮官機へと突撃していった動きも。
すべてが、こちらを翻弄するための作戦なのだとしたら。こうやって時間を稼いで、連邦軍の増援が到着するのを待っているのか。
そんな疑念が、リムドの部隊に蔓延する。
「やむを得ん! まずはあの活きがいいジムもどきを仕留めろ! アデレードの決戦を前に、有限な戦力と時間を削られては困る! 一対一で隊長殿が負けることなどあり得んからな!」
やむを得ずリムドの部隊は指揮官であるリムド・リンクリッツを除いて、全機がジャンのジーカスタム・パラベラムへと向かう。
状況は一対一と、一対八。
常識的に考えれば、ジャンは自ら死地へと飛び込んだようなものである。
「食いついたな、餌に」
しかし、ジャン・ミンウェイは笑う。
パイロットの負荷を無視した加速にも、八体のモビルスーツが自身を狙う状況にも、ジャンはまったく恐怖しない。
彼の両の目が輝きに満ち、全身の血管が強く脈打っていた。
いま、ジャンが考えることはただひとつ。
如何にして殺さずにこの八体の骨董品を片づけるか、だけ。
ジャンの感覚と精神が、戦いの中で研ぎ澄まされていく。思考も逡巡も、戦いに不要な余分なものが削ぎ落されていく。まるで、彼の乗機であるジーカスタム・パラベラムのように。
いまこの時だけ。
ジャン・ミンウェイは妻と子が我が家で待つ
「────露払いは、得意中の得意でね」
アラン・ダレンを支える
「舐めるなよ、連邦の犬っころ!」
そんなジャンの乗るジーカスタム・パラベラムに接近する、ザク・デザートタイプが一機。
彼もまた腕利きのパイロットなのだろう。ザク・デザートタイプの左肩には、コンドルを模したエンブレムが描かれていた。
構えたザクマシンガンを撃つザク・デザートタイプ。装甲がないに等しいジーカスタム・パラベラムは、一発でも直撃すればそれで終わりだった。
だが、ジーカスタム・パラベラムはそのすべてを圧倒的なまでの運動性能で回避する。
否、回避しながら距離を詰めている。
もはや射撃では仕留められないと悟った敵パイロットは、舌打ちをしながらヒートホークを構えてジャンの攻撃に備える。
対するジーカスタム・パラベラムも、ショットガンから近接武器に持ち替える。
端的に言えば、それは日本刀であった。
ジーカスタム・パラベラムの背部からぬるりと引き抜き、下段に構えたその武器は、専用のヒート・ブレード。
グフ系統の機体が使うヒートサーベルよりも長く細い、赤熱化した刃を持つ刀。
ビームサーベルが一般化した連邦軍の機体が持つには、あまりに異端の武器であった。
ジャンも、敵のパイロットも、この戦いは一瞬で決着がつくと本能で理解した。
互いに手練れである以上、余計な立ち回りや戦術など要らない。もはやそんな小細工を弄する間合いではなかった。
より技量が、経験が、センスが優れていた者が勝つ。純粋な一対一の勝負であった。
ジーカスタム・パラベラムとザク・デザートタイプ。
両機が、刃を振るう。
ジーカスタム・パラベラムは、ヒート・ブレードを下段から切り上げるように。
ザク・デザートタイプは、ヒートホークを上段から頭部を切り裂くように。
一閃。
すれ違った二機のうち、立っているのはジーカスタム・パラベラムのみ。
脚部を切断され、赤熱した切断面が露わとなった脚部を残して、地面へとザク・デザートタイプの上半身が落ちる。
思わずモビルスーツを停止させ、固唾を飲む残党たち。
彼らは見た、見てしまったのだ。
振り下ろされたヒートホークと刃をぶつけたかと思えば、その反動を利用して瞬時に刃の向きを変え、すれ違いざまにザク・デザートタイプの脚部を切断せしめた神業に。
その技は、こう評するほかにない。
────
「安心しな、ジイさんども。うっかり冥土に行っちまわねぇように……」
己が肉体から切り離されているはずのモビルスーツ、操縦桿とフットペダルで動かす頭頂高18メートルの機械の巨兵を操って、ジャン・ミンウェイは
「
ジャン・ミンウェイ。
彼は紛れもなく天才だった。