【Web版】敵のおっぱいなら幾らでも揉めることに気づいた件について(なお、転生後の世界は若干シリアスな模様)   作:とがの丸夫

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今回のお話と次話、そしてもしかしたら次次話ぐらいが、序盤で一番の重要回になると思います。


後ろの正面、だあれ? 1

「ふむ、ではジョーカー君はこの薬が今回取り逃がした敵、シルヴィアと呼ばれる女性が、この短期間で驚異的な成長を遂げた原因だと考えているんだね?」

「ええ、まあそうですね。この薬を取り出したときのパイモンとシルヴィアの会話からも、その可能性が高いと思っています」

 

 

 特務長、ジョンドゥは、俺がシルヴィアから回収したカプセル状の薬を手に取り、まじまじと観察する。

 

 

「全く、今どきの敵と来たらこんな得体の知れない物を使うとは思いませんでしたよ。それに、パイモン反応から体への影響は良いモノばかりではない様子でしたし。呆れてしまいますね、所詮は敵。俺でも、例え敵に勝つためとは言え、こんなまがい物に頼りたくはないですね」

「お、おい。それは言い過ぎなんじゃねえか、ジョーカー」

「……」

 

 俺の言葉にソニックは驚いたような反応を見せる。

 

 どうしてソニックがそこまで驚くのかが理解できなかった俺は、ソニックの言葉を一旦無視して、無言でこちらを見つめる特務長に視線を向ける。

 

 

「……そうだね、ジョーカー君の言う通りだ」

「と、特務長まで何を……」

「考えても見たまえ。我々ですらPEについての研究というのは月並な歩みだ。そんな中で、国より敵がPEを短期間で強化出来る薬を開発するなんて、到底現実的じゃない」

 

 

 頼みの特務長ですら、俺の意見に同意したことに、ソニックは諦めたような表情を浮かべる。

 ソニックには申し訳ないが、ここではソニックの考えはマイノリティだ。

 

 そんなソニックの反応を気にも留めず、特務長は観察していた謎の薬をテーブルの上に置く。

 

 

「厳密に言えば、我々でもPE能力者を短期間で強化する薬品は幾らでも作れる。ならば何故そうしないのか」

「……危険性、若しくは現実的じゃないとかですか?」

「その通りだよソニック君。PE能力の強化は確かに可能、だがそれに伴う危険性が釣り合わないんだよ。それこそ、良くて薬の反動で暫くは能力者として使い物にならない。そして悪ければ……」

 

 

 軽い口調とは裏腹に、特務長室に漂う重い空気が厚みを増していくような錯覚が伝わってくる。

 特務長は幼い見た目からアンバランスな印象を受ける程の、邪悪な笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開く。

 

 

「廃人か、死ぬか……になるね」

 

 

 場の空気、特務長の邪悪な笑み、そして最先端を行くはずの国の技術でも、未だ実用までこぎつけられない薬。

 そこまで聞いて、最悪の結果が想像できない人間は居ないだろう。

 

 特務長の言葉を予め予想していた俺達だったが、それでも言葉として出されたものを受け止めるには、少々時間を要した。

 

 

「ま、とは言っても、この分野に特化したPE能力者が居たりしたら別だけど、もしもそんな人材が居たら私が見逃すはずがないからね。大方国の腐った政治家共が、小金欲しさに売人のまねごとでもしてるんだろうさ」

 

 そう口にした特務長の様子からは、想像できる因果関係に対して、口では蔑むように言っているがその実、どうでもいいようだった。

 

 もしも、特務長の言っていることが本当だとすれば、バカな政治家のせいで現場のヒーロー達の被害が大きくなるということだ。

 ソニックも同じ考えに至ったのか、疲れたような表情で溜息をついていた。

 

 

「そんな政治家がいるなら敵でいいですよね、俺に処理させてください」

「お、おい! 今の言葉を取り消すんだジョーカー! 冗談で済まされねえぞ!」

 

 

 ここは国直轄の機関であり、俺が今座っている場所はその機関のトップの部屋。

 目の前にいるツインテールの少女も、異端とも言える特務を率いる長だ。

 

 俺の、もはや謀反とも取れる言葉を、ただの戯言として捨てるのか、反逆の意志を持っている危険分子としてこの場で処理されるか。

 それは目の前で満面の笑顔を浮かべる少女次第だ。

 

 だからソニックは慌てているのだろうが、慌てる必要はない。

 

 

「よく言ったぞジョーカー君、もしも腐った豚共を敵と定めることができた時には、君にその任務を任せようじゃないか!」

「楽しみにしています」

「……ど、どうなってんだよ……これ……ジョーカー、お前どうしちまったんだよ……」

 

 どうしたもこうしたもないだろ、腐っているなら斬り落として新しく、新鮮で健康的な物に切り替える方がいいに決まっている。

 

 特務長がどういう人間なのか、そして国の上層部に対してどういう印象を持っているのかをある程度知っている。

 なんせ、この人と初めて出会った時の一言目が、上層部を豚と呼び、家畜と貶していたからだ。

 

 だが、そんなことを知らないソニックからすれば、先の流れは異様なものに見えたのかもしれないな。

 

 疲れ切った様子のソニックは、小さくぶつぶつと何かを呟いている。

 それでも特務の人間なのかと言いたくなってしまうが、ここは我慢だ。なぜなら今のソニックに言葉を投げるのは俺の役目じゃないからだ。

 

 

「ま、そんなぶつぶつ言ってないでさ。特務にいる人間が、上を嫌っているのは知ってることだろ? それよりも、この薬を研究所の連中の所に持って行って、解析を依頼してきてくれ。それが終わったらしばらく休むといいよ。ソニック君」

「……そうですね、そうさせてもらいます」

 

 特務にいる人間、特に戦力として集められた物の中には、半ば脅すようにしてここに入れられた人間もいる。

 そういった事情をソニックも知っているため、特務長の言葉に素直に従い、足早に部屋を出ていった。

 

 部屋を出る瞬間、ソニックが俺の方に視線を送ってきた。

 その瞳にどんな意志が混ぜられていたのか、俺には理解できなかった。

 

 

「では、報告も終わったので俺も失礼します」

「いや、ジョーカー君。しばらくぶりじゃないか、もう少し話をしようじゃないか」

 

 報告も終わり、これ以上ここにいる必要が無いと思った俺は、特務長に断わりを入れようとするが。

 特務長から返ってきたのは、延長の命令だった。

 

 別に断る理由もないため、少し浮かしてしまった腰を、もう一度座り心地のいい椅子に戻す。

 

 

「君と最後に話したのは何時ぶりかな、多分2か月ぐらいだったと思うけど?」

「そうですね、俺が部隊長になったときにお話を頂いたのが最後です」

「そうかそうか、いやぁ。時間が流れるのは早いねえ、あの日からもう2か月も経ったのかー」

 

 ウンウンと、何が楽しいのか分からないが、特務長は満足そうに頷き。

 笑みを浮かべていたせいで細められていた目を少しだけ見開き、俺に視線を送る。

 

 その瞳に映る、まるで濁った光から、俺はどう見えているのだろうか。

 ソニックの時もそうだったが、得体のしれない化け物はそれ以上に何を考えているのか分からなかった。

 

 きっと、ろくでもない事なんだろう。

 

 

「時にジョーカー君、聞きたいことがあるんだけど……君、最近PE総量が急激に増えてないかい?」

 

 特務長から発せられた言葉。

 先ほどまでと変わらない軽い様子なはずなのに、まるで心臓を握られたかのように錯覚してしまう。

 

 別に、自分の欲求を自覚したからと素直に答えればいいのに、俺はなぜか口を開くことができなかった。

 一向に答えない俺に、特務長は意味深な笑みを浮かべながら、再度口を開く。

 

 

「大丈夫、分かってるよ。自分の欲求、欲望を自覚したんだろ? 今の君の様子と、先の作戦記録を見ていればすぐに分かったよ」

 

 特務長はそう言って一つのノートPCを取り出し、操作を行う。

 目的の物が開けた様子で、特務長がノートPCの画面を俺に見せる。

 

 

「ッ!」

 

 

 そこに映っていたのは、俺が自身の欲求を自覚してから初めての戦闘、初めてシルヴィア達と会敵した時の映像だった。

 

 映像の中では明らかに、俺がシルヴィアの胸を揉んでいる様子が映っていた。

 

 

「いやー、あの時はたまたま近くに巡回ドローンがとんでいたんでね、作戦地域も近かったからちょっと貸してもらったんだ」

 

 一度も下げない不気味な口角を維持したまま、なんてことはないという風に特務長は語る。

 対象のドローンをハッキングしたのか、はたまたそれが可能なPE能力者を使ったのか分からないが、今の問題はそこじゃない。

 

 この映像をわざわざ、特務長が俺に見せてきた理由が分からなかったからだ。

 ソニックを退室させたのも、この話をするためだったのだと今になって気づくが、後の祭りだった。

 

 

「いやぁ、まさかヒーローである君の欲求が、こんな下品なものだとは思わなかったよぉ!」

 

 字面だけ見れば、嘆いているように見えるが、目の前にいる化け物の様子はまさにその逆。

 面白いものを見た、興味に尽きないような、どこまでも観察するよう感触だけが分かる瞳で、俺のことをじっと見つめてきている。

 

 訳が分からないが、このまま化け物のペースに任せてはいけない、そう思った俺はどうにか口を開く。

 

 

「べ、別に問題ないですよね? 相手は敵だ……敵になら……何をしてもいいんだろ!? だってアイツらは犯罪者だ! 社会のゴミだ! そんな連中がヒーローである俺に何されようが、当然の報いだろ!?」

 

 まるで気持ちの防波堤が決壊したように、言葉を並べた数だけ、加速度的に気持ちが荒れてしまう。

 ココがどこで、こうして叫ぶように情けなく喚き散らかしている相手が、一体誰なのか。今の俺には、視界にモヤが掛かっているようで何も認識できていなかった。

 

 

「俺はヒーローだ! 敵を殺すのも、捕まえるのも。む、胸を揉むことだって許されるんだ! だって俺はひ、ヒーローな――」

「そうだね」

 

 

 もはや誰に向けているのか分からない癇癪が、鈴のような声の一言で止められる。

 

 声のした方向には一人の少女、特務長が今日一番の笑みを浮かべて俺の方を見ていた。




序盤の主人公の行動、そして思考性に違和感を覚えた人がいてくれたことに感激です!
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