────それじゃあ、約束です。そのお仕事が終わったら、連絡をください。わたしの方も、父と一緒に少し出かけなければならないので。
なんでも、アナハイムの工場を見て回るそうです。
「────隊長、隊長! そんなに夢中になるほど、そのプルス・ディアスって機体は乗り心地がいいんスか?」
ターミナルで出会った謎の少女、リン・サザナミとの約束を思い返していたアラン・ダレンは、部下のジャン・ミンウェイの度重なる通信によってようやく現実の世界へと引き戻された。
「あ、あぁ……、すまない。なにせ実戦前に突然、新しい機体を渡されたものだから、少し戸惑っているのさ。ただ、これまで乗ったモビルスーツの中でも、抜群に優秀な機体だよ」
どうにかして己の醜態を誤魔化すアラン。
アランは部下たちを心底から信頼しているとはいえ、自分より十歳ほど年の離れた少女と会話して、なぜだかひどく魅了されてしまったなどとは、流石に口が裂けても言えなかった。
アランたちは現在、航宙輸送船ストラダーレ号でアナハイム管理下のコロニー、インダストリアル5へと向かっている。
もう十分ほどでインダストリアル5に到着するため、船の操縦はAIによる自動操縦に切り替え、アランたちはそれぞれのモビルスーツに搭乗していた。
「デミ・ドーガより図体こそ大きくなっているが、推進剤の量や加速力、武装の取り回しがかなり改善されている。装甲も厚くなっているから、少なくとも三十ミリのバルカン砲程度なら恐れる必要はなくなった。色々と扱いやすく、こちらのわがままを聞いてくれる機体になった、という感じだな」
「では、このデミ・ドーガはその逆ということですか? 出航前に少しシミュレーターで触ってみたときには、そういう感覚はありませんでしたが」
新たな乗機を手に入れたアランに代わって、現在デミ・ドーガに乗っているマリア・リアスが質問する。
アランは彼女のこういう事前の準備や学習を怠らない勤勉な性格が気に入っていた。
「正反対、というわけではないが。デミ・ドーガは、端的にいえば多様な局面である程度の活躍ができる汎用的機体だ。機動性と応用力の高さに重点を置いた機体だから、どれかに特化した機体には分の悪い戦いを強いられることになるだろう」
まだジオンの兵士ですらなかった頃からモビルワーカーに乗って仕事をしていたアランは、自らの搭乗した機体の特徴や弱点、どういった運用ができるのかということを把握するのに長けていた。
そのため、アランは今回の急な乗機の変更でもまったく混乱せず、今やプルス・ディアスを自分の乗機だと言い切れるほどに乗りこなしていた。
「だから、そういった機体と遭遇した際には機動性を活かして退却するか、或いはウミヘビやフェダーイン・ライフルなどの癖がある武装で翻弄するかを選択することになる。だが、戦うにせよ退くにせよ、デミ・ドーガの装甲自体は薄いということを念頭にいれてくれ」
「はい、了解です」
「アラン隊長、なんか声が明るくなった気がするんスけど、なんか良いことでもありました?」
マリアとアランの会話に割って入るジャン。
「いや、なに。いつまでも情けない姿を見せられないと、自分に喝を入れただけさ」
何気なく痛いところを突いてきたジャンに、アランは内心で驚きながらもどうにか平静を装って話を続ける。
「隊長、どうか一人で思い込まずに。私やジャンは何度も隊長に助けてもらいました。今度はその借りを、少しでも返させてください」
「そうッスよ。隊長は思い詰めるとずっと一人で考えこむ癖があるんスから。人間、一人でできることの方が少ないッスから、無理せず人に頼った方が上手くいくかもしれないッスよ」
真剣に己を案じてくれる二人の言葉に、ますます心苦しくなるアラン。
「そうか、ありがとう。なら、愚痴のひとつでも聞いてもらうために、この任務が終わったら何処かへ飲みにでも行こうか」
心の中でマリアとジャンに謝りつつ、アランは良き部下を持ったことを誇りに思った。
低音のブザーが鳴り、インダストリアル5の周辺宙域に到着したことを船がアランたちに知らせる。
そのブザーの音で、アランたち三人の表情は険しいものへと変わった。
「このブザーは、通信可能距離に近づいたインダストリアル5のターミナルから、応答がなかった時のみ鳴らすように設定していたものです。……パターンC、最悪のケースですね」
「ターミナルはもう残党共に乗っ取られたか、或いはコロニー周辺にミノフスキー粒子が散布されているか……。どっちにしても、かなりヤバい状況ッスね」
「念のためにモビルスーツに乗っていたが、予想というのは悪いものほど的中するな。船はもうすぐ止まって、格納庫が開くぞ。全員、戦闘の準備をしろ」
ストラダーレ号後部にあるモビルスーツ格納庫の側面が開く。
この航宙輸送船は小さいスペースでモビルスーツの発艦、収容ができるように設計されており、船体側面にはモビルスーツの片足と片腕を使って発艦させるタイプのカタパルトが備えられていた。
「まず俺が、その次にジャンのジム・グランツァが出る。接敵した場合、ジム・グランツァは肩部のミサイルポッドとバズーカで応戦、マリアのデミ・ドーガがライフルで後方から支援し、俺のプルス・ディアスが切り込む」
「「了解!」」
プルス・ディアスが船体右側面のカタパルトに左腕部と左脚部を乗せる。この固定した二つの部分を加速させ、モビルスーツ側のスラスター噴射と共に射出するシステムである。
戦争で使われたような大型艦船ならば、モビルスーツ自体を寝かせて大型のカタパルトから射出したり、モビルスーツの両足を固定することで安定した発艦を行うことができる。
しかし、こういった特異な発艦の形をとらなければならないのは、ひとえにアランたちが非正規の部隊であり、目立つ大型艦を運用できないためであった。
ぐん、というカタパルトの加速に伴うGがアランの身体に負荷をかける。
次に背部と脚部のスラスターを噴射し、アランは無駄のない動きで発艦。手慣れたものであった。
そうして発艦したアランは、加速を緩めることなくまっすぐにインダストリアル5へと向かう。
彼の乗るプルス・ディアスの後ろには、マリアのデミ・ドーガやジャンのジム・グランツァが追従していた。
アランたちの読み通り、インダストリアル5周辺にはミノフスキー粒子が散布されており、レーダーは当てにならず、無線通信の類は機能していない。
「時すでに遅し、か……?」
アランは顔をしかめ、周囲警戒をより一層強める。
そして彼は、コロニー側から接近してくる二つの光に気がついた
「ガザCが二機! 前方、十二時の方向から接近してくるぞ!」