────先遣隊の報告通りだ。死にぞこないの残党共が、ここまで来ているとは。
────味方の仇をとってやる。……待て、正体不明のモビルスーツが二機、既に交戦しているぞ。
「はぁ、はぁ……ッ! 流石に、
ジャン・ミンウェイは、見栄を張ってしまったことを少し後悔しつつ笑う。
敵は残り三機。
しかし、推進剤はほぼ枯渇し、残った武装はヒートブレードのみ。
ジャンの目は赤く充血し、目の焦点も定まっていない。
彼の両手両足の感覚は極めて鈍くなり、操縦桿を握っているというよりも、ただ持っているだけだった。
到底、モビルスーツなど操れる状態ではない。
彼の搭乗しているジーカスタム・パラベラムも、敵の攻撃を喰らって左腕が欠損。右腕でヒートブレードの柄を持ち、
そんな状況で、ジーカスタム・パラベラムのまわりをぐるりと、三機の敵モビルスーツが囲んでいた。
満身創痍、そして絶体絶命。
「まぁ……、こんなモンか」
ふぅ、とゆっくり息を吐くジャン。
アラン隊長やマリア、そして何よりも自らの子供であるリースに申し訳ないな、と彼は思う。
「今回こそ、死ぬかもなぁ」
走馬灯のように、アランやマリア、リースの顔がジャンの脳裏をよぎっていく。
諦めはしない。最後まで、例えモビルスーツが破壊されようとも戦い続ける覚悟が彼にはある。
だが、戦いの中で生きてきた者として、
「まぁ、殺し合ってるんだ。運命だなんだと言っても、死ぬときゃ死ぬさ」
死に対する諦観。
善人も悪人も、咎人も無辜の人も、戦いの中では
まだジオンの学徒兵だった頃、オッゴなどという不完全な兵器に乗せられて、宇宙の塵芥となっていった他の学徒兵の死を見たときから、ジャン・ミンウェイの死生観はそういう風に構築された。
死自体に意味はない。それは単なる終わり。死そのものに栄光や誇り、価値を見出すのは狂人だけ。
だからこそ、ジャンは死ぬまでに価値を見出す。
「けどな、俺も死にぞこないの元ジオン兵だ。しぶとさは、折り紙つきだぜ……」
死そのものに価値はない。
死ぬまでに何をするのか。
死ぬかもしれない戦いで何を残すのか、何を守るのか。
ジャン・ミンウェイが考えるのは、それだけ。
「────惚れた女と男のために、死ぬまで戦い続けてやるよ」
辛うじて残っている身体の力を振り絞るジャン。
最後の攻撃を行うために、操縦桿を握り直したとき。
「交戦中のモビルスーツに告ぐ! ただちに戦闘行為を停止し、モビルスーツから降りろ! 繰り返す、ただちに戦闘行為を停止せよ!」
上空に、幾つもの機影。
モビルアーマー形態で旋回するアンクシャ。
それら機体の肩部に描かれた、
見紛うはずもない。
「アデレードの連邦軍! 今さらのご登場かよ!」
苦々しい表情で舌打ちをするジャン。
一切の事情を知らない彼ら連邦軍にとっては、リムド・リンクリッツたちジオン残党も、アランやジャンたちも所属不明のモビルスーツでしかない。
そして、アンクシャやジェガンが十機以上も来ているとなれば、到底戦いになどならないだろう。
抵抗すれば最後、連邦軍による一方的な虐殺が始まる。
だが、舌打ちをしたのはジャンだけではなかった。
「連邦の犬……、
直後、ジーカスタム・パラベラムを囲んでいたザクⅡのうち一機が、上空に向かってザク・マシンガンを向ける。
勝てる道理などないというのに銃を向けたのは、その悔しさからか、或いは諦めからか。
「馬鹿! 拾える命をなんで……!」
ジャンは叫ぶが、その叫びは誰にも届かない。
ザク・マシンガンを発砲するよりも先に、ジェガンのビームライフルから放たれた光の線が、ザクⅡのコクピットを貫いた。
遥か上空からの精確な射撃。回避など到底できようもないビーム。
二十年という年月によるモビルスーツの技術差は、無慈悲に現れた。
コクピット周辺がビームによって溶解し、ぽっかりと穴の空いたザクⅡが、砂漠に倒れ伏す。
「もう一度だけ言う! ただちに抵抗を止め、モビルスーツを降りろ! このザクの二の舞にはなりたくないだろう!」
アンクシャもジェガンも、まるで
もはや抵抗など不可能であった。
観念したジャンはヒートブレードを手放し、ジーカスタム・パラベラムは右膝を地面につける。
時間切れか、とジャンはモビルスーツを降りながら呟いた。
そして最後に、頭部に付けたヘッドセットを使い、未だ戦っているであろうアラン・ダレンに言う。
「アラン隊長! アデレードの連邦軍本隊が
ジャンの投降によって、他のジオン残党たちも怒りと憎しみを噛みしめた表情で投降を始めた。
どれだけ死を覚悟すると言おうが、人は死の恐怖を簡単に振り切れるわけではない。ましてや、目の前で仲間が無慈悲に蒸発する様を見せられれば、否応なく恐怖は伝播する。
停止した四機のモビルスーツからパイロットたちが降りるのを確認したアンクシャは、モビルスーツ状態へと変形して、地上へと降下していった。