ダンジョンで雷神に拾われたのは間違いだったのだろうか?   作:やたからす

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第11話

 植物のような見た目のモンスター——食人花はソルとレスクヴァを敵と見なし、襲いかかる。

 

「おらぁ!!」

 

 レスクヴァは引き抜かれた片刃の大剣を振るい、先頭の個体から順に切り裂いていく。

 長身のレスクヴァ同様のリーチと重量があるそれを直剣を扱うように軽々しく振り回す様は驚愕に値する。

 

「まだまだ行くぜ!!」

 

 モンスターだろうが冒険者であろうが、どんな強者だろうとも正面から粉砕し得る圧倒的な武力。

 大剣を振るう様はさながら騎士。

 肉体性能を最大限に駆る威容は狂戦士。 

 その姿は戦場に勝利を招き寄せる。ゆえに、【招雷の右輪(ダングニョスト)】。彼もまた、トールによって見出された戦士であった。

 

「ふんっ!!」

 

 荒々しい戦闘。しかし型にはまった動きは流麗。大剣が振るわれる度に食人花がバターのように斬り裂かれていく。

 

「邪魔だ!!」

 

 拳一つで頭部を破壊し、鋭い蹴りで胴を立つ。もはや戦闘などとは呼べず、ただただ蹂躙劇だった

 そうして最後の一体を斬り終えたレスクヴァが息一つ切らせた様子もなく剣に付いた汚れを振り払う。

 

「ソル、終わったぞ!」

 

 「どうだ!」と誇らしげに叫ぶレスクヴァ。対してソルの表情はすぐれない。

 

「うーん……残念だが、まだみたいだ」

 

 通路の奥を促す。そこからはさらなる足音が聞こえて来る。

 

「ちっ、まだ来んのかよ」

 

 その姿を視界にとらえる。先ほどの倍の数はいるだろう。それを確認して忌々しそうに舌打ちをしたレスクヴァが再び大剣を構える。

 

「これ、人為的なものを感じるな」

「はぁ?どういうことだよ?」

「操られてる………いや、従ってるのか?」

「モンスターが誰かに従ってるって?まさか」

「一つの可能性としてだ。こんな都合よくわんさか出てくるのも不可解だろ」

 

 ソルが内心で考えを巡らせる。ダンジョンでもないのにモンスターが湧いて出るのは普通じゃない。

 それに、追撃するかのようなタイミングでの増援。明らかに監視されている。しかも、指示を出している者たちがいる可能性もある。

 

「レスクヴァ、一旦下がれ」

「おい、どう言う——」

「残りは俺がやる」

 

 レスクヴァの肩を引いて、ソルが一歩前に出る。どちらにせよ、今はこれ以上奥へ進む気はなく、モンスターを殲滅することに変わりはない。

 見られていても問題はない。ソルにとっては、さらに上から叩きのめすだけなのだから。

 

「【吼えろ、雷鳴轟く不敗の雷竜】」

 

 ソルが持つ魔法の一つ。超短文詠唱のそれは一瞬のうちに詠唱が完了する。

 

「——-【ドルクス・ハウル】」

 

 眩い雷光が視界を白く染め上げ、轟音が耳をつんざく。放たれたのは、竜の(あぎと)を錯覚させる銀雷。全てを灰塵へと帰す破壊の一撃。

 光がおさまり、視界が安定したレスクヴァ。開いた目に映るのは焼け焦げて炭と化してしまったモンスター達。

 襲いかかろうと湧いて出たモンスターその悉くが焼き払われ、一瞬の間に全滅してしまう。

 

「えげつねー」

「そうか?」

 

 レスクヴァも見るのは初めてでないが、相変わらず短文詠唱の魔法にしてはふざけた威力だと思う。

 

「今のうちに俺らも退くぞ」

「了解。また出てきても面倒だしな」

 

 この門の先にあるものがなんなのか、その正体に謎を残したままソル達はこの場をあとにした。

 

 

———-

 

 

 門の先。迷宮のように作られた建造物の最奥。そこで蠢く影があった。

 

「……やられたねー」

 

 飄々としながらも、その顔には隠しきれない焦燥が浮かんでいる。

 死を司る神タナトス。怪しげな色気と神らしい威厳を持ち合わせている彼も、今回ばかりは動揺していた。

 

「何を悠長に言ってやがる!!『鍵』を奪われたんだぞ!?」

 

 それ以上に動揺を顕にし喚き散らす女性はヴァレッタ・グレーデ。暗黒期のオラリオにおいて、最も多くの冒険者たちの命を奪ったLv.5の殺人鬼。

 彼女も事態の深刻さを理解し、頭を掻きむしりながら憤慨する。

 

「いやー、本当に不味いよね」

「くそっ!クソがクソが!!!最悪じゃねえかよ!!よりによってアイツらに……!!!」

 

 ロキ、フレイヤらの都市最大派閥に並ぶ【トール・ファミリア】。その実力は引けを取らず、気軽に手を出せるような相手ではない。

 

「トールの子らか……お前達も面倒なのに手を出したな」

 

 魅惑的で色気をはらんだ声。緑色の髪に露出の多い服、その顔に嗜虐に満ちた表情を浮かべた女性が姿を表す。

 

「やあモリガンちゃん。帰ってきてたのか」

「あぁ、用事も済んだことだしな。それより、中々厄介な事になっているそうじゃないか」

「うーん、そうなんだよねー…」

 

 モリガンと呼ばれた女性に、タナトスはやれやれと言いたげに頭を抱える。

 

「おい……他人事みたいに言うが、お前らにとっても無関係な話しじゃ無いだろうが!」

 

 ヴァレッタは余裕綽々といった態度を崩さないモリガンが気に食わず、激情のままに噛み付く

 

「ここが見つかれば、お前らだって終わりだろう!!」

「そうかもしれぬな」

「だったら——」

「……おい、あまり生きがるなよ【殺帝(アラクニア)】」

 

 モリガンの背後から姿を現した男性がノコギリのような刀身を持つ大剣をヴァレッタの首に突きつける。

 

「っ………【憎鴉(バズヴル)】」

「ひかえろ、ヨギュン」

 

 ヨギュン・ゲラガルド。【憎鴉(バズヴル)】の二つ名を持つ彼は、モリガンの指示に従い剣を収める。

 しかし、不満はあるようで「チッ」と舌打ちしヴァレッタと睨み合いを続ける。

 

「はいはい、みんな仲良くねー。それでモリガンちゃん。これはどうするべきだ思う?」

 

 タナトスは【トール・ファミリア】に『鍵』を奪われたことについての対策を尋ねる。

 

「私としては、放置が好ましいな」

「なっ……」

「ふむふむ、それはなんで?」

「貴様らでは勝てぬからだ」

 

 モリガンの予想外の返答にヴァレッタが絶句し、タナトスが聞き返す。そこからもたらされた答えもまた単純なものだった。

 モリガンはヨギュンの失われた左腕を見下ろす。かつて、【トール・ファミリア】を率いるソルによって斬り落とされたものだ。

 戦鬼が如く蹂躙する様は、雷神の写し身であるかのようだっま。数年前の悪夢、未だにその時の恐怖がヨギュンの脳裏にこびりついて離れない。

 

「でも、さっきの言い方だったら、()()()()()()()()。って言ってるように聞こえるんだけど?」

 

 タナトスがニヤニヤと笑みを浮かべながらモリガンに真意を聞く。

 

「勝てるとも」

 

 対して、モリガンは一切の躊躇なく断言してみせた。

 

「なんならトールの子らは私たちが相手をしてやろうじゃないか。それが私たちの目的でもある」

「わぁー!それはありがたい。援助は弾むよ!」

「期待せずに待っておこう」

 

 それだけ言い残して、モリガンとヨギュンはこの場をあとにする。

 

「協力者は得た。戦力も蓄えた。切り札もある。戦の準備は十全……いよいよ復讐の機会がやって来たぞ、ヨギュン」

「くくっ、心が踊りますね」

 

 雌伏の時は終わりを告げる。迷宮都市の地下にて、再び闇が動き出す。

 

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