【Web版】敵のおっぱいなら幾らでも揉めることに気づいた件について(なお、転生後の世界は若干シリアスな模様) 作:とがの丸夫
この作品のライトリメイク版(自重ゼロ版)も書かないといけないのに。。。
この世界に転生して、ヒーローといういわば人には過ぎるほどの力を手に入れたとしても、嫌なものは嫌なままだった。
「グッ!?」
腹部に突き刺さるようにしてもたらされる衝撃。強烈に感じる鈍痛にくぐもった声が漏れる。
能力に目覚め、訓練を重ねて強くなったとしても、この痛みに慣れることはなかった。
「ジョーカー!」
悲痛な叫び声をあげる朱美の声に、俺は答えることができなかった。
全身がボロボロになり、立っているのもやっとな状態。しかもそれが自身の知る人間であればそうなるのもうなずける。
「アッハッハッハ! 格好つけて登場しようとするからよ、さっさと後ろから攻撃すればよかったものを、ヒーローってこれだからおバカさんなのよね」
「はぁ、はぁ……」
あざ笑うパトラと名乗る敵に、反応することなく荒い呼吸を繰り替えす。
俺だって最初は後ろから攻撃するつもりだった。だが奴の周囲に浮遊する黒球、そしてすでに捕まってしまっている朱美。
この状態で後ろから攻撃をするヒーローがいれば、訓練カリキュラムを1からやり直す羽目になるだろう。
目的は朱美の身柄の確保。
敵を倒すのは二の次、何よりも優先するのは護衛対象の安全。
奴の前に出る前から、既に応援は呼んである。
俺がするべきことは敵を倒すことではなく、応援が来る前の時間稼ぎ。だがこれが難しい。
「ひ、卑怯よ! ジョーカーに能力を使わせないなんて!」
「フフ、卑怯で結構よ。手段を選んで負けるなんて馬鹿のすること、手段を択ばずに勝つのが私達。敵なのよ」
「だ、まれ……敵風情が、ほざいてんじゃ、ねえ。選べないだけ、だろうが!」
呼吸をするのも億劫だ、だが奴の意識が朱美に向くのはまずい。
相手の言葉を否定するようにしたおかげで、どうにか奴の注意を俺に引き留めることができるが、その代償は些か高かった。
周囲を浮遊する黒球の一つが、加速して俺に攻撃を加えてくる。
「ガッ!」
回避することも、ガードすることもしない俺は、ただ痛みに耐える。
「まったく、貴方はいいわよね、こうしてヒーローが助けに来てくれるなんて、うらやましいわ」
「なら、どうして敵なんてしてるのよ!」
「簡単よ、あなたの前に現れたのはヒーロー、私の前には理不尽が現れただけ」
パトラはそういうと、どこから出したのか。朱美を拘束していない右手に赤く光る鞭のようなものを見せつけるように、持ち上げる。
その特徴的な鞭を見た瞬間、自身が記憶しているいくつかの敵の名前が思い浮かぶ。
特務に関係なく、ヒーローたちはある一定の脅威を持つ敵の情報を持っている。そのなかでパトラの次の言葉で、敵の正体を突き止めることができた。
「私のPEは鞭を作って自在に操るモノ、名前はローズウィップ。他の敵みたいに潰したり切ったりなんて到底できない安物。でもこれ、ものすごく痛いのよ?」
「なるほど、な。お前、”赤鞭”か」
「あら、私って意外と有名人?」
「名前は覚えてないが、その武器と残虐性はお前しか当てはまらねえからな」
「もう……女性にお前なんて言葉使うものじゃないわ、女から見ればただの暴言よ? 正体がバレてるなら隠す必要はもうないわね 」
自身の正体がバレたにも関わらず、パトラは余裕の表情を崩すことなく。あまつさえ自身の姿を隠していたローブをこれ見よがしに取り払う。
ローブが取り払われてようやく敵の姿が露になる。
赤くウェーブのかかった髪に、派手なボンテージ姿にいつもの俺ならその姿に歓喜していただろう。しかし今の俺にはそれを目の前に歓声を上げることができなかった。
「貴方もいつまでそんな虚勢を張っていられるか見ものだわ」
「ジョーカー! 私のことはもういいから! 能力を使って!」
迫りくる黒球を目の前に、俺は小さく呟くしかできなかった。
「あぁ。痛いのは、やっぱり嫌だな」
☆
目の前で嬲り殺しにされているジョーカーを目の前に、朱美は何をすることもできず、ただ茫然と眺めていることしかできなかった。
「アッハッハッハ! やっぱりヒーローって間抜けよね、人質一人取るだけでこれだもの!」
朱美は耳元に聞こえる歓喜する声を、どこか遠くに感じていた。
一月ほど前ではニュースとかでしか見聞きしていなかった敵とヒーローが、こうして目の前にいるというのに、それが見せる現実は斯様にも夢のないリアルを叩きつけてくる。
知らなかった。
敵と呼ばれる存在が、如何に恐ろしいのか。
知りたくなかった。
自身が踏み込もうとしている世界が、恐ろしく残酷な場所だということを。
見たくなかった。
ヒーローと呼ばれる存在が、自身のせいで傷つく姿を。
(私は何もできないただの一般人だ。PEに目覚めただけの普通の人じゃないか)
自分のPE能力は電子系と教えられたのみで、実際に何がどこまで出来るのか皆無だった。
分かってることは電子系端末への理解が異様に高くなったぐらいだ、それがこんな事態を招いた最たる原因だから。
どうして彼が護衛として派遣されたのか、その意味をまったく理解しなかった。わかっていたらこんなにもちっぽけなプライドなんて、どぶにでも捨てて彼に事情を話していたかもしれない。
無数に湧いてくる後悔とたらればが、あの時気付けば、少しでも彼に相談していたら。朱美自身が自嘲してしまうほどに言い訳が増えていく。
ドサリ
しかしそんな無意味な思考は、目の前のヒーローが倒れたことで強制的に終了させられる。
自身を助けに来たヒーローは、声すらあげることなく静かに倒れてしまった。
「あーあ、もう終わっちゃった。いくらヒーローでも能力が使えないんじゃこんなものよね」
落胆したような声に、今更反応する気力は残っていなかった。
朱美の思考を占めていたのは彼への懺悔、自身とかかわってしまったばっかりに、自分が余計なことをしたばかりに。彼はこうして無残にも傷ついてしまったのだから。
(私にもっと力があれば……センサーをハッキングしたみたいに、この黒球をどうにかできれば……)
出来もしない希望を、今更になって探し出そうとする。
パトラの言っていたことが本当なのであれば、黒球はPE能力ではなく、PE能力で作られた兵器になる。つまり、ハッキング自体は自身の能力でもできる可能性があるということ。
だかハッキング使用にも道具もなければ、方法も分からない。
(あれ……)
またたらればを繰り返すが、今回は何かが違った。
黒球に意識を向け、”こうしたい”と思ったのと同時に、不思議な感覚が彼女を包み込む。
出来ないと思っていることが出来ると思え、方法も原理も分からないはずなのに、どうしてか分かる。
まるで昔からそれが出来ていたかのように、つい少し前までど忘れしていたかのように。
頭が理解、いや。思い出し。口が自然と動いた。
「”命令よ”」
自分でも発したことのない口調に、違和感はなかった。
呟くように言葉を発した次の瞬間、パトラの周囲を浮遊していた黒球が一斉に静止した。
「これはいったい、どういうこと……まさかっ!?」
黒球の操作が行えなくなったことに気づいたパトラ、すぐさま原因を探そうとして自身が攫おうとしてるターゲットの情報を思い出す。
パトラが気付き行動するよりも早く、朱美は次点の命令を発する。
「”私を拘束するこいつを攻撃しなさい!”」
機械に命令するにはあまりに抽象的なそれは、朱美のPE能力により主人の命令を違えることなく黒球を上書く。
命令を与えられた黒球は、例え数秒前まで命令を発してた主人に冷酷なまでに襲い掛かる。
「チィ!」
今まで操作してきた道具が牙をむいたことに、パトラは苦い表情を浮かべながらも冷静に回避行動をおこなう。
「私を抱えてどこまで避けれるかしら?」
「ッ!? 生意気ね!」
しかし、朱美がそれを許さないとばかりに暴れるようにしてパトラの行動を妨害する。
パトラは一瞬の思考で優先順位を決める。
最大の障害でもあったヒーローは地面に伏しており、目下の問題はどういう理屈か分からないが、操作権限を乗っ取られた黒球。
それを操作する朱美を攻撃しようにも、敵としての経験から覚悟を持った人間の扱いは難しい。
最悪、自分の身の安全すら考えずに戦い続ける可能性もある。
幸いなことに、朱美自身には直接的な戦闘力はないことはわかっている。それならばまず、彼女唯一の攻撃手段となった黒球を無力化するところから、確実に進めていけばいい。
黒球を買うのにかかった費用を考えれば、あまり好んで取りたくない手段だが、目の前のPE能力者を確保すれば総じて問題はない。
「いいわ、少し遊んであげる!」
パトラはすぐに先ほどまでの余裕な笑みを浮かべて朱美を手放す。
いくら不意を突かれたとはいえ、黒球単体に対する対処は簡単。本来、黒球を使用する目的は自身の補助。
鞭という武器の特性上、狭い空間といった限定的な戦況化でも対応できるようにするのが目的だ。
口には出さないが、自分が有利だということに変わりはなかった。
だからこそ黒球に集中して対処してしまう。
戦闘能力が黒球以外に存在しない少女に対しての注意はほとんどなく、例え朱美が倒れ伏しているジョーカーの元に向かったとしても、電子系の能力者である朱美には何もできない。
「これが終わったらお仕置きね、それもとびっきりのにしないと」
猟奇的な笑みを浮かべるパトラの視界には、ジョーカーの元で蹲るだけの哀れな子羊が見えていた。
☆
PE能力により、敵の使っていた黒球を乗っ取ることでどうにか対抗手段を得た朱美だったが。
今の彼女に余裕の表情はなく、より一層不安そうな表情が色濃く出ていた。
分かっている、自身が乗っ取った黒球はただの時間稼ぎにしかならないということを。
全ての黒球を破壊した敵が、自分にどのような仕打ちをしてくるのか考えたくもなかった。
だが、それよりも今は目の前に倒れている、自分のせいでボロボロになったジョーカーを助けることが何よりも優先された。
自分のことなんてどうなってもいい、ただ、長らくできなかった友人を何が何でも助けたかった。
「起きてよ、ジョーカー!」
必死に声を掛けるが、意識を失っているジョーカーは一切の反応を見せない。
それでも朱美は必死に声を掛け続ける。
「お願いだから……目を開けてよ、貴方強いんでしょ? なら、寝てないで起きてよ……」
声は弱弱しくなるのに、ジョーカーを揺さぶる手の力は落ちることはない。
自然とあふれる涙を拭うこともなく、この時ばかりは信仰の欠片も持たない神にさえ懇願した。
「あ、貴方はどう思ってるか分からないけど、貴方は、私の初めての人間の友達なの……初めての友達をこんなことで失うなんて、嫌なの……お願い、貴方が起きるならなんでもするからぁ」
自分でも何を言っているのか分からない言葉を必死に紡いでいく、何でもいい。彼が起きるならなんだってする、敵の武器を作れというならいくらでも作ろう。
今からでもそう懇願すれば、彼が助かるのなら、何度だって頭を地面に叩きつけよう。
人に興味なんてないと思っていた。
機械のように、他人を数値でしか見れないのだと。自分以外は馬鹿で、愚かで、対等に思える相手なんて存在しないと、思っていた。
なんてことはない、ただ友達を作るのが苦手で。勝手に壁を作っていただけだ。
じゃなければ、目の前の人間一人のためにここまで心がぐちゃぐちゃになるなんてことはない。
経った一月も満たない関係だが、人生の中で最も色のある日々だった。
どこかに出掛けたわけでも、何か楽しいことをしたわけでもない。ただ適当にお互いのことを話したり、見ていたテレビ番組や漫画の話をしていただけ。
一つ付け加えるのなら、そのどれもが昔の自分が経験しなかった事柄だった。
そして、青春の最たるものですら、今が初めてだった。
体を揺らすことを止め、力の入っていないジョーカーの腕を両手で掴む。
触ったことのない異性の腕は、同じ人間なのかと思ってしまうほどに重く、ごつごつとしていた。
両手でやっと持ち上げることのできた手を、慎ましくとも女性と判断できるほどには膨らんでいる場所へと持っていく。
昔、小さいことに思うところがあり、マッサージをすると大きくなる伝説を試したときとは明らかに違う。
この気持ちが”アレ”なのかと断言できないが、それでも自分以外の人間に胸を触らせることに、抵抗がほとんどなかったのだから心を許してはいるのだろう。
「ほら……小さいけど、私だってあるのよ? 起きてくれたら、幾らでも、触っていいから。ね? だから、目を、開けて……」
恥ずかしさで顔が赤くなるが、そんなことは気にならなかった。
PE能力に伴う欲望が、本能に近いのなら。少しでも可能性があるのなら、なんだっていい。
彼の手が触れてから数秒、若しくは十数秒。
自身の背後に響いていた戦闘音が止む。
「タイムオーバー、さぁ。私を苛立たせた罪は重いわよ?」
「ジョーカー……貴方が生きてくれるのなら、それ以外望まない。さようなら、私の初めての友達」
後悔するでもなく、諦めたわけでもない、ただ願うように朱美が呟いたのと同時に、自身の胸に押し当てているごつごつとした手が、ピクリと動いた。
「……おぉ、小さいが故の柔らかさ。知らなかったぜ」
幻聴ではない、現にその言葉が聞こえた瞬間から、乾いたのどの水を流し込むように、彼の手が優しくもせわしなく動き続けているのだから。
とんだヒーローだ、登場も遅ければ目を覚ますの遅いなんて。重役出勤もいいところだ、後でケーキをいっぱい奢ってもらわないと割に合わない。
「遅いわよ、じゃないと私、どこか行っちゃうよ……私を守ってくれるんでしょ?」
「それはよくない、俺の聞き間違いじゃなければ、逃がすには獲物が良すぎるからな」
目を覚ましたとはいえ、ボロボロの状態は変わらないが、それでも彼はゆっくりと力強く立ち上がる。
「ちょっと待っててくれ、少しやらなきゃいけない事があるんでな」
状況は少し良くなっただけ、だけど彼。
ジョーカーの背中が大きく見えて、もう大丈夫だと、そう思えた。