【Web版】敵のおっぱいなら幾らでも揉めることに気づいた件について(なお、転生後の世界は若干シリアスな模様) 作:とがの丸夫
「はぁ、俺がなんでこんなことをしなくちゃいけないんだ……」
「私だって貴方みたいな人に護衛されるなんて嫌よ、そもそも護衛なんて本当に必要なの?」
特務長から琴乃朱美(ことのあけみ)の護衛任務を下された俺は、琴乃朱美本人に直接会い、今回の任務についての説明を行っていた。
場所は彼女の自宅、現在彼女はアパートに住んでおり、一人暮らしのようだ。
今回の任務は琴乃朱美が俺達特務に所属するまでの期間、彼女の護衛をするという事で、内容だけを聞けばなんてことは無い任務のはずだ。
だが、問題なのはその任務を特務が行うという事。
一応琴乃朱美はヒーローとしてではなく、特務の技術系研究者としての採用になるらしい。
つまり、前線に出る必要もなく、本来であれば襲われるなんてことを考える必要は無いはずだ。
特務のヒーローが護衛に付くという事は、目の前の彼女か、その周辺に敵の影が見えているということ。
PE能力の中でも、技術や知識系というのはかなり稀有だ。
情報に長けている敵の組織というのは、大抵巨大な組織になる。
彼女が特務に所属するまでの期間、敵から狙われていると想定すれば、彼女に実害が及ぶタイミングはここしかない。
特務に所属すれば、基本は特務での生活になるし、街に出る場合も遠出をしない限りは安全だ。
「護衛は必要だ、お前――「朱美」……朱美、君の力は敵から標的にされやすい類のモノだ。そして俺が派遣されたということは、少なからず敵の影を捉えていると思っていい」
「ふぅん…・・・まあ、守ってくれるなら何でもいいわ」
そう言って、やけに呑み込みのいい護衛対象、琴乃朱美(ことのあけみ)を改めて見る。
写真で見た通り、とても22歳には見えないほどの童顔。
身長も実際に会えばかなり低いことが分かる。パイモンよりも低い。
普通、天然パーマは本人に似合わないことが多々あるが、彼女の場合はそれがない。
これで成長していたら、さぞ美人になれたことだろう。今じゃ中学生と言われた方がまだ納得がいく。
「貴方、本当にヒーロー?」
唐突に発せられたその言葉に、胸が締め付けられる。
「……どういう意味だ?」
「だって、貴方ヒーローらしくないんだもん。女の子に向かって”お前”なんて失礼だし、あとなんか雰囲気がヒーローらしくない」
ヒーローらしくない。
最近よく言われる言葉だ。
敵にだって言われた言葉、俺はそんなにヒーローらしく見えないのか……
前なら気にしなかった、特務という建前をもって、否定してきたからだ。
いや、逃げてきた……のかもしれない。
”ヒーローを作るのは誰か”
特務長の言葉が脳裏をよぎる。
ヒーローという抽象概念を誰が決めるのか、最初は自分。
だがそれ以降は周りが決める。
つまり、今の俺は敵からも守るべき人間からも、ヒーローには見えない何かと言われたということだ。
何時から、そう言われるようになったのだろうか……もしかしたら、元々なのかもしれないし、前はヒーローっぽいと言われていたのかもしれない。
……どうして俺は、それを覚えていないんだろう。
「そうか、俺は……ヒーローっぽく、ないか……」
「え、ち、ちょちょ! そんな落ち込まないでよ、言った私が悪いみたいになるじゃない!」
あからさまに落ち込む俺に、朱美は慌てた様子で言葉を口にする。
別に彼女が悪いわけじゃない、そう思われる俺が悪いのだから、彼女が慌てる必要も無ければ気にする必要もない。
「別に、君が気にする必要はない。多分、君の言っていることは事実だ」
「でも、言い過ぎたわ。ごめんなさい。私を守ってくれる人に、さっきの言葉はあんまりだったわ」
多分、彼女はいい人なんだろう。他の人の感情を感じ取ることができ、自分が悪いと思えばすぐに謝ることができる。
普通の人でも中々できないことだ、ましてや今の俺には到底できることじゃない。
彼女、琴乃朱美は俺が想像する以上に、見た目なんて関係なく、大人だった。
……最後に守るべき人達からヒーローと言われたのは、何時だっただろう。
空を見上げて考えてみるが、その答えが出てくることは無かった。
☆
それから俺と朱美は、今後の護衛についての話と、特務に入れば同じ職場で働く同僚になるということもあって、親睦を深めるための交流を行った。
「へぇ、じゃあPE能力者って自分の欲求、若しくは欲望が強くなっちゃうんだ。じゃあ私もそうなるの?」
話のネタとなるのは、当然かPEと能力者についての話になった。
その中で彼女、琴乃朱美が一番に興味を示したのは、自分に一番関わってくるだろうPE能力者の欲求についてだった。
「そうなるな、といってもそこまで異常なものはないさ。例えば朱美は何か好きなモノとかあるか?」
「えぇ、急に言われてもなー……強いてあげるなら、PCとかジャンク品集めて色々作るのは好きかな」
「それが欲求や欲望になるって考えてもらえればいいと思う、朱美の場合はむしろ好きなモノがもっと好きになるって感じだな」
電子系のPE能力者なら、今好きなモノが能力者の欲求や欲望に当たることがほとんどだ。
当たり、という表現は分からないが、欲望が例え暴走したとしても周りに被害は出づらいし、なったとしても寝不足状態でも研究を続けるとか、そんなモノが多いはずだ。
「自分の好きなモノが、もっと好きになる、か……うん、いいね」
それを聞いて安心した様子の朱美は、小さく呟いた。
「それは良かったよ、自分のPE能力に怯えるなんて悲しいからな……敵になる奴も、大半が自分のPE能力に振り回されている。俺はそれを……」
「それを?」
言葉が止まってしまった。
俺は今、何を言おうとしていた?
まるで自分の口がひとりでに動いていたみたいだ、違和感もなければ嫌悪感もない、ただ当然とばかりに動いていた。
だが、それは最後の一文を言う前に止まってしまった。
……続く言葉が、見つからなかったからだ。
「いや、何でもない。つまりだ、朱美は自分のPE能力を、自分の好きなモノのためにいっぱい使えて、楽しいことに全力で向き合えるってことさ」
「ふふ、凄い風に言ってるだけじゃないの? でも、なんだか今からでもワクワクしちゃうわ!」
「そうだろ? もっと楽しくいこうぜ、自分の未来なんだ。PE能力があるならためらわず使って、自分がやりたいことをやればいいんだからさ」
PE能力に怯える能力者は一定数いる。
特に他人への被害が出やすい能力者や、感情に起因する能力者は特にそうだ。
目の前で楽しそうに笑顔を振り撒く彼女が、この先もずっと笑顔でいること以外に最良の結果は無いと、思えたからだ。
「久しぶりに男の人と話したけど、ジョーカーはいい人ね。最初に言ったヒーローっぽくないってのは取り消すわ、貴方っていい人なのね」
「……違うさ、俺はヒーローから一番遠い存在さ」
自嘲するように口が動いてしまう。
ヒーローっぽいと言われて嬉しいはずなのに、今はその言葉を受け取るべきじゃないと、思ってしまった。
せっかく貰った言葉を無下にしてしまったが、幸いにも彼女は気にした様子を見せず、ケロッとしていた。
「そう? じゃあさ、今度は貴方の事を教えてよ。PE能力は何なの? それと貴方にも欲求とか欲望はあるんだよね、それってどんなの?」
こうして、詰め寄るように気になることを追求しようとする朱美は、PE能力関係なく研究者向きなんだと思える。
「俺のPE能力は秘密だ。見せる機会がないのが一番だが、見せる時が来たら、その時教えてやるよ」
「ええ!? なにそれー! ずるいじゃん、私のは電子系だって知ってるんでしょ? ならそれぐらいは教えてよ!」
どうも朱美は気になったことは中々諦められないらしく。
こちらとしても返しづらい所をついてくる。
こうなれば、ある程度しっかりとした答えを用意しないと、彼女は納得しないだろう。研究者というのはそういうものだ。
特務の研究員も、皆似たり寄ったりだったしな。
「はぁ、じゃあ系統だけな。俺のPE能力は展開型の強化系に当たると言われてる」
「言われてる?」
「俺の場合能力が結構曖昧なんだよ、身体強化に変わりはないんだが、通常の強化系のPE能力と違うんだ。だから敢えて言うなら”展開型の強化系”って俺は言ってる」
実際、俺の能力は朱美のように知識や研究向けじゃないし。
パイロキネシスといった、分かりやすいモノじゃない。
そして、ミスタ―ハンマーや、ソニックのような自己強化ではあるが、単純な能力値の上昇と言われるとそうじゃない。
だから”展開型の強化系”と、俺が名付けたってだけだ。
特務の研究者も、それに近いと言っていたから別に間違っては無いはずだ。
「へぇ、じゃあ貴方の能力が見れるときが楽しみね」
「そう簡単に言わないでくれ、俺が能力を本気で使うってことは、文字通り決戦になる。使わないってことが重要なんだよ」
「でも、そうなるとヒーローっぽいことできないね? 敵をこうババーン! って登場してかっこよく倒したりしないの?」
朱美は両手を広げるようにして、疑問を口にする。
「ヒーローはな、居ないほうがいいんだよ……」
「え?」
まただ、無意識に口が開いて、俺が動かそうとしなくても勝手に動いて、言葉を紡いでいく。
朱美は、俺が突然ヒーローの存在を否定したことに、驚いた様子でこちらを見る。
「ヒーローがいるってことは、敵がいるってことなんだ。だから、ヒーローが居なければ敵もいない。必然的に、ヒーローが居ない世界ってのは敵のいない平和な世界になるんだ」
勝手に動く口から発せられた内容に、俺自身が納得してしまった。
前世を思い出せばそうだった。
確かに犯罪者は平和と言われる日本でも何人も捕まったりするし、世界的に見ればテロリストもいれば、国家間の戦争もあった。
だが、PEが存在しない前世は、PE能力による被害が起きない。
この世界の平和な日本よりも、ずっと平和だ。
だから、ヒーローが居ない世界のほうが平和なんだ。
「気に入らない」
「気に入らないか?」
しかし、朱美は俺の言葉に共感してはくれなかった。
むしろ気に入らないと突っぱねられてしまう。
「ヒーローが居たっていいじゃない、それで敵が居なければ。ヒーローだけがいる世界になるじゃない」
「ヒーローだけがいる世界に、ヒーローは必要なのか?」
敵を持たないヒーローに何の存在価値があるのだろうか。
特務長の言っていた”ヒーローのジレンマ”が出てくる、ヒーローをヒーローにするための立役者、敵が居なければヒーローは生れない。
だからこそ、ヒーローが居ない世界が平和だと俺は思っている。
「必要よ! だってカッコいいじゃん!」
「はぁ!?」
まさかの回答に、俺は堪らず声を上げて驚いてしまった。
まさに暴論もいいところだ。
”ヒーローのジレンマ”を真正面から全否定するような言葉を、当然のように堂々と口にした朱美は興奮気味に続けた。
「敵と戦わなくたって、ビューン! って空を飛んだり、災害が発生したときにグワー! って助けてくれたり、変身したり! それだけでヒーローじゃん!」
興奮したままそう口にする朱美は、その見た目もあってか。幼くて、純粋にヒーロー憧れる子供のようだ。
「私はね、敵と戦うだけがヒーローじゃないと思うの。だってそんなの悲しいじゃない……」
「悲しい、か……」
朱美が口にした言葉が、胸に突き刺さるようだった。
自分の考えを否定されたからというわけじゃない、むしろそうだと、共感する自分がいるほどだ。
なら、どうしてその言葉に、俺の体は反応しているのか。
「これは持論よ、ヒーローって、誰かに頼られたり憧れられる人が、”ヒーロー”なんだと思ってるの」
「……誰かに頼られたり憧れられる」
「そう! ヒーローはね、役職でも称号でも無ければ、敵と戦う人でもない。誰かのために全力な人がヒーローになる、私はそう思ってるの」
頭を鈍器で殴られたようだった。
俺は何時から、敵と戦うだけがヒーローと思っていたのだろう。
俺にとって、一番最初のヒーローは、テレビの向こうで敵と戦うヒーローと呼ばれる人達じゃなかった。
前世の両親だ。
『パパは僕のヒーローだ!』
そういったのは何時だったか。
でも、小さい頃の小さな世界の中で、確かに俺の両親はヒーローだった。
熱が出た時は会社を休んでまで、看病してくれた母さん。
ドッジボールでボールを取るのが下手な俺に、一緒になって練習してくれた父さん。
それが、俺にとっての最初のヒーロー。
次は今世の両親。
二人とも、前世の両親と同じぐらい、俺にとってはヒーローだった。
決して敵と戦うこともなく、ただ平和な日常にいつも近くに居た、俺だけ頼れる憧れのヒーローだ。
どうして忘れていたんだろう。
俺の頬が濡れ、水が滴り落ちるような音と、目の前の朱美が驚いた様子を見せたのは同時だった。
「何で泣いてるの!? 私、なにか言っちゃいけない事言っちゃった!?」
手で頬を触ると、確かに指は濡れていて。
そこで俺は、自分が泣いているのだと気付いた。
手で拭っても止まることなく溢れる涙に、俺自身戸惑ってしまう。
慌てて朱美が差し出してくれたティッシュを使い、涙が止まるまで目を覆った。
「突然済まない、少し昔を思い出してしまっただけだ。気にしないでくれ」
「ほ、ほんとに? 私、本当に何か言っちゃいけない事言ったりしてない?」
未だに自分に原因があると思っているのか、朱美は心配そうな顔を惜しげもなく出しながら、俺の様子を伺う。
本当に、彼女はいい人なんだろう。
朱美という小さな女性も、俺からすれば立派なヒーローに見える。
そんなヒーローの表情を曇らせておくのは忍びなく、俺は安心させるように彼女の頭を優しく撫でる。
「本当に違うって、朱美はいい人なんだな」
「ちょ、あ、頭撫でないで! レディーに失礼よ!」
顔を赤くして、抗議する朱美。
……え? 顔を赤くするほど嫌だった?
「す、すんません……調子に乗りました、こんなモブなのに……」
「ええ……そこまで落ち込むの? どんだけ頭撫でたいのよ」
「だって、朱美可愛いし、心も綺麗だし。撫でたくなるじゃん……」
「か……!?」
不貞腐れた俺は、隠すことなく言い訳を述べる。
だが、それすら不快だったのか、朱美は更に顔を赤くして、言葉を詰まらせてしまう。
あ、褒めるのも無しなんですね。マジすんません。
☆
顔を赤くして、金魚のように口をパクパクとさせるだけになった朱美が復帰して。
可愛い女の子にイケメンムーブをかましてしまったことに、自己嫌悪に陥った俺が復帰するまで、暫し無言の気まずい空気が場を支配した。
最終的に、今回のことは無かったことにしようという所で、お互いにとっての落としどころとした。
「え、ええっと……じゃあ、質問。あ、貴方の欲求はなんです、か?」
だが気まずい空気というのは中々すぐに消えることもなく、少女がたどたどしく、口を開く。
それでもどうにか少し前の空気に戻そうとした朱美だったが、質問内容のチョイスが更に面倒なものだった。
俺の欲求は、自分で言うのもあれだが、他者に表立って言えることじゃない。
どうにか友好を結べた? と思える朱美に、ありのままに答えてしまえば。
どんな結末が待っているか……考えたくもない。
「い、いや。別に人に言えないというか、言いづらいというか……」
「えーいいじゃん、私達のなかでしょー」
「1日目だし、会ってまだ1時間前後だぞ。そもそも、PE能力者の欲求なんて受け入れられるものは少ないぞ」
特に俺のは女性に言える類のものじゃない、下手したら護衛を止めろなんて言われてしまう。
「安心して! たとえどんなモノだったとしても、私は引かないし、笑ったりしない。ましてや気持ち悪がったりしないから!!」
つうかどうしてそこまで知りたいんだよ……
他人の欲望とか欲求なんてどうでもいいだろ?
しかし、俺が頑なに何も答えないことに、朱美は痺れを切らしてとんでもないことを言い始めた。
「もう! 言わないならこっちにも考えがあるんだから! もしもこのまま答えないなら、特務に入らないから!」
「ちょ、それは卑怯だろ……」
「何とでも言うがいいわ!」
もしもこのまま俺が答えないで、本当に朱美が特務に入ることを拒否したとしよう。
普通に考えれば、そんな感情任せな選択を特務が許すとは思えないが。それでも相手はPE能力者の中でも、かなりレアな能力者だ。
特務以外にも彼女を欲する組織なんて無数にいる。
俺は最悪の結果を想像してしまう。
俺に、このまま断わるという選択肢は無かった。
「……マジで引くなよ?」
「お、言う気になった? 引かないから、絶対に引かない!」
「……本当か?」
「ホント、ホント」
「……女性に。い、いやらしいことをしたい欲求…………」
「……えっ?」
その言葉を聞いてから十数秒、確かに時が止まった。
朱美はゆっくりと自分の体を守るように、自身の手で抱きしめる。
「……引くわ」
「黙れちんちくりん! 幼児体系に興味ないわ!!」