ダンジョンで雷神に拾われたのは間違いだったのだろうか? 作:やたからす
「団長、本当に良かったんですか?」
フィン達が帰還し、抗争が回避されたことで宴会のような盛り上がりを見せる食堂。
他団員のように食事に手をつけているソルへ声をかけたのは話し合いの場にもいたエイルだ。
「
「先にそれを飲み込んでください」
「ゴクンッ……なにが?」
「話し合いの結末ですよ」
あの後、すぐにこの話しは全団員に共有された。大半の団員たちは胸を撫で下ろしたが、血の気の多い冒険者らしく戦いが起きずに不平を漏らすものもいた。が、それもいっときの話し。こちらが得られる事になった報酬を知った途端に不満も和らいでいった。
「結果的に見れば得はしてますけど……」
「第三者視点で見て負けを認めたように見えるのが気に食わないと?」
「……はい」
エイルだけでなく、マルスやレスクヴァなども納得いっていないようであった。
「今回の提案、リターンは大きいと思いますがファミリアの名前に泥を塗られたことに変わりはありません」
「たしかに、ね」
シャルヴィとレスクヴァなどは特に責任を感じていた。抗争になるならば自分達が一番槍をと猛っていた程だ。
マルスも一匹狼的な気質はあるが、その本質は情に厚く、
だからこそ納得がいかないのだろう。
「フィンとしては、多少の損害には目を瞑る事になっても【トール・ファミリア】としての影響力を削ぎたかった。なんて、考えてはあっただろうな」
「?!」
【トール・ファミリア】はここ数年で力をつけ始めた派閥だ。何年も前から都市の頂点を争う【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】と比べると新興勢力になる。
そして両者間で決して友好的な関係が築けているとは言い難いという状況。
つまり、両派閥にとって【トール・ファミリア】は力と影響力を持った厄介な相手——「敵対する可能性がある要警戒対象」と見れているのだ。
「だったら!ここは多少強引な手段を取る事になっても、行動を起こすべきでは?」
「俺もその意見には賛成だな」
さらにもう一人、マルスが会話に加わってくる。金色の瞳には噴火前のような怒気が込められている。
「【
マルスも自分が武人気質であることは理解している。だからこそ、力があるのに搦手や謀略を尽くすフィンとは相容れないとも直感で分かる。
「ソル、お前がやると言うなら、俺が戦端を開いてやる。なんなら俺一人で幹部陣数人を仕留めてみせるぞ」
「そう焦るなよ」
ソルが声をかければ今すぐにでも飛び出して行きそうなマルスに静止をかける。
「焦るな?この状況で——」
「俺もトールの名前を貶められて引き下がる気は無いよ」
「「っ………」」
ソルの顔を見たエイルとマルスが息を呑む。この空間だけ時間が止まったかのように錯覚してしまう。ソルからはそれだけの圧が放たれている。
「今は手を引く。けど、このケジメはキッチリと付けさせてもらうさ」
人の上に立つカリスマ性と包容力を持つ反面、悪童めいた稚気と悪戯心も併せ持つのがソルという青年だ。
しかし、今のソルは相対するものへ恐怖心と絶望感を与える。万民を震え上がらせる皇帝のそれだ。
「その時は、マルスとエイルにも働いて貰うぞ」
一転して、いつものようにあどけない笑みを浮かべて二人に向き直る。
「ふっ、くくっ……あぁ、その時はすぐに声をかけろ」
「わ、私も頑張ります!」
笑いを堪えるマルスと両手を握りしめて意気を伝えるエイル。誰もが親しみを抱く青年と恐怖を覚える強者の顔。この二面性こそがソルという人間の本質だ。
「だから今は、存分にこの時間を楽しもうじゃないか」
「一理あるな、飲み比べでもするか?」
「マルスには勝てないからやらない」