機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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幕間 ブリュタールのターミナルにて

 シャーラ・サザナミとエインズ・マーレイの二人が乗るシャトルが、サイド3のターミナルに到着する少し前。

 同じターミナルの離れた場所にある貨物船用区画への入港を求める大型のシャトルが一隻、近づきつつあった。

 この区画は設計時の諸事情から多くのシャトルが入港する区画から遠く離れており、その不便さから利用者の少ないことで有名な場所である。

 

 管制室の椅子にのんびりと座っている係官が大きなあくびをした後、シャトルの操縦士との通信を開始した。

「はい、こちら十二番ゲートの管制室。こんな不便な場所にわざわざ入港する物好きさんは、入港許可証と各種書類の提示をお願いしまーす」

 気怠げにお定まりの手続きを進める係官。なんということはない、いつもの管制室の光景だった。

 係官はシャトル側から送られたデータをモニターで確認する。

 人類が宇宙に進出し、ネットワークが地球圏を覆うようになったとしても、人類社会からこういった面倒な手続きがなくなることはない。

「はい、書類の確認ヨシ、と……。じゃあ、最後に一応の船体スキャンを行わせてもらうよ。ご意見や苦情は、俺以外の誰かに言ってくれ」

 これも、いつものこと。

 このところは目立った騒乱もない地球圏だが、治安は決して良いとはいえない。書類を偽造して違法な品物を密輸する輩を取り締まるため、いつ頃からかこのような規則が生まれたのだった。

 といっても、そんなものが見つかることは稀で、だいたいは追加の手続きが必要になる少しばかり面倒な品物が発見される程度である。

「おたく、いまだけはこっちの区画に来て正解だぜ。なんせ、このジオン共和国の自治権返還と、宇宙世紀百年を記念する式典が三日後に控えてるからな。それまでここのリゾートでゆっくりしようってことで、中央の方はお偉いさんや金持ちどもがわんさかいるのさ」

 自らの退屈な業務に耐えかね、モニターから目を離して勝手に世間話を始める係官。

「警備の数も足りねぇってんで、大袈裟に連邦軍まで出張ってきてな。まったく、今時ジオンもへったくれもねぇって。宇宙世紀百年だなんだって、俺たちのような一般市民は今日を生きるので精一杯だっつーの」

 シャトル側から特に反応はない。

 船体のスキャンは、滞りなく進行していた。

「なぁ、おたくもそう思うだろ? 宇宙世紀百年なんて、()()()()()()だよな」

 

 ビーッ! ビーッ! ビーッ! 

 

 突如、けたたましいアラームがモニターから発せられる。このアラームが意味するところはひとつ。

 スキャン中に、危険物が見つかったのだ。

 まさか違法薬物や武器などの禁輸品かと、驚いてモニターを見る係官。

 そこには、信じられないものが映し出されていた。

 スパイク付きのショルダーアーマー。

 連邦軍機を彷彿とさせる胸部のエアインテーク。

 鉄兜を装着したような頭部と、その中央に配置されたモノアイ。

 禁輸品などというような、()()()()()()()()()()()

「────モ、モビルスーツ……ッ!」

 スキャンによって大まかに判明した全体像は紛うことなく二足歩行型機動兵器、つまりは()()()()()()()()()()()

 どういうことなのか。

 係官がコロニーの警備を担当する地球連邦軍に緊急連絡を行おうとしたとき。

 

「……いいえ。()()にとっては、屈辱と憎悪に満ちた長い年月でしたよ」

 係官の後ろで低く、禍々しい声。

 それが、係官の最後に聞いた声だった。

 無防備な係官の喉笛を鋭利なナイフで切断し、次に心臓を二回刺す。

 一片の躊躇もない殺意と技術。

 係官を殺害したのは、黒いノーマルスーツを着た長身の、手足がひょろりと長い不気味な男だった。

「障害を排除。この機体、()()()()が最後です。計画の準備段階は完了、といったところでしょう」

 男の声に、シャトルの操縦士が応答する。

『了解しました、大尉殿。ですが、管制室の制圧など我々に任せていただければ……』

 操縦士から大尉殿と呼ばれた男が笑う。

「ククッ……、なにを馬鹿な。せっかくの晴れ舞台です。手間を惜しんで行うことの楽しみを不意にするのは、愚か者のすることですよ」

『ハッ、申し訳ありません。()()()()()()()への連絡は、こちら側から行いますか』

 モナハン・バハロ。

 ジオン共和国の現外務大臣である。

「放っておきなさい。どうせ、あの尊大な臆病者は計画の進行が気になってしょうがないのですから。向こうから連絡してきますよ。それより、ジオン共和国軍内部の同志に連絡を、彼らとの連携の方がよほど重要です」

 シャトルの部下へ手短に指示を送り、男は通信を切る。

 そして、自らが殺した係官の血がべっとりと付いたナイフを眺めながら、犬歯を剝き出しにして笑った。

「そう……、血だ。この血がもっと、もっと流れなければ、宇宙移民の独立は果たされない。人類の革新も行われない。平和裏の統一など、誰がさせるものか」

 男の名は、ザクス・ランツフート。

「痛みと苦しみが無ければ、人間は己の愚かさを理解できない。なら、まだまだ痛みと苦しみが続いてくれなくては困る……。そのために、それらを生み出す極上の憎しみと対立を、()()()()()()()をしなくては」

 ザクスは嗤う。

 これから自らと配下の部隊が起こす、()()()()()()()()()()()()()()()()を思い浮かべて。

 

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