コロニーの空を高速で移動しながら接近し、白兵戦に持ち込もうとするガンダム・ユリシスと、シャーラ・サザナミ。
そんなユリシスの高速移動のルートを予測し、高精度センサーを備えたビームバズーカによる一撃を狙う白いギラ・ズールと、ネリス・ハーバー。
両者の対決はここまで、おおよそネリスの読み通りに展開していた。
ネリスの前方に位置するギラ・ズールを挟んで、ガンダム・ユリシスが接近する。
ユリシスの次なる動きを、ネリスは回避と読んでいた。
ネリスの白いギラ・ズールに近づくため、ユリシスはこれまで障害となる敵機を撃墜せずに回避してきた。
撃墜しようとすることで、ネリスに横槍を入れられることを恐れたのか、あるいは高速で移動しながらの戦闘に不慣れなのか定かではないが、とにかく次のギラ・ズールもユリシスは回避するだろうとネリスは考えたのだ。
そして、コロニーの人工重力下で高速移動を行いながら前方の敵機を回避するとなれば、必ず機体の姿勢制御に難が生じる。
その一瞬の隙を、ネリスは虎視眈々と狙っていた。
ガンダム・ユリシスとギラ・ズールの距離が、衝突する一歩手前まで縮まる。
「これで、ガンダムも終わり」
操縦桿のスイッチにかけたネリスの親指が、ゆっくりと動く。
だが。
シャーラは、ユリシスはギラ・ズールを避けない。
むしろ、その逆。
ユリシスは加速の勢いを殺さぬまま、ギラ・ズールを真正面から蹴り飛ばしたのだ。
蹴り飛ばされたギラ・ズールが、ユリシスと白いギラ・ズールとの射線を遮る。
「なんだと!」
ネリスは驚くが、むしろここからがシャーラの秘策。
自らが蹴り飛ばしたギラ・ズールに対して、ユリシスが右腕部に構えたビームライフルを放った。
ギラ・ズールと白いギラ・ズール、二機をまとめて撃ち抜こうとしたのだ。
「ちぃっ!」
目論見が外れ、忌々しげに舌打ちするネリス。
蹴り飛ばされたギラ・ズールの胸部がビームによって赤熱したことから、ビームライフルによる攻撃を悟った彼女は寸前で回避。
しかし、機体こそ無事であったが紙一重での回避であったために、ビームバズーカの砲身がビームによって溶断されてしまう。取り回しの悪いバズーカでなければ武装も無事であったかもしれないが、覆水は盆に返らない。
そして、そんな好機を見逃すようなシャーラではなかった。
ユリシスの加速性能を遺憾なく発揮し、瞬く間に白いギラ・ズールとの距離を詰める。
接近戦、白兵の間合。
ユリシスのコクピットで、シャーラが叫ぶ。
「とった────ッ!」
左腕部に構えたビームサーベルを、叩きつけるように振り上げるユリシス。
反応が遅れたネリスであったが、彼女の白いギラ・ズールも腰部側面に装備しているビームホークを左腕部で掴み、ユリシスの一撃を迎え撃つ。
「これしきで……ッ!」
鍔迫り合い。
コロニーの空を切り裂かんばかりの強烈な閃光が二機の間に放たれ、バチバチという耳障りな音と共にガンダム・ユリシスと白いギラ・ズールの刃が衝突している。
「アンタらみたいなのが、火種をばら撒くから!」
「……まだ子供⁉ 侮ってくれますね」
ユリシスから聞こえた少女の声に驚き、怒るネリス。
こんな子供に出し抜かれたのかという悔しさと怒りが彼女の胸で沸き起こるが、一度大きく深呼吸をしてネリスは気を落ち着かせた。
ネリスは、上官であるザクス・ランツフートから常々気の短さを指摘されていたことを思い出し、冷静になれと心の中で自分を戒める。
「子供にしては、随分とえげつない手を使う。連邦軍仕込みの卑劣な手です」
「テロリスト風情が、喋ってんじゃないわよ!」
「子供の理屈をさえずるなよ……、羽虫!」
ユリシスのツインアイと、白いギラ・ズールのモノアイが至近距離で睨み合う。
同じように、コクピットの中でシャーラ・サザナミとネリス・ハーバーもまた睨み合っていた。
「コロニーで暴れ回るヤツの理屈よりマシよ!」
「
「壊す⁉ どういう神経してんのよ!」
互いの姿は見えずとも、彼女たちは交わされるその言葉からひとつの結論にたどり着く。
こいつは、生かしてはおけない。
次なる手を先に打ったのはネリスであった。
ビームサーベルとビームホークの力場の衝突による反発を利用し、鍔迫り合いの膠着状態から離脱する。
一足一刀の間合から離れると同時に、白いモビルスーツは役立たずとなったビームバズーカを放棄する。
そして、背部バックパック側面から銃身を短く切り詰めたビーム・マシンガンを取り出して、それを右腕部で構える。
「レギオ・ズールとネリス・ハーバーの名前を心に刻んで、死になさい」
レギオ・ズール。
白いギラ・ズールの名前であった。
「ガンダム・ユリシス、シャーラ・サザナミ。最期に聞く名前が、アタシでよかったわね」
対するガンダム・ユリシスも右腕部でビームライフルを、左腕部でビームサーベルを構えた。
「ふふふ……。
「
「────殺す」
煽り合いを続けながらも、両者は頭の中で次の一手を考える。
一足一刀の間合から離れたとはいえ、ガンダム・ユリシスとレギオ・ズールとの距離は百メートルもない。
モビルスーツがスラスターを噴射すれば、ものの数秒で詰められる距離である。
ガンダム・ユリシスの武装はビームライフルとビームサーベル、それから腰部側面に固定された二門のビーム・カノンと頭部バルカン。
駐留地で支給された専用のシールドは、左腕部側面に懸架可能なハードポイントがあり、現在はそこに固定されている。
「あの小さいビーム・マシンガンなら、何発かはシールドで防げそう。それに、あのおっかないビームバズーカを処理できたのは、我ながらナイスね」
現在の状況と自らの切れる手札を脳内で確認しながら、そう呟くシャーラ。
「敵は、コロニーでビームバズーカを撃てるヤツだから。早めにケリをつけないと、何をされるか分かったもんじゃない」
未熟な部分はまだあるものの、彼女は戦場の中で戦士としてさらに鍛えられていた。
一方のレギオ・ズールの武装は、先ほど背部から取り出したコンパクトモデルのビーム・マシンガン、それからビームホークのみ。
このレギオ・ズールはかつて不死鳥狩りという謎多き事件で暗躍した、ジオン共和国軍中尉の専用機を参考に作られており、性能は通常のギラ・ズールよりもはるかに優れている。
だが、奇襲によりブリュタールに駐留する連邦軍を早期に無力化し、ターミナルの制圧に向かったザクスの
「……ビームバズーカを失ったことが、つくづく悔やまれる」
また舌打ちをして、自身をこんな状況に追い込んだシャーラに対する怒りと憎しみを燃え滾らせていくネリス。
普段こそザクスのように敬語を使い、冷静さを装っているネリスだったが、その本性は燃え尽きぬほどの怒りと憎しみを心にため込んでいる、恐ろしい女性であった。
「子供だと思って、こちらが手加減するとでも? 必ず殺しますよ、ザクス様の偉大な計画のために。……そして、私自身のためにも」
シャーラ・サザナミと、ネリス・ハーバー。
何もかもが違う二人が対峙し、敵の次なる動きを警戒しながら、自らが次に切る手札を模索する。
そして、先に動いたのは────。