天井と左右、そして正面にモニターが並ぶザク・プロキシムのコクピット内部。
そこでアラン・ダレンはシートに座り、操縦桿とフットペダルを動かして自身の体躯の何倍も大きいモビルスーツを操縦する。
アランがアナハイム・エレクトロニクスの警備部に所属していた頃に乗っていたものとは、比べ物にならないほどの旧式であるザク・プロキシムは計器類からフットペダル、操縦桿に至るまで殆どが一年戦争で使われていたままの姿である。
それ故に、ザク・プロキシムという機体はアランに、初めてモビルスーツに乗って戦った時の記憶を強く思い起こさせる。
人型機動兵器、モビルスーツを戦場で動かすという感覚。
全高18メートルの二足歩行ロボットに乗り込み、殺し合うという異常。
そして、かつて自分がジオンという呪われた旗の下で戦っていたという記憶。
「過去は、変えられないから過去なんだ。それにすがりついてしまえば、
その言葉は、いまアランが戦っているリムド・リンクリッツに向けたものか。
或いは、ジオンの亡霊と化したリムドと戦うことに恐怖している自身を鼓舞するためのものか。
ザク・プロキシムの数少ない武装のひとつであるMMP―80サブマシンガンを、リムドの操るグフ・パサードに向けて発砲する。
対モビルスーツを想定して設計された90ミリ小口径高速弾が、その銃口から発射された。
発砲の度にMMP―80の銃身が後退し、マズルフラッシュが光る。
それを、グフ・パサードはホバー移動を駆使して悠々と回避していく。
「迷いが見えるぞ、若き戦士よ! そんなざまで私は倒せん!」
ホバー移動が可能なグフ・パサードにとって、砂漠地帯での戦闘はまさに得意中の得意であった。
中央アジアの荒涼とした大地で戦い続けてきたリムドとグフ・パサードは、まるで氷上を滑るように軽快な動きを見せる。
「こちらも、ザクⅡ改の脚部にするべきだったか……」
アランはそう呟きながら、動き続けるグフ・パサードにどうにか照準を合わせようとする。
刹那、ぞくりとアランの背中に冷たい感覚が走った。
戦士としての直感。戦場を生き延びてきた者の持つ察知能力。
ザク・プロキシムの機体左側面にあるバーニアとバックパックの出力を全開にして、アランは機体を右に跳ばせる。
その直後に、グフ・パサードの小型レールキャノンから発射された実体弾が、ザク・プロキシムのコクピット部分だった空間を貫いた。
空を裂き、砂の山を削る一撃。
リムドの殺意が、びりびりとアランに伝わる。
「あの極光を、アクシズを押したオーロラを見ながら、何故まだ戦う!
ザク・プロキシムの脚部で砂を削りながらどうにか着地させたアランに、リムドからの問いが投げかけられる。
「戦いしか知らぬワケではないだろう! 過去に縛られているワケでもない!
リムドの言葉は、重たい。
ここはもはやお前の居る場所ではないのだと、突き放すようだった。
「
その言葉に、アランの心が強く反応する。
「違う!」
アランは操縦桿を強く握り、フットペダルをこれでもかと踏み込む。
パワード・ジムから換装された大型バックパック、その真価が発揮される。
砂漠に吹く突風のような一瞬の加速。
砂埃を巻き上げて、ザク・プロキシムがグフ・パサードとの距離を一気に詰める。
「誰かが救わなければ、誰も救われない!
────白兵の間合い。
アランとリムド、両者がそう悟る。
ザク・プロキシムはヒートホークを。
グフ・パサードはヒートソードを。
右手に構えて、振るう。
鍔迫り合いが起こり、砂漠に強烈な閃光が奔った。
「あの極光もそうだ! 誰かが、誰かを救いたいという意思! それが温かい光となって、アクシズを押したんだ!」
アラン・ダレンの心の底から発せられる、偽りのない言葉。
「あの極光のように、俺を救ってくれた人たちのように、俺も誰かを救いたい!
「青いな……。清々しいまでに」
リムドは笑った。
その笑みは、決して嘲りから出たものではない。
こんなにも青く若い心を持った戦士がいることに対する、羨望の笑みであった。
リムド・リンクリッツは思う。
この男ともう少し早く出会っていれば、自分も何かが違ったのだろうかと。
「また、変わらぬ過去を想うか……」
だが、ここは戦場。
力が支配し、死と憎しみが生み出される場所。
こうなってしまった以上は戦うしかないのだと、リムドはまたひとつ未練を捨てる。
「ならば、戦って救う道を、示してみせろ!」
グフ・パサードが、後ろに下がりながらヒートソードを引く。
鍔迫り合いの状態から、相手の姿勢を崩そうとするリムドの技。
しかし、その程度の小手先の技はアランに通用しない。
ヒートソードが引かれると理解した瞬間、アランもまたザク・プロキシムのヒートホークを引き戻し、左腕部に保持していたMMP―80を発砲する。
「言われなくても!」
アランの狙いは、グフ・パサードの脚部。
砂漠での戦闘において厄介なホバー移動が可能な脚さえ壊してしまえば、あとは単なるロートルの機体が残るのみだと考えたのだ。
「やるな……!」
その狙いはリムドも察知していた。
だからこそ、常にザク・プロキシムの周りを動き続けることで攪乱を続けながら、左腕部のレールキャノンに次弾を装填する。
実力伯仲。
地上戦の経験に勝るリムドと、モビルスーツの操縦経験に秀でたアラン。
両者は互いの力が拮抗状態にあること、それ故に
「あのレールキャノンは、精確に狙わなければ致命傷足り得ないな」
砂を削った一撃と至近距離での確認によって、アランはグフ・パサードの主武装である小型レールキャノンが、コクピットや頭部のメインカメラに当たらなければ致命の一撃にならないことを理解していた。
ならば、敢えて一撃を撃たせて、その隙を突く。
腹を決めたアランは、MMP―80の銃身下部に備えられたグレネードランチャーを構えた。