【Web版】敵のおっぱいなら幾らでも揉めることに気づいた件について(なお、転生後の世界は若干シリアスな模様)   作:とがの丸夫

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1章:エピローグ3

 特務長の部屋を出るときに言われた言葉に頭を抱えつつも、体は役目を果たしていた。

 

「お、ジョーカー。やっと戻ってきたか……って、うぉ!? なんか悪いもんでも食べたか?」

 

 気が付くとソニックの部屋の前まで来ていた俺に、ソニックが驚いた様子で訪ねる。

 任務のことなど話せない事柄を除いて、最後に特務長に言われた内容を伝える。ソニックは驚いた表情をした後、憐れむように肩を叩いてきた。

 

「ま、まあ。特務長がそう言ったってことは、お前さんに期待してるってことだろ? 俺も何か出来るなら手伝うから、そう落ち込むなって」

「ありがとうございます……それで俺に話ってなんでしょうか?」

 

 ソニックの励ましに少しだけ気持ちを持ち直した俺は、ソニックが待っていた理由を聞いた。

 しかし、呼び出した張本人であるはずのソニックが気まずそうに視線を彷徨わせ、まるで覚悟を決めるように口を開いた。

 

「本来こういった話はタブーなんだろうが、ジョーカー。聞かせてもらっていいか?」

「えっと、何についてでしょうか?」

「その前にお前、口調が前みたいに戻っているようだが、何かあったのか?」

 

 ソニックが俺の喋り方が以前のように戻っていることに疑問を持つ。

 確かに、以前にため口でと言われてその通りにしたが、考えた結果俺は以前のように彼に対する話し方を元に戻すことにした。

 

「色々考えたんです。例え俺とソニックが同じ役割を持っていたとしても、ソニックが俺の先輩であることに変わりは無いですから。それに、敬語って敬う人に向けて使う言葉でしょ? 俺は貴方を仲間だと思っています、それ以上に頼れる先輩なんですから」

 

 入院していた半月、俺は一月前の自分の行動について考えていた。彼に対する言葉もそうだが、特務長の質問に答えたときとか今考えればあり得ないと答えるものばかりだった。

 例え前世が20代で、今世合わせの40超えだとしても。経験のない時間というのは何ら意味を持たないのかもしれない。

 

 むしろ精神年齢は10代なのかもしれないな。

 

 自分の考えを全て言ったわけじゃないが、ソニックは何かを察した様子で笑顔を見せる。

 

「そうか……俺は良い後輩を持ったみたいだな」

「すみません、やっぱり先輩にため口は難しいですね。それで話って……」

「ああ、そうだった。話っていうのはお前の欲求についてなんだ」

 

 ソニックの言葉に思わず体に力が入る。

 

「琴音ちゃんが何か言ったわけじゃないんだ。ただ、護衛中のことや赤鞭との戦闘時の話をを聞いてな。もしやと思ったんだが、病院でのことではっきりした」

「どうして、それを今、俺に話そうと?」

「必要なことだと思ったからだ。だが、お前だけに話をさせるのは不公平だろ、だからまずは俺の話を聞いてくれ」

 

 最初に感じた覚悟を持った言葉は、もしかしたら自分のことを話すためのものだったのかもしれない。

 ヒーローだからと言って、自分の欲求や過去について話すのはタブーとされている。ましてや特務に入るPE能力者にまともな人間は少ない。

 

 ソニックは緊張した様子で口を開いた。

 

「俺の欲求は恐怖から逃げることだ」

 

 普段のソニックから想像もできない言葉が出てきた。

 

 それからソニックは自分の過去について話をしてくれた。

 元々は特務ではない普通のヒーローとして活動していたこと、そして初戦闘の時自分の欲求を自覚したらしい。

 

 彼が初めて戦った敵はかなり強く、恐ろしかった。仲間と一緒に凶悪な敵と戦う中、初めて敵と真正面から視線を交わしたソニックは恐怖を強く感じた。

 

 ソニックはその場から一人逃げ出した。

 

 

 今まで自分がどうして加速系のPE能力を発現させたのか、彼自身分からなかったが、全力で逃げ出したときに初めて自分の欲求を理解した。

 それは生物が持つ防衛本能として真っ先に挙げられるものだった。

 

 どこまで走ったか分からない、ただ欲求を自覚した瞬間、彼のPE能力者としての力が確かに強まってしまった。

 それから彼は逃げ続けた。

 敵が少しでも強いとわかれば誰よりも早く逃げた。

 敵が爆弾を仕掛けたとわかった瞬間、現場から逃げ出した。

 

 事前情報で敵が凶悪とわかったら、出撃の一切を断った。

 逃げに逃げ続けた彼はヒーローとして活動することが出来なくなっていった。

 

 語るソニックはどこか遠くを見つめ、悲しむでも後悔するでもなく、ただ過去を振り返っていた。

 

 今まで見てきたソニックはそこに居なかった。俺が見てきたソニックは頼もしく、誰よりも早く動くことで任務で実績を勝ち得てきた。

 だから彼が今しがた語った内容が、とてもではないが信じられなかった。

 

 ソニックはそんな俺の顔を見ると小さく笑った。

 

「驚いたか?」

「驚きました、俺が知ってるソニックとは真逆じゃないですか。その……欲求はどうしたんですか?」

 

 PE能力者の欲求が消えることはない、俺はパトラの時にそれを知った。

 強弱はあれど、人の欲求は多岐にわたる。だがそのどれもが自分が持つ個性であり、それが消えることはない。

 

「今も変わらず、っていうと語弊があるな。だけどな、今でもめちゃくちゃ怖えんだよ。敵と戦うときはいつも膝も声も笑いそうだよ」

「じゃあ、なんで……」

「はじめは特務長さ」

 

 まさかここで特務長の名前が上がるとは思っておらず、俺は驚いてしまった。

 

「逃げて逃げて、仲間からも見放されて、それからも逃げようとしたとき。あの人が声を掛けてくれた」

「それで、どうなったんですか?」

「あの人が初めて俺の前に現れた時に聞かれたんだ、”何が一番怖い?”ってな。その時初めて、怖いものに順番を付けた」

 

 確かにPE能力者の欲求を消すことはできない、むしろPE能力者としてより成長することは自分の欲求も成長していく。彼からすれば、恐怖から逃げる気持ちが加速度的に高まってしまうことになる。

 だが、欲求との付き合い方を変えればある程度の対処はできる。ソニックの場合、それが恐怖に対する優先順位ということだった。

 

「何日も悩んださ、敵、痛み、死ぬこと、怪我、暗いところ、人が自分のせいで死ぬこと。A4の紙が埋まるほど書きだした」

「……沢山あったんですね」

 

 自分にとってマイナスなことを考え続け、書き続ける行為がどれほどつらいのか、経験したことが無くてもやりたいとは決して思えないだろう。

 

「いっぱいあった……でもな、結局紙に書き出したも怖いモノのどれもが一番じゃなかった」

「死ぬこともですか?」

 

 死という言葉は、人間が生きていくうえで決して逃れることのできない、人生の終わりを意味する。

 死を連想させるとして忌み数に数えられる4という数字、病院ではその数字の部屋を無くし、悪魔の数字と並べられるほどに根深く嫌悪されている。

 

 死を題材にした作品は数多く、死に対する恐怖を綴った造物は人間が誕生してから今日まで絶えることない、永遠のテーマだ。

 

 だからこそ、最初に彼が今日に順番を付けると聞いた時、死という言葉が最初に思い浮かんだ。

 

「死ぬことは確か3位だったかな」

「じゃあ2位は何だったんですか」

 

 そう聞くと、ソニックは少しふざけたように言った。

 

「女の子に嫌われることかな」

「……今、真面目な話でしたよね?」

 

 不満そうに言うと、ソニックは笑顔で謝罪する。

 

「分からないことが、一番怖かったんだ」

「分からないこと……ですか?」

 

 どうして分からないことが1番怖いのか、俺は分からずオウム返ししてしまう。

 

「強い敵が怖い、もしも負けて敵に何をされるのか分からないから怖い。死も確かに怖い、死んだ後どうなるのか分からないから怖い」

「未知への恐怖」

「正解だ、後輩君」

 

 ソニックは笑うと俺の頭を乱暴に撫でる。

 

「未知。分からない。だからどうしたらいいのかも分からない、思考できない頭は最後に逃げる。俺が一番恐怖を感じるのはそれだった」

 

 分からないから怖い。単純だがそこに到達する前にもっとわかりやすい対象を使い、それに恐怖していると錯覚させるのが人間の思考だ。

 未知に対して何かをすることはできない。だがそれが別のものに切り替えることで対策が出来る。だから人間は未知を既知に変え、分からないを分かるものに自己解釈していく。

 

 故に最も恐怖する対象は”未知”になる。常人にとってそうであるなら、PE能力者にとってはさらにその意味合いは顕著に表れる。

 

「でも、分からないことが一番怖いのって解決のしようがないと思うんですけど……」

「解決なんてできるわけないだろ? だからそのままさ」

「え?」

 

 ソニックはさも当たり前だという表情で答える。

 

「特務に入って最初の任務で俺は失敗した。敵が強くてな、すぐに逃げようとしたがダメだった。その後敵にボコられて捕まって、そん時は本当にどうなるんだろうって怖くてたまらなかった……」

 

 加速系のPE能力者であるソニックが逃げきれない相手となると、多分同じ系統のPE能力者なのだろう。

 しかし疑問が出てきてしまう、敵がヒーローを捕まえる必要がそもそもないのだ。敵が暴れる時は大抵が金銭か喧嘩か報復、もしくはただの憂さ晴らしのどれかだ。

 

 しかもソニックが特務としての活動し始めの時となると、個人的な報復でもない。

 となるとただヒーローを狙った報復か、それとも別の目的があったのかもしれない。

 

 そう思いソニックに敵の目的を聞くが、首を振って否定された。

 

「分からない。ただ、もうダメだってなったときに当時配属されたチームが助けてくれたんだ」

 

 忘れかけていたが、特務は基本チームで動く。つまり、自分も部下を持った時同じことが起きるのかもしれない。

 

「そんとき言われたよ、お前が敵に捕まれば仲間が助けに来る。お前が逃げれば何かよくないことが起きる。お前が立ち向かえば仲間が付いてくる。ってな。それから俺は怖くても敵から逃げることを止めた」

 

 ソニックの語ったそれはただの言葉遊びでしかない一種の自己暗示とも言えた。無理矢理でもなんでも、結果としてソニックの中の敵に対する未知が消えた。

 残ったのは自分が立ち向かわなかったときの未知。

 

「仲間が戦うとき、俺が行かなかったらどうなるんだろう。無事なのかもしれないし、危険な状態なのかもしれない、わからなかった」

「だからソニックは増援とか、他のチームと協力してるんですか?」

 

 特務においてヒーローは一様に戦闘要員だが、その中でも役割を持つチームは多い。

 俺のチームはそう言った特別な役割はないが、ソニックのチームは基本単独動くことはない。機動力と汎用能力の高いメンバーがほとんどで、大抵が他チームとの連携ないし即応の増援としての役割を担っていた。

 

「そうさ、今回のお前みたいに。助けを求められたとき、現場では何が起きているのか分からない。俺が敵と戦いどうなっても仲間が助けてくれる、だが今助けを求めてるやつはどうなる? 分からない俺は、だから助けに行く。それが特務で見つけた俺なりの欲求との付き合い方だ」

 

 ただの言い訳、無理矢理なこじつけ、だが何ら解決しない問題をそのままにソニックは問題を利用して見せた。

 消せないなら使うしかない、使うなら使いこなすしかない。俺とは全く違うやり方で、ソニックは結果を残してきた。

 

「こんなんでもPE能力者として俺は先輩だ。言うだけでも楽になることはある……だから聞かせてくれ、お前の話を」

 

 そこまで言われた俺に、先輩の頼もしさを断る理由はなかった。




というわけで1章の終了となります。
次話はキャラ紹介話を投稿の予定です!

2章ではシルヴィア&パイモン出てきます!(メインにしたいけど、どうなるんだろう)
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