【Web版】敵のおっぱいなら幾らでも揉めることに気づいた件について(なお、転生後の世界は若干シリアスな模様) 作:とがの丸夫
「へんでぃっ!?」
頬に強烈な痛みを感じて目が覚める。
「あ、あれ……ここは……」
最初に視界に映ったのは知らない真っ白な天上だった。
「おはようジョーカー、よく眠れたかしら?」
「いやはやジョーカー君、君はやはりおもしろいねえ」
「はあ、ジョーカー……大まかな話は聞いたが。いや、お前は俺達の期待の星だぜ……」
真っ白な天上をぼうっと眺めていると三者三葉の言葉を投げつけられた。
嫌に動かしづらい体をどうにか動かして視線を向ける、そこには見知った顔が3つ並んでいた。
なんとなく、さっきも同じ光景を見た気がするが気のせいだろう。
特務長、ソニック、そして朱美。表情もそれぞれ違く、特務長は面白いものを見れたと愉快そうに笑みを浮かべ。
ソニックは呆れたような、安心したように肩をすくめる。そして朱美は顔を真っ赤にしてプルプルとカタを震わせていた。
三人がどうしてそんな反応を示しているのか、その答えはすぐに分かった。
動かすのもやっとな状態なはずなのに、まるで別人格でも宿っているのではないかと思えるほど、俺の両手が縦横無尽に動き回っていた。
片方は特務長の見た目相応の小さな胸を、スーツの上から揉んでおり、スーツの少し堅い素材の感触。しかし手に力を加えれば硬いはずの手触りからは想像もつかない優しい柔らかさがそこにあった。
例え小さいとは言え、特務という荒事に対応する組織の重役。鍛えこまれた身体故に形の良さがはっきりと現れていた。
モミモミ
大きいものとはまた違う、何というかこう。小さな抵抗感とでもいうのだろうか。うまく表現できないが、昔誰かが胸は脂肪の塊と言っていたあの言葉を、それは嘘だと一喝出来る程に素晴らしいといえた。
小さくとも、鍛え抜かれた体が作りなす調和。それこそ脂肪の塊とは対極に位置するものといえよう。
うん、最高でござる。
そしてもう片方の手は朱美の方に伸びており、パトラとの戦闘の時に揉ませてもらったあの感触を、また触れていることに安堵した。
まあ、触られている本人は顔を真っ赤にしているみたいだが、俺はあの時の言葉を忘れてないぞ。おもいっきり楽しませてもらおうじゃないか。
今日の朱美は厚手のパーカーを着ているようで、手にはごわごわとした感触が伝わってくる。
しかし、スーツよりも素材自体が柔らかく、指先に少し力を加えると指だけが朱美の胸の形を変える。
特務長と同時に触らせてもらっているためか、大きさは同じぐらいでも揉んだ時の感覚がまったく違うことに驚いた。
モミモミ、こっちもモミモミ
改めて同時に同じように揉んでみるが、圧倒的に違いがある。
特務長の場合は柔らかいがその中に確かな抵抗感。そして形を維持しようと胸全体が美しさを保っている。揉むよりも形を変えないように上から優しく撫でる方が、美しさを堪能できる。
これは特務長の鍛えられた体だからこそのモノだろう。これを脂肪と揶揄するのであれば、是非とも一見、いや一触するべきだ。世界が変わるぞ。
では朱美の方はどうなのかというと、小さいのに柔らかと言ったらもうこれ以上の言葉はないだろう。
彼女の場合、今まで荒事の世界とは無縁の平和な日常にいたのだ。体系の維持や健康面での運動以外鍛えた感じはない。
だが、いや。だからこそ、この胸は少し膨らんだ幸福という表現が正しいと言える。
垂れもせず、かといって張っているわけでもない。そう、少し膨らんでいるのだ。だから手を当てればそれだけで形が変わる。
下着の類が邪魔をするがなんのその。下から救うように手のひらを押し上げれば、手に乗らなそうな大きさなのに、チョンっと手に乗るのだ。
軽く押して、すぐに離す。
ぽよん
手を大きく広げて優しく包む。
むにむに
天は二物を与えず、しかし素晴らしき実りだけは大盤振る舞いするのだ。神よ、今なら敬虔なる信徒になりましょうぞ。
そう、神の与えたもうた実りを愛で、育むための組織を作ろう。そして神に祈りを捧げる時は――
「ねえ、いつまで……そうしているつもりなの」
新たな道を開きかけていた俺の思考を、朱美の言葉が首根っこを掴んで引き戻す。
そこには修羅が宿っていた。
「これ、二回目なんだけど。最後に言い残すことはあるかしら?」
あ、見たことある光景と思ったらまさかの再犯だったか。
多分この後起きる出来事も初犯の時と同じなんだろうな。そして結末も然り。
ああ、これはもう逃げられない。
悟った俺は最後にこの幸福を忘れないように、全神経を手に集中させる。
「そうか、2回目なのか……流石俺だ」
ニコリと俺は今世紀最大に良い笑顔を朱美に向ける。
朱美もニコリと俺に笑顔を返す。
世界はなんとも素晴らしいことに満ちていた。
「死にさらせええええええ! この変態いいい!」
朱美の怒声と、股間に衝撃を受けた次の瞬間だけを残して、そこから先の記憶が消えてしまった。
せめて、先ほどの幸福なひと時だけは決して忘れまい。その覚悟だけが最後まで残っていた。
再び俺が意識を取り戻したのは数分後。目が覚めた瞬間を俺は朱美と特務長に誠心誠意土下座した。
全身打撲、裂傷。いくつかの骨折。日に聞かされた俺の傷は大きく深かったらしい。というか、朱美の一撃が止めになりかけていたとか。
だが全身に感じる痛み以上に、社会的に死にたくない俺は涙ながらに謝罪を繰り返し。どうにか許してもらうことに成功した。
☆
土下座をしてから半月が立ち、俺は無事退院となった。
常人であれば骨折1つで完治まで2か月前後と言われているが、PE能力者には当てはまらない。
PE能力者が人類の進化と呼ばれ、この摩訶不思議なエネルギーにProgressiveの意味が込められているもっともな理由だ。
ただ単に不思議な力、例えばサイコキネシスやパイロキネシスといった能力だけで言えば、ただ超能力者と呼ばれていただろう。
だが、PE能力者はただ不思議な力があるだけじゃない。だからこそ超能力者とは呼ばれない。
容姿、病気に対する抵抗力、身体能力、その他雑多な能力値、そして自己治癒力。その全てにおいてPE能力者は常人を圧倒する。
常人では考えられないほどの力を、種としての”力”が人を超える。なのに、その力は今もなお解明しきれておらず、一説ではPE能力者事態が成長を続けているとも言われいる。
故にPEと呼ばれている。
だからこそ常人であれば死んでいてもおかしくない傷を負っても、適切な治療を受ければ半月で完治に至る。
……今特務長と朱美のことを思い浮かべた奴手を挙げろ。俺と一緒に手を挙げようじゃないか。
「退院おめでとう。ジョーカー」
病院を出ると朱美が笑顔で出迎えてくれていた。
「君が迎えに来てくれたのか、てっきり他の人だと思ってたよ」
「なによ、折角迎えに来てあげたんだから感謝してよね。それともこの画像を世間様に公開してもいいのかしら? 変態さん」
朱美はそう言いながら携帯の画面を見せてくる。
形態には患者衣を着た俺が綺麗な土下座を決めている姿が、画面いっぱいに映し出されていた。
挑発するような笑みを浮かべる朱美に、俺は鼻を鳴らす。
「ふん! 良きものを堪能した対価を払ったまで。むしろ揉んだ者のみに許された証だ、丁寧に拡散してくれ」
「なんで堂々としてるのよ!」
「別に悪いことはしていないだろ? 特務長には許してもらったし、君には元々許可された行為じゃないか」
パトラとの戦闘の時を思い出す。
あの時彼女から聞いた、いくらでも揉んでいい券を放棄する気はない。
パトラもあの時のことを思い出したのか、起こった表情から羞恥心に顔をワナワナさせ始める。
「ち、違うわよ! あ、あの時は貴方がお寝坊さんだったから。早く起きてもらうために言っただけだから、あの時はそうするしかなかったの。ていうかもう駄目! 時効よ時効!」
「原告の主張を却下します。被告の権利は口頭であろうとも契約として成り立っているため、法的な力を有していると判断します」」
「それっぽいこと言って逃げないでよ! だめったらだめ!」
どうにか気持ちを持ち直した朱美が地団太を踏みながら講義する。というかお前20超えてるんだから地団太はないだろう……
肩で息をして病院の前ということも忘れるほど、取り乱していた朱美だが、次第にその勢いを収まっていく。
「そうか……そんなに嫌だったんだな。済まないことをした。朱美がそこまで嫌がっていたなんて、気付かなかったんだ……」
「ジョーカー……」
少し申し訳なさそうに謝罪すると、朱美は俺が本当に申し訳なく思っていることが伝わったのか、心配そうな視線を向ける。
俺は言葉を続けた。
「それに、あんな事件に巻き込んでしまったのも、俺の力不足が原因だ。もっと強ければ君に怖い思いもさせることはなかった、ごめん」
頭を下げて謝罪する。
「だが、君は俺のあまり人に言えないことを話しても、こうして話しかけてくれる。君とこれらも良好な関係を続けたいんだ」
「ジョーカー。そう、そうだよね。貴方だって好きであんなことをしているわけじゃないんだものね。それなのに……私こそ、ごめんなさい」
「いや、君は悪くない。俺もこの欲求とは折り合いを付けなくちゃいけないと思ってる。でも、今はまだそれが完全に制御できないんだ」
「わかってる……私、貴方がそんなにも悩んでいるなんて、気付けなくて……私に出来ることなら言って、出来る範囲なら私も貴方の助けになりたいの」
頭を上げると朱美が優しい笑顔で俺に手を差し出してくる。
彼女は優しすぎて、そして勇敢だ、だからこそ子猫を抱えながらもパトラから命がけで逃げ続けた。
俺が情けなくもパトラに倒されてしまったときも、パトラに抗い、そしてそのまま逃げることもできたはずなのに、俺を助けようとしてくれた。
こうしてまた、俺のような人外にも手を差し出してくれる。
「また、同じように君にあんなことをしてしまうかもしれない」
「大丈夫、ジョーカーなら、そ、その……別に、嫌じゃ……ないし」
「え。今……なんて」
「だ、だから。ジョーカーになら。む、胸を触られても……嫌じゃ、ないから」
ピ
その場に流れるには不釣り合いな電子音が、小さく音を鳴らす。
「ピ?」
朱美にも音が聞こえたようで、首をかしげながら音の出所を探す。
彼女は優しすぎるのだ。だからこそ、優しさに漬け込む輩が出てこないとは限らない。これは仕方のないことだ。
騙される前に、騙されることを経験し、予防させなくてはならない。これは誰かが彼女のためにやらなければならないことなんだ。
「ねえジョーカー。さっきの音、聞こえた?」
「ああ、聞こえた」
朱美の言葉に俺は答えながら胸ポケットに手を入れる。中からゆっくりと平べったい長方形の棒を取り出す。
一瞬何を取り出したのか、そして物を見てもなお首をかしげる朱美に、俺は棒に配置されているボタンの一つを押す。
「む、胸を触られても……嫌じゃ、ないから」
その棒から、朱美の声で先ほどと同じ音声が流れる。
まるで時間が止まってしまったかのように、朱美と俺の動きが止まり。少ししてお互いに顔を見合わせる。
ニコリと俺が笑みを浮かべ。
朱美も返すようにニコリと笑顔を見せる。
「言質とったああああああ!」
「いやあああああああああ!」
高らかに吼える俺と、悲痛な叫び声をあげる朱美。
「あんな素晴らしいモノを触らせておいて! やっぱだめなんて許さん! 俺はあれがないと生きてけないんだ!」
俺は朱美に思いを伝えるため、熱いまなざしと確かな気持ちを込めて言った。
「決め顔で変なこと言わないでよ! いいからそれ渡しなさい!」
再度顔を赤くした朱美が、俺が手に持っているボイスレコーダーに手を伸ばす。だが戦闘特化の俺と、戦闘向けに特化していない朱美では身体能力に大きな差がある。
「ンガッハッハッハ! 絶対に渡さんぞお!」
戦闘に特化したPE能力、そして実戦経験もあるのだ、彼女に万が一でもこのレコーダーを取られることはないだろう。
だが、PE能力に関しては言えば、彼女も立派なPE能力者。しかも戦闘力に関していえばかなりの強者と思えるパトラが使ってた黒球、聞いた話ではPE能力者が作ったとされる物。
そんな物を咄嗟にハッキングできてしまうほどに強力な力だったらしい。
俺にとって最大の誤算はそれだった。
「舐めないでよね! そんなの手に触れなくたって、どうにでもなるのよ!」
朱美がPE能力を発動する。しかしPEの動きから彼女が何かをしたのはわかったが、何をしたのかまではまったくわからなかった。
顔に全て出ていたのか、彼女は悪戯が成功したような笑みを浮かべる。
「私がパトラとかいう敵の使ってたあの黒球を、どうやって弄ったのかしらないの? もうそのボイスレコーダーの中は空っぽよ」
「な……嘘だ。そんなわけ……」
朱美の勝ち誇ったように告げられた内容に、俺は手を震わせながらも再度再生ボタンを押す。
「……」
一度は再生できたことに淡い期待を抱いたが、再生から数十秒待っても期待した声が流れることはなかった。
本当にボイスレコーダーの中身が空になった事実に、耐えきれなくなった体が膝から崩れ落ちてしまう。
「もう、終わりだ……」
世界とはなんと残酷なのだろう。一度は許された権利だろうと、掴み取った力(脅迫材料)ですらこうもあっけなく消えて行ってしまう。
打ちのめされた心に自然と目からは涙があふれていた。
「え!? そ、そんなに落ち込むの!?」
「当たり前だ……君の胸をもう揉めないなんて……」
「えぇ……」
あまりの落ち込み様にさすがの朱美もどんな反応をするべきか困っている様子だった。
そのまましばらく、膝から崩れ落ちたまま泣き続ける男と。それを目の前に遠い目をする女の姿が、病院の出入り口を塞いでいた。
「い……いい、わよ」
「……え?」
耐えきれなくなった様に朱美がぽつりと呟く。
「だ、だから。あんな卑怯なことしなくても、いいって。言ってるの」
顔を上げて朱美を見る。
彼女は顔を真っ赤にして、言葉の恥ずかしさからか目には潤んでいた。
「ま、マジで……いいの?」
彼女の言った内容に思わず聞き返してしまう。
男性が胸を触らせるのと、女性が胸を触らせることは全くと言っていいほどの差がある。それを分からないはずがなく、彼女の顔を思わず見つめてしまう。
「そ、その代わり。せ、責任……とってもらうから、ね」
そう言うと朱美は視線を他のところに向けてしまう。
(まさか、朱美がそこまで考えていたなんて……)
確かに、女性がそこまで許せる相手となればそれなりの関係を持つ相手だけだろう。ましてや彼女ほどに優しい女性ならば、その線引きがどうなっているのかなんて疑う余地もない。
そうまで言ってくれる彼女の優しさと思いに、全身を打ちのめされた俺は思わず口を開いてしまった。
「え、重」
「その喧嘩、言い値で買わせていただこうかしら?」
危うく再入院することはなかったが、その後会ったソニックにめちゃくちゃ心配されてしまった。
気が付いたら朱美ちゃんがヒロインみたいになってた……