機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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ガンダム・ユリシス VS 白いギラ・ズール

「先手、必勝!」

 スペースコロニー、ブリュタールの上空で始まったモビルスーツ戦。

 その一番槍を務めたのは、シャーラ・サザナミの駆るガンダム・ユリシスであった。

 白と青、赤のトリコロールカラーで彩られた鮮やかな機体は、持て余すほどの機動力を活かしてテロリスト側の隊列の端にいたギラ・ドーガへと突撃を試みる。

 ユリシスの背部で稼働する四本のスラスターアームから噴射される青い光が、まるで青い翅を持つ蝶が羽ばたいていくような幻想的な光景を見せた。

 しかし、ガンダム・ユリシスは蝶ではない。紛れもない兵器である。

 ギラ・ドーガのパイロットが反応したときには既に、ユリシスとの間合いはおよそ白兵戦と呼んで差し支えない距離まで縮まっていた。

「は、早すぎる────ッ!」

 ギラ・ドーガのパイロットが叫ぶ。

 次の瞬間、僅かな減速と共に、ビームライフルを構えていない左腕部でビームサーベルを引き抜いていたユリシスは、すれ違いざまにギラ・ドーガの胴体を横薙ぎに両断。

 動力炉ごと斬られたギラ・ドーガはそのまま爆発。いくつかの残骸は地上に落ちたものの、幸いなことに爆発による地上への被害はなかった。

 これで、テロリスト側の隊列を組む機体は残り五機。

「危ない戦い方を……」

 シャーラの突撃を見ていた連邦軍兵士は、ジェガンのコクピット内で呟く。

 ガンダム・ユリシスという機体の性能ありきの戦い方である。

 もし、シャーラの搭乗する機体がギラ・ドーガと同等の性能であるジェガンであったなら、こうはいかなかっただろう。

 だが、そんなことはシャーラも理解していた。

 彼女はそれを理解したうえで、その性能差に敵が対応してくるより先に、敵の頭数を減らそうと考えていたのだ。

 シャーラは思い出していた。

 モビルスーツの操縦と戦闘技術を学ぶため、アラン・サザナミの部下であるジャン・ミンウェイから初めに教わったことを。

 

 ────いいか、()()()()()()()()()()()だとか、()()だとか、スポーツみたいなことは忘れろ。先手必勝、仕留めると決めたら躊躇せずにこっちから殴るんだ。多少強引でもいい、まずは一撃をかまして相手の出方を見ろ。

 

 チンピラの喧嘩のような指南だと思っていたシャーラだったが、たしかに有効ではあるといまの彼女は実感していた。

 先ほどのシャーラの突撃によって、テロリスト側の隊列は大きく乱れている。

 いきなり僚機を失ったことで狼狽し、依然として三次元的な高速機動で翻弄し続けるシャーラに向かって、掠りもしない射撃を行う機体が大半であった。

 しかし。

「なにか、ある!」

 ぞくり、とシャーラの背筋に冷たいものが走ったような感触。優勢であるはずの彼女の脳に、凶兆のような電流が走った。

 ()()に突き動かされるように彼女は思い切り操縦桿を引き、ユリシスの姿勢制御を信じて空中で大きく方向を転換。高速で前方へと進んでいたユリシスは、一転して上方に向けて空を蹴るように加速した。

 後方で戦うジェガンたちから見れば、操縦ミスかと疑うほどの奇行。当然、コクピットのシャーラにはとてつもない負荷が掛かる挙動だ。

 だが二秒後、その奇行が正解だったと彼らは理解することになる。

 

 ガンダム・ユリシスの至近、装甲を焼かれるぎりぎりの距離を閃光の槍が貫いた。

 

 一撃で仕留めるという殺意と、コロニーの被害など知ったことではないという意思の籠ったそのビームを放ったのは、テロリスト側の隊列中央にいた隊長機と思しき()()()()()()()()であった。

「羽虫にしては、勘がいいですね。次は当てます」

 白いギラ・ズールに搭乗するネリス・ハーバーはそう呟き、機体の右腕部と右肩で保持していたビームバズーカの砲門をユリシスに向けつつ、僅かに後退を始める。

 隊列の後方から、ユリシスを撃ち落とす算段だ。

「あの白い機体……、潰す!」

 それを見たシャーラは、白いギラ・ズールとネリスから発せられるプレッシャーを怒りと闘志で跳ね返し、ユリシスを白いギラ・ズールの方に向ける。

 彼女はネリスを次なる標的と定めたのは、危うく自身が撃墜されそうになったことや、コロニーへの被害を考慮しない攻撃に対する怒りもあるが、それ以上に冷静な敵戦力の分析に依るところが大きい。

「あれは隊長機。多分、アタシが相手しないと負ける」

 他の有象無象のギラ・ドーガやギラ・ズールとは、雰囲気がまるで違うとシャーラは感じていた。

 頭部にあるブレードアンテナや、背部の重装バックパック。

 厳つい印象を見るものに与える、両肩のスパイクアーマー。

 ユリシスに向けられた重厚な存在感を放つビームバズーカ。

 そういった外見的な特徴もさることながら、何よりシャーラはこの白いギラ・ズールから放たれる冷たい殺意が気に食わなかった。

 彼女はその冷たい殺意の正体を知っている。

「地球の、ジオン連中と()()()()……」

 それは、復讐と憎悪。

 幼い頃、リムドと共に幾多の戦場を転々とし、地球に根を張った多くのジオン残党勢力とも接触してきたシャーラにとって、それは馴染みのあるものだった。

 他者の命を虫けら同然に扱い、必要とあれば一切の被害を顧みず、殺戮に対するブレーキも外れた存在。

 やられたから、やり返す。そんな道理しか解さなくなった者。

 そういう黒い意思を、シャーラはあの白いギラ・ズールからひしひしと感じ取っていたのである。

 よくないものだ。

 そう断じたシャーラはテロリストたちの隊列、その向こう側にいる白いギラ・ズールへ、単騎で突っ込んでいく。

 

「やりすぎだ! ジェガン隊、ガンダムを守れ!」

 そんなシャーラの動きを危険だと感じ、彼女の僚機であるジェガン三機もまたテロリストたちの隊列に突撃。

 かくして、戦いは空中での三次元的な乱戦となった。

 ジェガンやギラ・ドーガ、ギラ・ズールが入り乱れるコロニーの空で、トリコロールカラーのユリシスがまっすぐに白いギラ・ズールに向かって飛んでいく。

 ネリスの白いギラ・ズールが構えているビームバズーカには、高精度のセンサーが付属していた。そして、ビームバズーカの出力自体も決して侮れるものではなく、例え直撃でなくとも機体に甚大な損傷を与えることは明確。

 結果、あれは何度も避けられるものではないとシャーラは理解し、距離を詰めて白兵戦に持ち込もうと判断した。

「さっさと、墜とす!」

「向かってくる。まぁ、そうしますよね」

 そして、そのシャーラの思惑をネリスは瞬時に看破する。

 ユリシスの速度を考慮すれば、ネリスが間合いを詰められるまでにビームバズーカを撃てるのは、あと一回が限度であった。

 

 つまり、わずか数秒の駆け引きとなる。

 

 ビームバズーカの精度を高めるため、白いギラ・ズールは空中で後退を止めてユリシスに照準を合わせていた。

 対するユリシスは交戦する僚機や敵機を紙一重で躱しながら、最短距離で白いギラ・ズールへと向かう。

 回避運動をとっていては、ビームバズーカによる二度目、三度目の攻撃を許すことになるという、シャーラの判断だった。

 臆することなく、ネリスのギラ・ズールに向けて突っ込んでいくガンダム・ユリシス。

「……吸い込まれるようですよ、羽虫」

 だが、それこそがネリス・ハーバーの思惑通り。

 最短距離とは、常にひとつである。

 ネリスはこの乱戦状態の空間にいる敵と味方の位置を精確に把握しており、ユリシスが通るであろう最短距離のルートも予測していた。

 相手が如何に速かろうが、通過する場所さえ見抜いていれば後はその位置で高精度センサーによって標的を補足すればいい。

 例え肉眼では追いきれないほどの速度であっても、ネリスのビームバズーカに付属しているセンサーは検知可能。

 多少狙いが甘くとも、ビームバズーカの出力であれば掠った時点で戦闘不能になる。

「速ければ、墜とされないとでも……?」

 武装の発射ボタンに指をかけ、獲物が罠に掛かるのを待つ猟師のように冷酷な笑みを浮かべるネリス。

「所詮、速いだけの機体。ガンダムも、この程度です」

 

 そして、ネリスの前方に位置する僚機のギラ・ズールにガンダム・ユリシスが接近する。

 ここまでは、ネリスが予測したルート通り。

「それを避けるために姿勢を変えれば、そこで終わり」

 だが、ここでそのままネリスの罠に突っ込むシャーラではなかった。

 彼女は次の瞬間、()()()()()を打つ。

 

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