ダンジョンで雷神に拾われたのは間違いだったのだろうか? 作:やたからす
ダイダロス通りでの一件から数日後。今日は【ロキ・ファミリア】の帰還日となっている。
と言ってもソルのすることは普段と変わらず、この日もトールに連れ回されている。
「ざっと二週間てところか。思ってたより早かったな」
「何かしらの
先遣隊によって伝えられたのは大まかな帰還日のみ。報酬の件もあるし、詳細は後々同行した団員にでも尋ねればいいかと考える。
「うわぁぁぁ!!!」
話しながら歩く二人の前方。全身を真っ赤に染めて奇声をあげている少年が走ってくる。
「「?!?!」」
今までも変わった人物は数多く見てきたし、思考放棄を余儀なくされる事件も多々あった。しかし、今回はそんな二人にしても驚きを隠せなかった。
「あれ、なんだと思う?」
「……新米がドジ踏んだとしか」
元気な様子を見るに自分の血ではなくモンスターの返り血なのだろうが、にしても面白いと二人は思う。
少年を見て笑いを堪えていたり、盛大に馬鹿にしている周りの人物達の気持ちが少しわかってしまうくらいだ。
「……ん?うん??んんん???」
「えっ、トール?」
「…………」
「…………まさか」
「…………決めたぞ!」
「おい、待て!」
ソルの胸中に嫌な予感が湧き上がる。早まった行動を取られる前に引き止めようと手を伸ばした時には既に手遅れだった
「お前!!」
「どわっ!?」
走ってきた少年の前に立つ。トールが急に現れたことで、止まることができなかった少年はそのまま尻もちをついてしまう。
「えっ?あ、あのっ」
「真っ赤な少年、お前の名前は?」
「ふぇっ?」
「素直に答えておいた方がいいぞ?でないと無駄に時間を食うだけだ」
ソルは申し訳なさそうに「ごめん」と謝罪しながら腰を落として少年に耳打ちをする。
「ぼ、僕はベル・クラネルです」
「年齢は?」
「……十四歳」
「
「は、はい。丁度半月ほど前です」
トールは取り調べのように質問を重ね、ベルと名乗った少年も丁寧に答えていく。
おおよそ道の真ん中でするようなやり取りではなく、奇異の視線が集まってくる。
「おい、あれ」
「あぁ?げっ、【雷皇】じゃないか」
「第一級冒険者かよ」
「絡まれてるガキは誰だ?」
畏怖、憧憬、嫉妬。向けられる視線は様々だが、ソルは気にしない。というよりも、今回の場合はベルに向けられる視線の方が多かったので気にもとまらなかった。
「冒険者になった理由は?」
「え、えっと…………女の子との素敵な出会いを、夢見たから」
意外も意外。予想の斜め上をいく理由にトールもソルも呆気に取られる。が、すぐに言葉の意味を理解し、トールは愉快だと笑いだした
「あっはっはっ!!おいソル!!コイツ面白すぎるぞ!!」
「確かに、今のは認める…」
ソルも口に手を当て、必死に笑いを堪えているが肩が震えているのが分かる。
二人はベルを馬鹿にしているのではなく、単純にそんな理由を真面目に言えることに驚きと興味を抱いていた。
「よしよし。それじゃあベル、お前、私の
しかしそれはそれ。トールが勧誘を始めることは分かっていただけに、嫌な予感が的中してしまった事にソルは頭を抱える。
「えっ、なりませんけど…」
「えっ?」
「え?」
「………なんで?」
「いや、だって僕、もうファミリアに入ってますし……」
冒険者は所属しているファミリアから別のファミリアに移転する際には『
そして重要なのが神々が決めたルールとして、一度ファミリアに所属すれば最低1年間は再改宗できないというものがある。
つまり、ベルが【トール・ファミリア】に入るにはなんらかの理由で主神が送還されるか、
もちろんトールもそれは理解している。ソルはポンとトールの肩を叩いた。
「諦めろ」
「………やだ」
「子供みたいな我が儘言うなよ」
「だって!久々に『強い』奴を見つけたんだぞ!?」
「はいはい。……ウチの主神が悪いな、ベル、って言ったか?急いでるんだろ?早く行けよ」
「は、はい。えっと、すいません」
断ったことに罪悪感を感じてなのか謝罪を口にして走っていった。
「あぁ……金の卵が……」
「他派閥に迷惑かけてまで無理強いする事でもないだろ」
「いや、私は諦めないぞ。一年後、アイツが改宗したいと思えるくらいにしつこく誘ってやる!!」
「本気で迷惑だからやめてくれ」
これと決めたら譲らないトールの性格を知っているがために、ソルはこれ以上の面倒ごとが起こらないようにと祈ることしか出来なかった。