【Web版】敵のおっぱいなら幾らでも揉めることに気づいた件について(なお、転生後の世界は若干シリアスな模様)   作:とがの丸夫

27 / 31
1章:エピローグ2

 病院から無事に本部へと帰還した俺を最初に出迎えたのは、当然ながら上司である特務長だった。

 

「やあ、ジョーカー君。体の方はもう大丈夫なのかな?」

「はい、お陰様で今からでも仕事に復帰したいくらいです」

 

 ミスターハンマーに入れてもらったお茶を飲みながら、俺は特務長室で報告を行うことになった。

 相変わらず見た目からは想像もできない空気を醸し出す特務長は、これまた何を考えているのだろうか分からない笑みを浮かべる。

 

「まさかあの”赤鞭”が出てくるとは私も想定外だったよ、情報部も適当な報告を上げたものだね」

「私も昔赤鞭と戦ったことがありますが、敵でなければ是非ともウチに欲しい人材ですね」

 

 ミスターハンマーがそう答えると、特務長は意外そうにわざとらしく驚いて見せる。

 

「わお、まさか君からそんな言葉が聞けるとは。できれば私も是非ともあってみたいものだね」

「あはは、まあ特務長ならさすがのパトラでも勝てないでしょうね」

「ジョーカー君。君の戦闘記録を見させてもらったけど、私にはとてもじゃないが難しいね」

 

 嬉しそうに返す特務長だが、実際に戦闘になればものの数舜でパトラが倒れる光景が容易に想像できてしまう。

 特務長自身が戦うなんてことは基本的にあり得ないが、それでも彼女が後ろで構えているというだけで、言葉では表せないほどの安心感を得られるのだから不思議だ。

 

「特務長……そろそろ本題の方を」

「わかってるよミスターハンマー、折角の可愛い部下との交流に水を刺さないでくれるかな?」

 

 笑顔で特務長は語りかけるが、なぜかミスターハンマーは一瞬だけ体を硬直させてしまう。だが次の瞬間にはいつも通りの反応を示し、少し肩を竦める。

 

「これは失礼を。ですが彼と話したがっている者も他にいます。特務長であれば彼といつでもお話できるではありませんか?」

 

 言い切る直前、ミスターハンマーの視線が特務長からこちらに向けられる。

 

「そうですよ。特務長からのお声があれば、何時でもお邪魔させていただきますよ」

「そ、そうかい? ならいいのだが……」

 

 ミスターハンマーの言葉に被せるようにして特務長に告げると、特務長は先ほどとは違う笑顔を俺に向ける。

 勘違いかもしれないが、上司にこうして気にかけてもらえるというのはかなりうれしい。しかも中身はともかく、見た目だけで言えばPE能力者らしい容姿も持ち合わせているのだ。

 

 美人で頼れる有能な上司、俗物的な思考だが。男なら誰もが夢見る光景だろう。

 

「特務長が良ければいつでも……それで本題というのは何でしょうか?」

 

 俺からも本題に入って欲しい旨を伝えると、特務長はそうだったと手を叩く。

 ……おう、かわええ。

 

「そうそう、ジョーカー君。君は先の戦闘で暴走したはず、なのに戦闘の記録ではその状態でPE能力を発動させたそうじゃないか」

 

 本題というのはそれだったか。確かに自分が仕出かしたことなのに、アレには疑問ばかり浮かんでしまう。

 何と答えたらいいのか、言葉を探しながらどうにか答える。

 

「自分でもあの時どうしてあんなことが出来たのか分からないんですよ。というか、あの瞬間だけは死んでもパトラに勝とうと必死でしたし」

「死ぬなんて簡単に言わないでくれたまえ。私は君に期待してるんだ、次からは生きるために死ぬ気で頑張ってくると信じているよ」

 

 少し悲しそうな表情で特務長が言う。

 荒事が基本とはいえ、自分の部下が自殺交じりの戦闘を行うというのは、特務長としても看過できないのだろう。

 

 俺も一応は部下を持つ役職にいるのだから、今後はそこも注意して任務にあたるべきだ。

 

「すみません。次からは気を付けます」

 

 素直に謝ると特務長は嬉しそうに頷いてくれた。

 

「よし! じゃあ話の続きだ。本来暴走に陥ったPE能力者の末路は二つだけ、内外の影響に関わらず暴走が沈下して生還。もう一つは命を落とす。だが君が見せたのは第三の結末になる」

 

 特務長の言葉にシルヴィアの時を思い出す。

 彼女は完全に制御不能な状態に陥り、あの時はソニックとパイモンと協力して対処に当たった。だけど暴走中のシルヴィアの意識は感じられなかった。

 

 暴走状態に陥ったPE能力者は、自力での制御ができない。もしくは困難な状況になっているということだ。

 しかし、そうなるとどうして俺がそうならなかったかが問題になる。

 

「どうしてあの時、俺は暴走してたのに意識を保っていられたのでしょうか。確かに意図的に暴走を起こしましたけど、それ以外特別なことをしているわけでもないのに」

「まあ、色々と候補は上げられるけど。憶測の域を出ない、だけど今回の戦闘でもそうだけど、我々よりも強い敵というのは幾らでも存在する」

 

 特務長の声に力が込められる。それはきっと、俺が不甲斐ないせいもあるのだろう。暴走しなくても、普段通りの力でパトラに勝ててさえ入れば……。

 

 その考えが顔に出ていたのか、特務長が困ったように笑う。

 

「君が背負い込むことはない。そのための組織であり、私なのだ。一人で対処できないなら対処できる人員で事に当たればよい、組織の存在意義とはそういうものだ」

「だけど今回みたいなケースもあります。一人で対処できることが最善であることに変わりはありません」

「そうだね、だからこそ我々は不確定に備える必要がある。今回の件で問題点がいくつか浮き彫りになったが、悪い話ばかりでもない」

 

 落ち込む様子の俺とは対照的に、特務長の表情は柔らかだった。

 戦闘員でしかない俺と、国家直属の機関を束ねる彼女とではそもそも見える光景も、手に入る情報量もまったく違うのは自明の理だ。

 

 そんな特務長がプラス面な出来事もあると言ってくれると、少しだけ安心できた。

 

「まずは組織の体制。といってもこれは赤鞭が使っていたあの黒球の有用性、それと今回特務へと来てくれた琴音朱美がメインだね。今までは君たちヒーローの自力に頼っていた部分が大きい、実際それで今までどうにかなってたしね」

 

 特務長が困ったように肩を竦める。

 確かに今までの常識では、PE能力者に銃弾は大した効果もなく、戦車や戦闘機といった従来の兵器はそもそも市街で使用が困難。

 

 だからこそ敵が敵として暴れ、その対抗手段としてヒーローが作られたといってもいい。

 

 今まではそれでどうにかなっていた、どうにか出来てしまっていた。だがパトラが使用した黒球、銃弾よりも高威力であり戦車よりも市街戦に有用と見れた。

 

「今までのようにPE能力による力押し一辺倒を続けていけば、被害は大きくなる。赤鞭が暴れずとも黒球が使える敵が出てくれば、それだけで戦況に影響を及ぼす。以前は対処できた敵に苦戦を強いられ、下手をすればヒーローが負ける事案が増えていくだろう」

「そこで朱美達のような開発向きなPE能力者の出番ということですか」

 

 ミスターハンマーが特務長の言わんとすることを察する。

 

「その通り。コマンダー君が言っていたが黒球一つとっても、全ヒーローに配備されれば、それだけで3割近くの戦力増強が見込めるらしい」

「3割もですか!?」

「使えるものがPE能力者だけなのか、それとも軍人や警察官でも使えるのかなどの条件にもよるらしいが。例え現役のヒーローだけだとしても3割、色々と問題も多いだろうが敵の戦い方が変わり始めているのかもしれないんだ、手札は多い方がいい」

 

 3割という数字の意味する内容を、1ヒーローでしかない俺ですら驚愕するほどだった。

 ましてや方々の状況も知っている特務長からすれば、俺以上に3割の意味を重く考えているはずだ。

 

「ただし、これが敵にとなればその脅威度は3割では済まなくなる」

 

 浮かれかけた気持ちに冷水を掛けられたように、事態の重さがのしかかる。

 黒球だけでなく、兵器の有用性が高まれば敵も同じことをする。むしろ黒球の場合は敵が作った武器にだ、現時点で既に敵に先手を打たれている状況と言えた。

 

「故に我々、特務の目下の目標は二つだ。一つ目は言わずもがな新しい武器の研究開発、これは技術班に期待するしかない。そしてもう一つ、黒球の製造者を見つけて捕まえること」

「製造元なんてわかるんですか?」

 

 言うのは簡単だし重要性も理解できる、だが相手は他の敵と違い表に現れる必要のない存在だ。

 今までのように暴れまわる敵をただ捕まえたりするだけでは絶対に捕まえられない。取引の情報を掴んで現場を、なんてことも難しいだろう。

 

 だが、俺が思い至る問題点などすでに考慮済みのはずだ。そしてわざわざこの話をしたということは――

 

 俺の反応に特務長が笑みを深める。

 

「今も昔も変わらない、"虎穴に入らずんば虎児を得ず"。我々特務にはたまたま派手な戦闘の影響により長期療養が必要と判断されているヒーローがいる。力があり、ヒーローとしての現場経験が短いおかげで、世間や敵に顔がほとんどをばれていない存在がいるのさ」

「マジですか? というか俺の場合パトラとか言うすごく危ない奴に目を付けられてるんですけど……」

 

 確かに半月ほど前までであれば文字通り誰にも素顔を知られていないと言えた。特務内でも交流のある人はソニックさんを含め少数、特務以外のヒーローであれば顔を見られたところで問題もない。

 だが今は違う、どこぞのゲーム見たく無条件で出会ったら即バトル仕掛けてくる相手がいるのだ。しかもしっかりと全身白タイツの顔出しスタイルも見せてしまっている。

 

 絶対に上手くいかない、そう思ってしまう俺とはやはり対照的に、特務長はやる気満々な表情で俺の言葉を否定する。

 

「だーいじょーぶ! 赤鞭って君を獲物判定してるんでしょ? 例え身元が彼女にばれても闇討ちされるだけで済むよ!」

「闇討ちされてるよぉ……ていうか、その製作者とパトラって繋がってるじゃないですか。絶対に無理ですって」

「……行ける行ける!」

「え、なんですかその間。絶対、あー気づいちゃったか―って顔してましたよ!? お言葉ですが、俺は一度パトラにボッコボコにされてるんですけど。次戦っても同じ結果ですよ?」

 

 ダメージを受けていたとか関係なく、例え万全の状態でもパトラに勝てるとは思えなかった。良くて引き分け程度だろう。

 だから別の奴にしてくれと懇願するが、特務長の決定は変わらない様子だった。

 

「任務中は変装させるし戦闘についても任せなさい、そのために一つ目の目標である武器の開発を急ピッチで進めさせてるのさ。加えて言えば赤鞭とドクターが常に一緒にいるわけじゃない、彼らは所詮売り手と買い手。下手したら任務中一度たりともあわないかもしれない」

 

 特務長が俺の逃げる口実のすべてを真正面から打ち砕いていく。だがそれに反応する暇もなく、俺は特務長の発言の一つに襟をひかれた。

 

「あれ? 武器を作った敵の名前ってもうわかってるんですか?」

 

 確かに特務長はここにきて今日初めて上がる名前を口にした”ドクター”。話の流れから博士の意味合いだろう。

 

「まあね、と言っても彼女を知ってる人間は数少ない。直接的な戦闘力を持たず、研究や開発に特化したPE能力者さ。あんな武器を作れる敵だと彼女以外に考えられないんだよ」

「そんな危険な敵がいるなら、どうして今まで名前が上がってこなかったんですか?」

「うん、まあ。そこは上の事情としか言いようがないね」

 

 いつものように揶揄うとかでもなく単に言葉を濁す特務長とは珍しい。俺があまり手を出していい内容でもないと察することができた、これ以上の詮索はやめておこう。

 虎穴に入る前にさらし首にされたのではたまったものじゃない。

 

 今更命令を覆すなんてできないし、与えられた任務をシクシクと成し遂げるしかなさそうだった。

 

「正式な任務は暫くしたら発行されるから。それまでは任務に向けて英気を養って置くように、入用だったらこの間みたいに膝枕でもしようか?」

 

 特務長はそういうと自身の膝を叩く。

 しかし病院であんなことをしてしまった手前、その魅力的な提案を受けるのが少し心苦しかった。

 

「あ、君の場合ははこっちかな?」

 

 自身の足を叩いていた手を自らの胸にまでもっていき、手の平サイズのささやかな膨らみを強調する。

 いつもであれば相手が特務長といは言え、お子様ボディに鼻を吹かすこともできただろう。だが初めて朱美の胸を揉ませてもらったとき、そして病院での出来事が重なった結果。俺はあの慎ましやかな幸福の素晴らしさを知ってしまったのだ。

 

 知ってしまったあの素晴らしさの誘惑は耐え難いものがある。が、ここは職場で相手は誰であろう自分の上司。そして得体のしれない存在だ。

 多様な背徳感と、今後の人生も考えてここは血涙の覚悟で断るべきだ。

 

「ありがとうございます! 是非よろしくお願いします!」

「お前、それでいいのか」

「ハッ!? 口が勝手に!?」

 

 ダメでした。心はともかく体が男の子でした。

 

「あっはっはっはっ! さすがジョーカー君。今はミスターハンマー君もいるしね、今度二人っきりの時にでも期待していてくれ」

「ご配慮感謝します! 立派なますらおとして、お勤め頑張らせていただきます!」

 

 今の俺はやる気に満ち溢れていた。何と良き上司に巡り合えたことだろう……世の男どもには申し訳ないが、この幸せを彼らのためにしっかりと堪能せねば。

 ミスターハンマーがどこか呆れ顔を見せてる気もするが、今の俺はそんなことも気にならないほど有頂天になっていた。

 

「話は以上だよ。あーそうだった、ソニック君が君を待っているようだから顔を出してあげておくれ」

「わっかりました! ソニックに会ってきます、失礼します!」

 

 意気揚々と特務長室を出る。そのまま気分よくソニックの元へ向かおうと、扉を閉めようとしたときだった。

 

「あ、これも言い忘れてた。君が見せてくれた暴走状態でのPE能力発動……あれ、安定して使用できるようにしておいてね」

「勿論です! お任せくださ……い」

 

 バタンと扉がそこで完全に閉まる。

 

「……え?」




ということで2章はそんな感じで潜入捜査と、新しい力ゲットだぜ編。です

次話で1章が終了。そして一応キャラ紹介話を作るつもりです。

2章はキャラ紹介の次からになりますかね。
(もしくは他キャラとの絡み話とかでもいいなとか思ってます)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。