何故、モビルスーツの白兵用武装に刀が用いられないか。
ヒートホークより細く、ヒートサーベルよりも長い。ビームサーベル並みのリーチの長さと切れ味を誇る実体剣。
これだけならば、非常に強い長所を持つ優秀な武器である。
だが、この長所を潰してしまうほどの短所がジャン・ミンウェイが駆るモビルスーツ、ジーカスタム・パラベラムの白兵用武装であるヒートブレードにはあった。
刀は二足歩行の有人ロボットが扱うには、あまりに繊細なのだ。
振って当たれば切断できるビームサーベルに対して、長く細い刀身は使いこなすために一定の技量を要求する。ヒートホークやビームサーベルと同じように振り回せば、一回の戦闘で刀身が欠けたり、折れる可能性は十分にあった。
当然、携帯性や重量ではビームサーベルに及ぶべくもなく。
つまるところ、長所に対して短所が多すぎるのだ。
では、そんなものを何故、ジーカスタム・パラベラムは使用しているのか。
その問いに対する答えも、また単純。
ビーム系兵器の所持を一切認められず、ジェネレータ―の出力も軍のモビルスーツとは比べるべくもない民間機において、軍用のものと変わらない近接戦闘能力を発揮できる数少ない武装。
攻撃と機動力を信仰するジャン・ミンウェイが、こんな武装を使わないわけがない。
短銃身のスラグ弾を装填したショットガン。
保険として装備している頭部バルカン。
敵の目を眩ませるための
これらの装備はジーカスタム・パラベラムにとって、いわばおまけ。
極限まで接近戦用にカスタマイズされたこの機体の真価は、背部に装備したヒートブレード一本のみ。
如何なる装甲も切断し得るこの武装に全てを懸ける、およそ正気ならざるモビルスーツ。
徹底的に軽量化された姿で弾丸のように敵へと肉薄し、一刀のもとに斬り伏せる修羅の機体。
ジャン・ミンウェイという男の、戦いに対する姿勢を具現化したような兵器。
それこそが、ジーカスタム・パラベラム。
そんなモビルスーツはいま、熱砂の地獄で一対七の死闘を繰り広げていた。
「────ちぃっ!」
側面から撃ち込まれたザク・キャノンの砲弾が、ジーカスタム・パラベラムのすぐ横を通り抜けた。
ガタガタと揺れるコクピットを気にも留めず、ジャンは操縦桿を強く握り直して、フットペダルを思いきり踏みこむ。
ジーカスタム・パラベラム、跳躍。そこから敵のザク・キャノン目がけて、まっすぐに突っ込んでいく。
壁に挟み込まれるような強いGがジャンの肉と骨、そして内臓を襲う。
間違いなく寿命を縮めるほど、殺人的な加速。血液の循環が妨げられ、目の後ろ辺りに激痛が走り、呼吸すら苦しくなるジャン。
だが、彼は臆さない。
着地と同時に、ジーカスタム・パラベラムはザク・キャノンの頭部を撥ねる。そこからくるりと腕部マニピュレーターの方向を変えて、左腕部を切断。よろよろと後ろに下がるザク・キャノンに右脚部で蹴り倒し、次なる獲物をモニターの中央に捉える。
そして、あまりに機械の枠を超えた動きに狼狽していたザクⅡに接近すると、反撃する余裕すら与えずに脚部と頭部を切断した。
そんな瞬間でも、今すぐ全てを投げ出してしまいたくなるほどの痛みが、ジャンの身体を支配しようとしている。
「ッ……! ハァッ、ハァ……。難儀なモンだよなぁ、俺も」
ジャンは理解していた。
妻であるマリア・ミンウェイや尊敬するアラン・ダレンと異なり、彼は戦いの中で充足を得られる人間であった。
自らと同等の強敵や、圧倒的なまでの不利の中で戦うことに対する歓喜の念。
多くの者が唱える倫理や常識を飛び越えて、戦いに没入していく心。
戦いに適応して生き延びる才能が、戦場で生きていく力がジャン・ミンウェイにはあった。
「
だからこそ、彼はアランについていく。
戦いしかできない人間にならぬように。
穏やかな日々、温かな日常を喜べる人間になれるように。
ジャンは感覚すら薄れ始めた自らの両手両足に力を籠め直した。
「優しさとか、呪いとか、ジオンとか。そういう難しいことは、よく分かんねぇ。学なんて欠片もねぇ、学徒兵崩れだからな」
ジーカスタム・パラベラムもまた、ヒートブレードを構え直す。
左脚部を前に出し、刀を頭部の横で構える。
刃を上の方に、切っ先を相手のほうに向けて、鍔が頭部のメインカメラと同じくらいの高さに来るように置く。
所謂、
「────ただ、
ジャンの乗るジーカスタム・パラベラムを取り囲む敵の数は、未だ五機。
対する彼は肉体へのダメージが着実に蓄積しており、それがモビルスーツの操縦や判断能力に悪影響を及ぼしているのは明確であった。
今のところ機体には損傷こそないが、全体の装甲を限界まで削っているジーカスタム・パラベラムにとって、攻撃の命中は死を意味した。
推進剤の残量も多くはない。元々、サザナミ商会の私有地を警備するという名目で保有していたモビルスーツである以上、継戦能力は決して高くはなかった。
スラグ弾と発煙弾の残数も残り二、三発。
戦況は最悪。
死神の手が
「だから、最後まで
それを振り払うように、ジーカスタム・パラベラムは再び加速。敵中に突撃していく。
脳裏に浮かぶマリアやリース、アランの顔を心の中に抱えて。
ジャン・ミンウェイは刀を振るい続ける。