アラン・ダレンがリン・サザナミと邂逅していた頃。
────資源衛星、B79では地球連邦軍のモビルスーツ特務部隊と、アクシズのネオ・ジオン残党勢力である『ハルパー』の先遣隊が遭遇していた。
先に資源衛星へと到達していたのは、ハルパーの先遣隊。
母艦よりも先に乗り込んできた先遣隊は、
その特異なモビルスーツはザクⅢをベースとした、ザク・トーテンコップ。
機動力と制圧力の強化が施されており、全長20メートルという巨大なサイズの実弾を用いるガトリングが最も特徴的だった。
他にも腰部アーマー側面へのミサイルポッド装備や各部バーニアの増設、バックパックの換装による大型プロペラントタンクとガトリング用大型弾倉の装着など、重火力モビルスーツと呼ぶに相応しいものである。
「────これが最終通告だ。今すぐ武装を捨て、投降しろ!」
連邦軍側が先遣隊に投降を促す。
連邦軍側の戦力はジムⅢが八機、そしてジムⅢの母艦である機動巡洋艦が一隻。
戦力的には、ハルパー側が不利であった。
しかし、彼らは投降する素振りを一切見せない。
「……こっちがこれだけモビルスーツの頭数を揃えてるってのに、呑気に降伏勧告かい? 連邦ってのは、思った以上に頭が悪いんだな」
ザク・トーテンコップのコクピットで悠々と髪をセットしている男、サルバ・ダグランが呟く。
彼のコクピット内には水着の美女の写真や前世紀の古臭い金属製薬莢など、任務に関係ない私物がところどころに飾っていた。
「どうしますか、ダグラン少尉。ここで戦闘を起こすと、コロニー側の部隊は陽動であることが露見する恐れもありますが……」
ダグランのザクⅢに近寄るガザⅮ。ガザⅮのパイロットの声には、不安の色がはっきりと表れている。
髪のセットを終えたダグランは、そんなガザⅮのパイロットの問いにとても簡潔、かつ彼らしい形で答えた。
「ハッ! 構うこたぁねぇや! どうせこれから、連邦に宣戦布告するんだからよぉ!」
ザク・トーテンコップが、凶悪な大きさを持つラージ・ガトリングに備わった六つの銃口を連邦軍の特務部隊へと向ける。
その唐突な凶行に、敵側である特務部隊はおろか、ダグランの味方である他のパイロットたちですら驚愕した。
「派手に────、やっちまおうぜぇ!」
キュルキュルと回転を始めるラージ・ガトリング。
その銃口から艦船の装甲すら容易に貫通可能な徹甲弾が、無数に撃ちだされた。
ザク・トーテンコップのガトリング掃射が、連邦の特務部隊へと襲い掛かる。
反応の遅れた二機のジムⅢが瞬く間に穴だらけになって爆散し、それを合図に両者は戦闘を開始した。
横一列の隊形から散開し、残り六機となったジムⅢがハルパーのモビルスーツへと突撃していく。
それに呼応して、ハルパー側のガザⅮも火力支援機であるズサを中心点として広がり、ある機体はモビルアーマー形態に変形してジムⅢの迎撃に、ある機体はそのままズサの護衛に回る。
連邦の特務部隊側の機動巡洋艦も、モビルスーツに対する対空射撃へと移ろうとした。
そんな中、敵味方の入り混じった戦場を圧倒的な推進剤の量とスラスターの加速で颯爽と駆け抜け、単独で機動巡洋艦を狙うモビルスーツが一機。
「眠たい戦争してんじゃねぇや! 一年戦争はこんなもんじゃなかったぜ!」
ダグランの搭乗するザク・トーテンコップであった。
機動巡洋艦を確実に仕留められる距離まで近づき、ラージ・ガトリングの銃口を向けるザク・トーテンコップ。
一方、モビルスーツの母艦として設計された機動巡洋艦に、ミノフスキー粒子散布下で一気に距離を詰めてくるモビルスーツを止められるだけの火力はない。
「景気づけに、沈めてやるよ……!」
そこで、ダグランは自身の背後から迫る殺気に気づく。
ザク・トーテンコップの背後には、二機のジムⅢがいた。
後方にいるジムⅢが、ビームライフルでザク・トーテンコップを狙う。
その攻撃を背部スラスターの一斉噴射で回避するダグラン。
この間、僅か二秒である。
瞬間的な加速に伴う強烈なGがダグランの身体を襲うが、彼はそれすらも戦場での楽しみであるかのように笑っていた。
そして、ダグランが制動用に逆方向へのスラスターを吹かした瞬間、もう一機のジムⅢがビームサーベルを構えて急襲する。
背部スラスターを噴射しながら、ビームサーベルを上段に振り上げるジムⅢ。そのサーベルがザク・トーテンコップの頭部に命中するまで、数秒とかからないだろう。
対するザク・トーテンコップは、まだ両手でガトリングを構えたままである。
防御態勢をとる猶予はない。
勝負は決したと、二機のジムⅢパイロットは確信した。
「アマいんだよなぁ──」
ザク・トーテンコップでなければ、そうだっただろう。
突如、第三の腕がビームサーベルを構えたかと思うと、急襲してきたジムⅢのコクピット部分を突き刺した。
その正体は、ザク・トーテンコップの腰部に取り付けられたサブ・マニピュレーター。つまりは隠し腕であった。
ビームサーベルを引き抜いてからも、ジムⅢは動かない。
「胴がガラ空きなんだよ、
そのままダグランは沈黙した機体を、もう一方のビームライフルを構えたまま立ち尽くすジムⅢの方へと蹴り飛ばす。
そして、二機もろともガトリングで撃ち抜いたあと、何の余韻もなく機動巡洋艦にも徹甲弾を撃ちまくった。
機動巡洋艦が爆散し、熱を持ったガトリングの砲身が僅かに赤くなっている。
戦闘はハルパー側の圧勝であった。
「周辺宙域に敵影なし。こちら側の損害はありません、ダグラン大尉。我々は、連邦を相手に十分戦えます」
「……おいおい。連邦は、俺たちの倒すべき宿敵なんだろ? その連邦が、このザマか?」
部下の報告に対して、操縦桿を手放して呆れかえるダグラン。
一年戦争から好き好んで戦いの中で生きてきた彼にとって、今回の戦闘は戦いとすら呼べないお粗末なものであったのだろう。
落胆するように大きくため息をつき、しばらく考えるダグラン。
やがて、彼はひとつの気まぐれを思いついた。
「決めたぜ。今から、インダストリアル5に向かって残存する陽動部隊の回収に向かう。名目は……、そうだな。連邦との戦争をやる頭数は多い方がいいとか何とか報告しとけ」
あの三流連中がどこまで残っているか分からんが、と付け加えるダグラン。
それに対し、彼の部下は呆気にとられながらも承諾するしかない。
「そこのガ・ゾウム、
手慣れた様子で指示を飛ばし、ズサの使っていたベースジャバーにザク・トーテンコップが乗り込む。
ザク・トーテンコップのコクピットの中で、サルバ・ダグランは舌なめずりをした。
「さぁて、と。……じゃあ、ボーナスタイムとしゃれこみますかぁ?」