機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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シャトーユニヴェルセル 上空へ

 短く刈り揃えられた人工芝が、一面に鮮やかな緑を形成しているカントリークラブ。

 そんな緑の上に白と青、そして赤のトリコロールカラーが目立つ一機のモビルスーツが立っている。

 ガンダム・ユリシス。

 駐留地である記念館を出る前に、ユリシスには専用のビームライフル一挺とシールドが与えられている。

 武器と盾を装備したことによって、この機体はいよいよ象徴としてのガンダムではなく、兵器としてのガンダムとなっていた。

「ライフルとカノンのビーム出力調整、よし。各部の駆動系も、問題なし。……呼ばれれば、すぐにでも行ける」

 そんなガンダム・ユリシスのコクピットで、シャーラ・サザナミは機体のチェックを何度も行っている。

 ナヴァロたちが先行してシャトーユニヴェルセルへと向かってからまだ一時間も経っていないというのに、すでに三度もユリシスのコンソールを触っていた。

 そうしないと落ち着いていられないというのもあるが、シャーラはこの機体のことをもっと知りたかったのだ。

「やっぱ、自分で確かめなきゃ……」

 他の連邦軍パイロットと話すこともなく、時折独り言を呟きながらガンダム・ユリシスという機体と向かい合うシャーラ。

 そうやっているうちに、彼女は初めてモビルスーツに乗ったときのことを思い出していた。

 

 ────機体のデータを頭に叩き込むんだ。全高やジェネレーターの出力、各武装や駆動系のクセまで。戦いのとき、その情報を咄嗟に引き出せるかどうかは、そのまま()()()()()()()を増やすことに繋がる。

 

 モビルスーツ操縦の師であり、もう一人の育ての親であるアランの言葉を、心の中でシャーラは反芻する。

 自らの機体はどういうものなのか、どういうことができるのかを把握することの大切さを説くアランの言葉の大切さを、彼女は痛感していた。

 アランは決して、エインズのようなオタク的な知識欲から言っているのではない。

 自分がいまできること、やろうとしてもできないことを把握しろという、数多の戦場を戦い抜けた彼の経験に基づいた助言なのだ。

「悔しいけど、アタシはまだ弱い。次の戦いで、もっと強くならなきゃ」

 シャーラはそう言って目を閉じると、ゆっくりと身体をユリシスのコクピットシートに預け、全身の力を抜いた。

 自らの静かな呼吸と、僅かに聞こえるコクピット内の機械音。それから、集中するとシートを介して少しずつ聞こえてくる自身の心臓の鼓動。

 シャーラの心から、余計な波風が消えていく。

 そして、彼女の集中力が最高潮に達したとき。

 

「────ナヴァロ少尉からだ! 人質の解放に成功したそうだ!」

 

 シャーラの耳に、待ち望んでいた知らせが聞こえた。

 彼女は目を開け、両手両足を素早く動かして操縦桿とフットペダルを操作する。

 そして、ユリシス専用のヘッドギアを頭に被り、彼女と同じく待機していた僚機のジェガンたちに通信を行う。

「大尉の状況は分かりますか?」

 戦場を前に、女子学生とは思えないほど落ち着き払ったシャーラの言葉にやや面食らいながら、僚機のうち一機が彼女の質問に答えた。

「内部のテロリストは無力化したものの、外のモビルスーツに気取られて身動きがとれないと言っている。なんなら向こうは、人質諸共ホテルを攻撃するとまで言っているそうだ」

「人質諸共? 交渉のための材料を、自ら進んで殺すつもり?」

「分からない。だが、急いだほうがいいのは確かだ」

 シャーラは頷くと、ユリシスのコンソールを操作して背部の可動式スラスターアームを展開する。

 この四本の可動式スラスターアームには一本毎に大小合わせて四機のスラスターノズルが付いており、そこから青い光を噴射する様はまるで()()()()()()()()()()()だった。

「そうですね。足の速いアタシのユリシスが先行します」

「……分かった。サナリィ謹製の試作機に、ただのジェガンじゃ追いつけない。だが、くれぐれも突出しすぎないようにな。キミはまだ、子供なんだ」

「わかりました。……ガンダム・ユリシス、シャーラ・サザナミ出ます」

 ガンダム・ユリシスが、発進する。

 

 フェアウェイの芝が脚部のスラスター噴射によってチリチリと焦げ、次の瞬間にはコロニーの空を舞う青い蝶のように、その四枚の羽を存分に羽ばたかせていた。

 そろそろ十年選手となるジェガンでは、ユリシスの加速についていくことがやっとである。

 この時点で、コクピットからは四方に見えるコロニーの風景が単なる色と線の集合体になってしまうほどの速度だというのに、これはまだユリシスの全力ではないのだ。

 徹底した軽量化とジェネレーター出力の飛躍的な向上、つまりは旧来のアナハイム製モビルスーツに挑戦しようというサナリィの技術力の高さが為せる業である。

「これが、ユリシスの速さ……!」

 しかし、搭乗者であるシャーラが最も驚いたのは、加速ではなくその操縦のしやすさであった。

 驚異的な速度で飛ぶユリシスの姿勢制御や駆動系の制御、スラスターの調整からパイロットに掛かる負荷の管理まで、パイロットと共に学習と発展を繰り返す非ノイマン型第4世代コンピューターによって機体は隅々まで補助されている。

 その恩恵をシャーラはひしひしと感じていた。

 もっとも、シャーラもただコンピューターに操られているわけではない。

 ハイザックやジムⅡなど、連邦の管理がずさんになった旧型機で訓練した操縦技術を遺憾なく発揮し、最新鋭機であるユリシスを上手く乗りこなしている。

 これまで宇宙世紀で多く作られてきたニュータイプ専用機、それに使われたバイオセンサーやサイコフレームなどの不安定なシステムとは違う。

 あくまで、この非ノイマン型第4世代コンピューターはパイロットの補助システム。シャーラが操縦しなければ、ユリシスは脚部を動かすことすらできないのだ。

「……いける。アタシ、戦える」

 その事実を彼女が噛みしめて、シャトーユニヴェルセルへと急行する。

 そして。

 

 小高い丘に建てられたシャトーユニヴェルセルが前方にはっきりと見えた瞬間、ユリシスのセンサーが八機の所属不明機を捉えた。

「こっちが気づいたってことは……!」

 シャーラの懸念通り、ホテルを包囲していたテロリスト側の八機のうち、六機がシャーラたちを迎撃する。

 ギラ・ズール三機とギラ・ドーガ二機が横一列に隊列を組み、その中央には指揮官機と思しきギラ・ズールの姿があった。

 通常のフラットグリーンではなく、白に塗装されたギラ・ズール。

 ギラ・ズール自体が、ガスマスクと鉄帽をつけた兵士のような見た目のモビルスーツであったためか、白いその機体はより一層不気味であった。

「あれね、特別な改修がされた機体ってのは」

 右腕部でビームライフルを、左腕部でシールドを構えるガンダム・ユリシス。合流のために減速したユリシスの横に、僚機であるジェガン三機が並ぶ。

「油断するな。性能はキミのユリシスが上だが、数ではあちらの方が多い」

「大丈夫です。数に頼った戦いの方が、慣れてないんで」

「本当に、キミは学生か? バルカ司令も、変わったものを拾ってくる」

 ジェガン三機がゆっくりと隊列を横に広げていった。

 記念館のときとは違う、正真正銘の戦争。

 身を守るためではなく、相手を殺すための戦い。

 いまからそれに自分が頭から突っ込んでいくのだと考え、シャーラは身震いする。

 

 かつてジオン残党の傭兵たちを率いて、幾つもの戦地を渡り歩いたリムド・リンクリッツ。

 アナハイム・エレクトロニクスの警備部として、アナハイムや宇宙世紀の裏側に関わる戦いを生き延びてきたアラン・ダレン。

 二人の薫陶を受けた幼き戦士が、いよいよ戦場に立つときが訪れた。

 ガンダム・ユリシスとシャーラ・サザナミの戦いが、いま始まる。

 

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