ザク・プロキシムがその両脚部を大きく広げて砂を踏みしめ、どっしりと構える。
そして、MMP―80マシンガンの銃身下部に取り付けられたグレネードランチャーを、グフ・パサードに向けた。
常にホバー移動を続け、砂漠を滑るように動き回るグフ・パサードの前で、まったく動くことを止め、ただグレネードランチャーを構えて狙うのみ。
端的に言えば、自殺行為。
リムド・リンクリッツは訝しむ。
背部のバックパックをパワード・ジムのものに換装し、通常のザクⅡをはるかに凌ぐ数のバーニアを機体各部に増設するほど機動力にこだわるアラン・ダレンが、戦いの最中に動きを止めた。
何故か、とリムドは考える。
一か八か、グレネードランチャーの一撃が当たることを期待しているのか。
否、そんな不確実でギャンブル性の高い方法に頼るような男ではない。
では、他の味方が攻撃するまでの陽動を行っているのか。
否、アランの僚機は一機のみ。それもリムドの部下たちと戦っているため、アランを援護することは不可能だ。
であれば、何故か。
「……こちらの一撃を誘っているな」
リムドはそう結論を出した。
「流石だ、アラン・ダレン。この短時間でグフ・パサードのレールキャノンの性能を看破するとは。であれば、狙いはこちらの脚だろう」
アランの狙いを見抜いたリムドは、砂漠の丘陵を乗り越えてアランとの距離を詰める。
「そのザクは元々、こちらのものだったということを、忘れているわけではあるまい」
ザク・プロキシムとしてアランとナンドーがいくら改造を施したとて、所詮は旧式のザクⅡ。
足回りはともかく、システム周りまで手を加えられるわけではない。ジャンクヤードで型落ちのパーツが掘り出すのとは、わけが違うのだ。
一年戦争時の量産型モビルスーツに搭載されている射撃管制システムでは、高速で動く物体にグレネードランチャーのような単発式の武装を確実に命中させることは困難だと、リムドたちが一番よく知っていた。
「例え榴弾であろうと、当たるものか」
不規則なリズムで左右に動き、ザク・プロキシムが狙いを定められないようにするグフ・パサード。
そうしながらも、アランとの距離はみるみるうちに短くなり、あと数秒もあればグフ・パサードのヒートロッドが届くという間合い。
ヒートロッドはかつてアランも愛用していた、接触時に強烈な電撃を放つワイヤー型の武装である。
これはモビルスーツ内部の回路どころか、搭乗するパイロットすらも焼き殺しかねない強力な武装であり、モビルスーツのマニピュレーターの先端に当たろうが一撃で対象を無力化することすら可能という非常に優秀なものだった。
近距離に寄って確実にレールキャノンを命中させるつもりだとアランに錯覚させ、アランが避けられるタイミングで敢えてレールキャノンを撃ち、回避したところをヒートロッドで叩く。
これこそがリムドの作戦だった。
貫通力に優れたレールキャノンをグフ・パサードの切り札だと勘違いし、全力でそれを回避して体勢が崩れたザク・プロキシムには、ヒートロッドを避ける術はないだろう。
敵が一撃を誘っているのなら敢えてそれを撃ち、油断した敵を次の一手で仕留める、ということだ。
そしてリムドがわざと見せつけるように、シールドと一体化したレールキャノンをザク・プロキシムに向けたとき。
アラン・ダレンが動いた。
だが、それは回避ではない。
彼が動かしたのは、MMP―80のグレネードランチャーを構えるザク・プロキシムのマニピュレーター。
パシュッという発射音。グレネードランチャーから、弾が発射される。
リムドは知らなかった。
その弾が
ガクン、とグフ・パサードのコクピットが大きく揺れ、機体右脚部損傷の文字がモニターに表示されるとともに、警告音がけたたましく鳴り響く。
侮ったか。
己の至らなさに舌打ちをするリムド。
「散弾ではなぁ!」
しかし、いくら散弾とはいえ、高速で砂漠を移動するホバー機体の脚部を的確に破壊できるものではない。グフ・パサードの脚部は損傷こそしたが、まだ動いている。
鳥獣を散弾で撃ち落とすようにはいかなかった。
ザク・プロキシムの奥の手は、この散弾か。
読み勝った、とリムドが改めてレールキャノンを構えた。
「────あぁ、そうだろうな」
アラン・ダレンは、更にその一手先を読んでいたのだ。
リムドが散弾による損傷に気をとられた一瞬の間に、ザク・プロキシムは腰部背面からあるものを取り出していた。
閃光弾型のクラッカー、つまりは対モビルスーツ用の閃光手榴弾である。
ザク・プロキシムはそれを、グフ・パサードの前に投擲。
カッ、と強烈な閃光が二人の間に奔る。
「なんだッ!」
グフ・パサードのモニターが全て真っ白になる。どんな高機動機も、
「そこだ!」
MMP―80の連射音。
その狙う先はもちろん、グフ・パサードの脚部。
両脚を薙ぎ払うように連射されたMMP―80の弾丸によって、グフ・パサードの脚部は蜂の巣となり、ホバー移動など到底できない有様となった。
「とどめを……ッ!」
相手の脚を奪った以上、次にコクピットを狙えばリムドは確実に死ぬ。
アランがいま操縦桿のボタンを少し押すだけで、グフ・パサードの胸部はMMP―80の小口径高速弾によって食い散らかされ、この勝負は決着となる。
リムドは死に、アランは生き残る。
だが、アラン・ダレンにはそれができない。
彼はこの戦場に、
そんなことをできるわけがなかった。
故に、アランはグフ・パサードとの距離を詰める他ない。グフ・パサードの腕部にあるレールキャノンをヒートホークで切断することによって、無力化するという選択肢しかなかったのだ。
「……どこまでも、甘い、男だ」
そして、そんな甘えが通用するほど、リムド・リンクリッツという老兵は衰えていない。
グフ・パサードから、ヒートロッドが発射される。
「まずい!」
その怖さは、アランもよく理解していた。
だからこそ、MMP―80にヒートロッドが命中した瞬間、数少ないザク・プロキシムの武装であるにも関わらず、彼は迷わずMMP―80を手放したのだ。
ヒートロッドから電撃が奔り、MMP―80が砂の上に落ちる。
それでも、ザク・プロキシムは止まらない。
マシンガンとクラッカーもなくなり、ヒートホークのみとなったが、ついにザク・プロキシムはグフ・パサードと白兵の間合いにまで踏み込んだ。
グフ・パサードの腕部めがけて、ザク・プロキシムのヒートホークが振り下ろされる。
咄嗟に、グフ・パサードは体勢を僅かに崩し、左腕部のシールドでその一撃をどうにか防ぐ。
「そろそろケリをつけるか、アラン・ダレン!」
「そうだな、リムド・リンクリッツ!」
灼熱の砂漠で、二人の戦士の戦いはいよいよ佳境を迎えようとしていた。