ダンジョンで雷神に拾われたのは間違いだったのだろうか? 作:やたからす
数日後、宣告通りに【ロキ・ファミリア】は深層域への遠征へと向かっていった。
約束通り、【トール・ファミリア】からも十二人のLv3〜4の冒険者が参加している。
その代償として都市内では「【トール・ファミリア】が非を認めた」「【ロキ・ファミリア】に怯えてる」など、噂話未満ではあるがソルの耳に入ってくる。
事実確認などしようもないので、それ以上話しが膨れ上がることもないが娯楽に飢える神々にとっては格好のネタとして扱われているのも現状だ。
「退屈だ……」
そんな事は特に関係ないとばかりに、ソルは団長室のソファに座りながら天井を見上げる。
「ソル、ちょっと出かけるから着いてこい」
「急すぎない?」
何をしようかとボケーっとしていたので構わないが、ノックも無しに扉を開けて、こちらの事情を尋ねずに用件だけ伝えるのはトールらしいと思う。
「それで、どこへ行くのさ?」
「ちょっと
————
都市北西部にある趣がある古風なカフェ。カランっと音が鳴る扉をくぐり、トールとソルが奥の個室へと案内される。
その部屋では既に先客が待っていた。
「いやはや、久しぶりだなトール」
「ちっ、まだ生きてたかオルペウス」
「久々に出会った友に酷い言いようだな……」
ぶつくさと言い合いながらトールも席に座る。
頭にバンダナを巻いた色白の優男。軽薄・飄々とした雰囲気を漂わせる彼の名はオルペウス。【オルペウス・ファミリア】の主神を務めている男神だ。
そしてもう一人。扉のそばに立つのは深海のような青髪をポニーテールにした少女、ネーナ・アルシャ。【オルペウス・ファミリア】の団長であり、歌うことにしか興味のない主神に付き従う苦労人。
ステイタスはLv4。第二級冒険者クラスの実力を持つ彼女に付けられた二つ名は【
トールが座ったことにより、ソルも彼女の横に並ぶようにして立つ。
「久しぶりですねソルさん」
「どうもネーナ」
「また何かやらかしたのですか?都市中で噂になってますよ」
「そっちも相変わらず振り回されてるみたいだな」
ソルとネーナとは互いに近況を報告し合い、こうして会話を続ける程度には面識がある。
ファミリア同士、かなり長い付き合いにもなるので互いにある程度の信用と信頼は置いている。
「それで、今回呼び出した内容は?」
「もう本題か。話題や駆け引きを楽しむ事はしないのか?」
「しないな。めんどくさい」
にべもなく吐き捨てるトールにオルペウスはやれやれと首を振りながらため息を吐く。
「【モリガン・ファミリア】が動いてるぞ」
「ちっ、そんな事だろうと思ったよ」
さっきとは違い、心の底から忌々しいと言わんばかりの舌打ち。ソルもこのファミリアの名前には顔を顰める。
「あれっ?知ってたのか」
「
「さすがは都市最大派閥。いや、さすが天界一の武神と言うべきか?戦に関して言うなら隙なしだな」
トールは確かにガサツで大雑把な神だろう。しかし、イコール無能という訳で無ければ間抜けというわけでもない。
一部の神々からは戦うことと強さにしか興味のない脳筋と思われがちだが、それは間違いだ。正確に言うなら一部は合っている。
トールは戦神として争いを好む性質があるのは事実である。だが、彼女が何よりも求めるのは「勝利」だ。
そのためならば全てを尽くす。相手を粉砕するために技を磨き、体を鍛え、精神を研ぎ澄ます。裏をかかれないように謀略を巡らせ、知識を蓄え、時には罠にすら嵌めてみせる。
確かにトールは脳筋と呼ばれる部類だろう。だが決して、馬鹿ではないのだ。
「それと、もう一つ追加で情報をやろう」
「それは重要なことか?」
「もちろんだとも」
オルペウスは人差し指と親指を合わせて輪をつくる。情報と金銭での交渉が望みのようだ。
「いいだろう。内容によっては色もつけてやる」
「話しが早くて助かる!」
オルペウスはニヤリと笑みを浮かべトールは胡散臭そうに眉を寄せる。
「その【モリガン・ファミリア】なんだが、どうやら【モレク・ファミリア】と何かしらの取引までしてるらしい」
「はぁ?あの『復讐』という言葉が皮を被ったようなモリガンが、交渉?……なんの冗談だ」
「冗談じゃなくて事実だよ」
【モリガン・ファミリア】は数年前に【トール・ファミリア】と熾烈な抗争を繰り広げた因縁の敵。
一般には
当時の【トール・ファミリア】によって壊滅寸前にまで追い込んだ事はソルにとっても記憶に新しい。
対して、【モレク・ファミリア】という名前はソルもあまり聞かない。知っている情報としては、オラリオより遥か北方の地を拠点とする国家系ファミリアであるということくらいか。
「なんにせよ、警戒するのに越した事はないだろうね」
「オルペウス、お前はなぜそのような情報を知っている?」
「野暮なことを聞くなよ。俺は詩人で、絶対中立の神だ。誰彼に肩入れしない分、それだけ情報は入ってくるんだよ」
「お前、まさか
トールが最も好むべきは「強さ」と「勝利」。逆に最も忌避するものは「裏切り」。
この場合の「向こう側」と言うのは闇派閥のこと。トールはオルペウスへと視線で問いかける。「お前も敵なのか」と。
「もう一度言うが、俺はただの吟遊詩人だぞ?主役となる英雄あれば天まで赴き、悪逆なる魔王が現れれば地の底まで落ちてみせる。俺はそういう神だ」
演者のよあな尊大な身振り手振りで表現する。ふざけているように見えるが、この神は本気で言っている。
「愉悦と娯楽に満ちた世界こそが望むべくもの。誰に脅されようが信条を曲げる気は無いな」
「誰よりも趣味に生きる神」と自称するのは伊達じゃない。オルペウスは【ヘルメス・ファミリア】同様に中立の派閥。というよりも、ほとんどの事象には関与しない。
こうしてトールと情報の交換を行なっているのも、単にオルペウスの興味が今の【トール・ファミリア】にあると言うだけだ。その方が、より面白い世界になると信じている。
友だから、知り合いだからなどの善意から教えているわけでは決してないのだ。
「……まあいい。情報には感謝する。ソル、帰るぞ」
席を立ち上がり、扉へと手をかけるトール。
「そうだ、ソルくん。君にも言っておきたいことがある」
部屋を出ていくトールに続いてソルも出ようとした際にオルペウスから引き止められる。
「
「………」
返事も返すことなく、部屋をあとにする。ただ、交錯させた視線に「黙って見ていろ」という意志を乗せられていた。