ダンジョンで雷神に拾われたのは間違いだったのだろうか? 作:やたからす
「ここのケーキ美味いな」
「そうでしょ?私のお気に入りの店よ」
第一級冒険者たちが火花を散らす店外。しかし、そんな事などお構いなしとばかりな二人の女神はまるでお茶にスイーツにと女子会のような雰囲気を醸し出している。
「それでトール、そろそろ本題入っていいかしら?」
「あ、そう言えばそんなのもあったな」
「早くしないと、オッタル達が暴れちゃうわよ。どうせトールの
「まあな。けど、ウチの奴らはそんなに手が早く無いから安心しろって」
聞く人が聞けば、いや、誰が聞いても「冗談だろ」と耳を疑うような発言だが、トールは本気で言っている。
タチが悪いのは悪意が一切ないこと。これは、トールが過去に戦った武神達を基準としているからこそ起こる齟齬。
しかも、そもそも時間感覚が神と人で違うのに、そこら辺さらに大雑把なトールからすれば差はないも同然だった。
「ならいいのだけど」
「んで、話ってのは?」
ここまで忘れていた事実など気にも留めずにいつものように尊大な態度でフレイヤに語りかける。
「私の邪魔をしないでほしいのよ」
「………………ん?邪魔?」
トールは皿の上のスイーツから手を離し顔を上げる。そしてもう一度、スイーツとフレイヤとを見比べて首を傾げ、納得したようにため息を吐く
「最近、妙に情報収集をしてるかと思えば『神の宴』にまで顔を出す。珍しいと思ってたが……結局、男か」
「うふふ、さすがねトール。闘うことにしか興味のない脳筋なんて呼ばれてるけど、それは嘘。貴女は立派な神よ」
「褒めてるのか馬鹿にされてるのか迷うな……」
トールはコホンッと咳払いをして一度冷静さを取り戻す。
「それで、今度のはどこのどいつなんだ?もしかして、また他
「そうよ。しかも、貴女だって知ってる子」
「私が、知ってる?」
トールに思い当たる人物はいない。まさか
だとするなら、一体誰だと頭を悩ませる。
「ええ。宝石のような赤い瞳に、白い髪の兎みたいな男の子」
「?…………………あぁ!あの血まみれ少年か」
「???」
「いやいや、こっちの話し」
初対面がなかなかに刺激的だったために「白い髪」と言われても思い出せず、「兎みたいな」でようやく思い至った。
「アレはまだまだ弱いけど、十分すぎる『強さ』はあったな」
フレイヤは他人の『魂の色』を見る。それと同様に、トールは他人の『強さ』を感じることができる。
トール本人が「身体から湧き出る光」「目で見た瞬間の直感」など曖昧な表現しかしないために事実かどうか怪しいが、トールの天賦を証明するように、ソルを筆頭とした【トール・ファミリア】の面々は確実にその才能を開花させていた。
「それで、貴女もあの子に目を付けた、なんて耳に挟んでしまったものだから」
「わざわざこうして釘を刺しに来た、と」
「そう言うことよ」
この場にトールが呼ばれた理由がまさしくそれだった。たしかにトールはあの少年——ベルを気に入っている。
それも、自分の眷属へ迎え入れたいと考えるほどに。
「いくつか条件も出してくれていい。なんなら、
だから邪魔をするな、と言外に伝えるフレイヤ。これ以上はない提案。しかし、最悪の場合は即時の抗争すらも辞さないとフレイヤは本気で思っている。
「お願い」という体裁を取ってはいるが、実際は半脅迫のような交渉を仕掛けてきているのだ
「はぁー………」
フレイヤの話しを聞き終えて、トールはさっきよりも一段と深くため息を吐いた。
「やだね」
「………一応、理由を聞いても?」
「そもそも、なんで私がお前の命令を聞かなくちゃならん?」
眷属たちからは「風のよう」と譬えられることもあるほどに自由気ままな性格をしたフレイヤ。
しかし、フレイヤがそうであるように、トールも「稲妻のよう」と比喩される。
「私は
傲岸不遜、自由奔放。我が道を行くトールには他者の意見あってないようなもの。
「そう。やはり説得は無理だったわね」
「本当に性根が悪い。私の性格分かっててこんな話し持ち出してきたな?」
「ふふ、そうかもしれないわね。でも、提案は本気よ?今は退くけど、邪魔をするようなら、その時は容赦しない」
「おーおー、言ってくれる」
席を立ち、フレイヤは一度、トールと視線のみを交わらせる。以降は振り返ることもなくこの場を去っていった。