仮面ライダーディケイド2 -World of 01- 作:らいしん
これまでの、仮面ライダーディケイドは。
「時空が作り替えられていく……」
「新しい旅が始められそうだ」
オーロラを抜けた先は、また違う世界だった。
脳裏に焼き付く、崩壊していくジオウの世界。融合していく世界の中で見た景色はどこか懐かしくも感じた。
平成ライダーの歴史はジオウの世界ごとなくなってしまったのか。違う。新しく作り変えられたのだ。良い方向に導けたかどうかは分からないが、永遠に平成が続きライダーの歴史が終わるという最悪のパターンは避けられた。
「次はあいつも、もっと上手くやるだろ」
門矢士は呟く。
常磐ソウゴの忠臣のあの男。なんとなく雰囲気から、あの鳴滝と似たような存在だということは分かった。新たな世界でも彼は変わらず常磐ソウゴを監視――見守り続けるだろう。
「それはそうと、ここはどこだ?」
彼は光写真館に戻ることなく、一人で新たな世界に来てしまっていた。しかし、もう新たな世界に来ても服装は変化しない。破壊者ではない彼を、世界は拒絶しない。
手元にはカメラとネオディケイドライバーくらいしかない。ケータッチは写真館に置きっぱなしだ。多分、今後使うことはないだろうから問題ないはずだ。
18のライダークレストが並ぶドライバーを見つめる。今までに巡った世界がそこに刻まれていた。そして今始まる新たな世界、新たな旅。
「……よし」
士はカメラのレンズカバーを取り外した。
いつも通り士は景色にレンズを向ける。新たな世界への挨拶の意を込め、一方的に世界を切り取る。
どの世界でも変わらないものはある。花は美しいものだし、空は広く高く遠いものだ。
風景を一通り撮影した後は人の多い街に出る。一見おかしな様子のない世界でも、前提・常識が違えばどこかに違和感があるもの。彼があちこちを撮影するのは新たな世界のことを知るためでもあるのだ。
「……ん?」
士は、レンズ越しの人の顔に見慣れないものがあるのに気がついた。
「なんだ? この耳についてるの」
顔を上げ、肉眼でそれを見る。変わったデザインのヘッドホンだろうか。道ゆく営業マン、ビラ配り、街路樹を剪定する人。視界に映る中の何人かが、その変なヘッドホンをつけながら仕事をしているのだ。
ふと振り向くと、士の背後に大きな看板があった。そこに載っているモデルの女性の耳には同じヘッドホンがある。
「『人間の良きパートナー・ヒューマギア。行こう、人類の夢に向かって。
さっきのヘッドホン付きの労働者の隣には、それをつけていない人間が一緒に行動していた。
なるほど、ヒューマギアとはアレの総称か。士はすぐに察する。この世界はヒューマギアなるものが存在する。
そしてこの世界は――。
看板の右下、会社名の隣にイメージキャラクターのように映り込む、虫のような触覚を携えた黄色い姿。すぐ下に小さい文字で彼の名前が書かれている。
「ゼロワンの世界……ってとこか」
前編「オレはゼロワン 企業ライダー」
士は看板の中の赤い瞳を見つめる。
平成は終わった。ここに新たなライダーの世界ができていることがその証拠だ。では、この世界ですべきことは何か。彼は考える。
「すみません! こちらを向いていただけますか」
「ん?」
急に声をかけられ、思考が途切れた。振り返るとキャップを被った男性型ヒューマギアがいた。首にポラロイドカメラをかけており、士はそれに視線が奪われる。
同時にそのカメラを向けられた。返事をする暇も与えられず、士は思わず静止する。背筋を伸ばせ、顔を傾けるな、顔をすませ、腕を伸ばせと注文がつけられる。士は言われるがままに行動する。
「うん! この画……ピンと来ました!」
ヒューマギアはそんな窮屈そうな士の写真をパシャリと撮影した。
オッケーですとヒューマギアが言うと、士はぷはっと息を吐き出し膝に手をついた。
「なんだお前? 勝手に撮りやがって……」
「ご協力ありがとうございます。すぐに写真が出てきますからね〜」
「出てきますからねじゃない。ったく信じられないな、ヒューマギアってのはどうなってるんだ」
「申し遅れました。私、こういう者です」
「ん?」
名刺を渡され、士はそれを読み上げる。
「素敵な一枚を撮影します。カメラマンヒューマギア『
「はい。よろしくお願いします!」
ヒューマギアはキャップを取り、笑顔を見せて会釈した。よく見ると、彼の着るベストや肩にかけたバッグには夢玄の社名が入っている。
「こっちは別によろしくお願いされたくはない」
「そんなこと言わずに。ほら、こちらが今撮ったものですよ」
「ん?」
士はピントに渡された写真を見る。
「いかがですか。あなたの身長、胴と脚のバランス、そして写真内の顔の位置。私のアルゴリズムによって作られた素晴らしい写真です」
「ふうん」
どうやらさっきのは理論に基づいた上での撮影だったらしい。ヒューマギアである彼の技術は確からしいが、肝心の中身が証明写真のようで全く面白みがなくつまらない。
「俺に言わせりゃ、この写真は死んでいる」
「えっ。それはどういうことですか」
士は再び自分のカメラを構えた。
「これは俺の持論だが、写真は今までのデータをもとに作るものじゃない。一枚一枚、誰も見たことがない新たな顔を見つけていくところに良さがある。過去の写真がどう評価されたかなんて関係ない。お前もカメラマンなら自分が今思う最高を切り取れ。それが写真だ」
「自分が……今……思う?」
「なにかあるだろ、心に来るものが」
「心ですか」
今度はピントがその場で静止した。思考中、じっと一点を見つめる。その目は焦点が合っていない。
「……大丈夫か?」
士は彼の顔を覗き込む。
「ピント!」
その時、一組の若い男女が現れた。男の方は黒いスーツ姿。女の方は白と緑の見慣れない服装。よく見れば女はヒューマギアだ。
ピントは男女の方を振り返る。二人を目視した瞬間、パッと明るい表情に戻った。
「アルトさん。どうしました? 仕事が入りましたか」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。見かけたから声かけちゃった。で、調子どう?」
「はい。今この方にモデルになっていただき写真撮影をしたところです」
ピントは二人に先程の写真を見せた。
「お〜いいね」
「はい。素晴らしい出来です」
士が酷評した写真だが、二人の目にはよく見えている。現に撮影技術は良いのだから、素人目に見ればよくできた写真に見えるのも頷ける。
アルトと呼ばれた男は士の方を見て、深々とお辞儀をした。
「ピントのモデル協力、ありがとうございます」
「一方的に協力させられた、が正しいがな」
「えっ、そうなんですか!? ダメじゃないかピント、勝手に写真撮っちゃあ〜!」
アルトはピントを叱りつけるように手を掲げる。その動作がいかにも芝居っぽく感じる。それも、下手くそな部類の。その大根芝居の理由はすぐに分かった。
「了解得てから〜……写真撮りょーかい! はいッッッ!! アルトじゃ〜ないと!!」
辺りに沈黙が生まれる。
アルトはキメ顔で、士に向かって指をさしたまま動かない。士もピントも、そして彼らの近くの通行人さえも、その沈黙を破ろうとしない。
「笑わないのですね」
最初に口を開いたのはアルトの連れの、女のヒューマギアだった。
「は?」
「今のギャグです。もしかして笑いどころが分からなかったのでしょうか。今のは言葉の『了解』と、呼びかけの『撮ろうかい』をかけたギャグなのです。ちなみに正しくは『了承を得る』ですね」
「イズ! わざわざ解説をするのはやめて! 俺のギャグが台無しになるううううう!」
アルトは雄叫びをあげて悶え苦しむ。
「悪いな。意味が分かった上でこのリアクションなんだ」
「うぐっ……結構ズバッと言っちゃうんですね」
士の鋭い言葉に、彼は胸を押さえる。
「ところで、お前らは何者なんだ? あいつ……撮増ピントの知り合いなのか」
アルトが床をのたうち回る間にイズと軽く交信をしたピントは、新たな良い画を求めてその場を去っていた。士はそんな彼を眺めながら質問する。
「ああ、すみません。自己紹介が遅れましたね。俺は夢玄アルトです」
「ああ、むげん……夢玄?」
アルトもまた、士に名刺を渡す。士はそれをさっさと懐にしまう。
夢玄の苗字には覚えがあった。ついさっき、どこかで。
「あ、はい。俺は――」
「アルト様は夢玄インテリジェンス次期社長です。祖父である社長から認められるために、時には営業、時には事務、時には開発に携わっておられます」
「……なんです。ちなみに彼女は――」
「私は秘書のイズと申します。ヒューマギアです」
イズは耳のモジュールを見せる。薄い青の光を放つそれは、ピポッと軽い音を奏でた。
「……なんですよ!」
セリフを取られてばかりのアルトだったが、それほどできる秘書であるイズが誇らしいのか終始笑顔だった。
二人の後に士も同様に名乗る。
「門矢士だ」
「士さんもピントと同じカメラマンなんですね」
「そうだ。それより、昼間から次期社長がこんなところを歩いていていいのか?」
士はアルトにレンズを向けて質問する。彼はノリが良く、ピースサインで撮影を受け入れた。
「俺たちは会社に帰るとこなんで」
「どこかに行ってたのか?」
「はい。『まごころ寿司』で長期契約中のヒューマギアに、おかしなところがあると連絡があったのです」
アルトの撮影にイズが加わる。ヒューマギアは見た目は人間そっくりにできているが、やはり人工物。レンズ越しのその顔はどこか不自然な気がした。
「そいつニギローっていうんですけど、なんでも握り方が急に変わったらしくて。でも俺、さっきニギローの握ったお寿司を食べてみたけど、何が変わったか分からなかったです。前に食べた時と同じで美味かったぁ」
「彼に不具合は見当たりませんでした。大将からも『問題ないならばむしろこっちの方いい』とのことでしたので、引き続きニギローにはまごころ寿司で働いてもらっています」
「確か……寿司への向き合い方が分かるようになったんだとか。たまにあるんですよね〜、ヒューマギアの異常報告。いや、どれも不具合はないんですよ? むしろ契約者さんからは好評なんです。これ一体なんなんだろうな〜」
「……なるほどな」
「あ、撮影終わりですか?」
士はカメラから視線を正面に戻す。
ヒューマギアになにか問題が起きている。この世界でやるべきことはその解決なのだろうか。
「……! アルト様!」
「え、来たのか!?」
「?」
突然イズがアルトの方を向き、何かを伝える。アルトは彼女の反応だけで言いたいことを理解したようだ。もちろん士には何のことやらさっぱりだ。
「キャァァァアアアアアッ!」
その時、悲鳴が聞こえた。
「なんだ!?」
士は悲鳴の聞こえた方をバッと見る。
「声の位置は8時の方角です」
「優秀だな」
イズの報告を聞き、士は走り出す。アルトとイズも彼についていく。
現場に到着するとベローサマギアが暴走していた。耳のモジュールはイズ達とは違い、赤く不気味に発光している。
「おい、あれもヒューマギアか? 人を襲ってるぞ!」
「やめろー!」
士の質問に答えることなく、アルトはベローサマギアに突進していく。そして後ろから抱きつき、襲おうとしている人から引き離す。
「もう人を襲うのはやめてくれ! ぐわっ!」
「アークの意志のままに……!」
ベローサはぐるぐるとその場で回り、遠心力でアルトを剥がす。そして彼の腹に肘を入れた。アルトは腹を押さえ、エビのような姿勢になりながらおぼつかない足取りで後ずさる。
「アルト様!」
「あいつ、生身で突っ込みやがって……」
ネオディケイドライバーを取り出し腹に押しつける。ベルト帯が彼の腰を一周して体に巻きついた。ハンドルを両側に引き、ライドブッカーから引き出したカードを装填する。
「変身!」
《カメンライド ディケイド》
複数の半透明の像が士と重なるように一つになり、仮面ライダーディケイドに変身する。
「アークの意志のままに」
ベローサは倒れたアルトに向かって歩いてくる。自身の鎌状の武器、トガマーダーの刃をキラリと光らせる。アルトは逃げるのではなく、それを見つめるだけだった。
《アタックライド ブラスト》
突如ベローサから火花が散った。
「え!?」
「ほら、こっちだ!」
ベローサマギアのターゲットが、アルトからディケイドに変わる。
「はっ!」
素早く近づいてきたベローサを、武器を使わずキックで翻弄。一瞬ふらついたが、そこはやはり機械。背を異常に反り、無茶苦茶な姿勢をとりながら体制を立て直す。
「ほう。面白いやつだな」
「アークの意志のままに!!」
ベローサは武器を掲げ、勢いよくディケイドに振り下ろした。
ディケイドは敵の鎌をライドブッカーで受け止め、そのままソードモードへと変化させる。
《ファイナル アタックライド》
「はあっ!!」
「ア、アア、アークの……意志のままま……に……」
ゼロ距離で繰り出されるディメンションスラッシュ。ベローサマギアはその場に倒れ、爆発した。
ディケイドは変身を解除し、地面に座ったままのアルトに手を差し出す。
「大丈夫か」
「は、はい。ありがとうございます……」
「アルト様、暴走したヒューマギアに近づく際にはドライバーをお使いください。制御が解かれたヒューマギアの攻撃を受ければ、人間の体では怪我で済みません」
近づいてきたイズがアルトにタブレットを見せた。そこに映されているのはゼロワンドライバー。
それを見た士は驚き、アルトを見る目を変えた。
「お前……あの広告のライダーだったのか」
「はい。Vライダーゼロワンやってます」
アルトはそう言って、両手をクロスさせて前に突き出しポーズを決める。
イズはタブレット上に指を滑らせ、次の画像を表示する。ゼロワンが、アルトと同じポーズで立っている写真だ。
「Vライダー? この世界では仮面ライダーはそう呼ばれてるのか?」
「バーチャルライダー。自身の姿を電波に乗せ、インターネット上――主に動画サイトなどで活動する仮面ライダーのことです。修行中のアルト様は広告宣伝までも自らの手で行っておられます。ゼロワンは夢玄インテリジェンスの記号として人々にひっそりと知られているのです」
「ひっそりとじゃダメだと思うがな」
イズもアルトと同じポーズを取って解説した。
「それよりだ。ヒューマギアが暴れてたぞ。ライダーだってのに、戦わないのか? ベルトも持ち歩いてないようだが」
士の質問に、アルトは苦笑いを浮かべながらポーズを崩す。そして俯き、弱々しく呟くようにこう言った。
「戦うのは……ちょっと。変身したら力もすごく上がりますし、そもそもゼロワンは不具合が起きたヒューマギアを止めるために作られたと聞いています。でも、力があっても戦いたくないんですよね。そりゃもちろん
アルトはまだ若い。そして戦うためにライダーになったわけではなさそうだ。今まで出会ったライダーたちの決心が強いだけで、一般人にとっては戦いは辛く、この反応が普通なのかもしれない。
士は顎に手をやり、こう言った。
「現実に出てこない二次元のライダーか。……これじゃあ仮面ライダーじゃなくて
その場に二度目の沈黙が流れる。
「今のはもしや『仮面ライダー』と『画面』をかけた――」
「イズッ!」
アルトは間髪入れずイズを制止した。
*
一行は夢玄インテリジェンスに向かった。
先程起こったヒューマギアの暴走事件。それこそが、この世界で起こっている本当の問題だったのだ。ヒューマギアのことを知るため、そしてゼロワンドライバーを回収するために夢玄のビルにやってきたのだ。
「謎のコンピュータウイルスだと?」
「はい。その名も『アーク』。目の前で暴走を始めたヒューマギアが口を揃えて言う名前です」
「そういやさっきのカマキリみたいなやつも言っていたな。それ以外に情報は?」
「……残念ながら、特に」
彼らはアルトの部屋に向かって歩く。途中、巨大な機械の隣を通った。強化ガラスが張られた部屋の中、機械は何かを作成していた。
「こういう設備はさすが大企業だな」
「あれはゼアです。うちで一番すごいマシン。二、三日前からずっと何か作ってるんですよね。設計図入れた覚えもないのに」
「それに関して、警備のマモルから情報が入っております」
イズは再びタブレット端末を取り出す。士たちは歩きながらそれを見た。
そこに防犯カメラの映像が映し出された。夜遅くになり電気が消えた頃、人影が現れた。
「何だこの人は」
「……!」
それは鳴滝だった。ガラスに手をつき、ゼアに何か命令しているように見える。彼が使うオーロラが画面端にチラリと映った。
「んー……どこから入ったんだ? 他のカメラには映ってないのに」
アルトは映像を見て不思議そうに首を傾げる。
建物への侵入は、自由自在に移動ができる彼にとっては容易い。だが士はそれを黙っていた。侵入者の知り合いだとバレれば追い出されかねない。せっかく得た協力者を手放すことはしたくなかった。
「そ、それにしても綺麗な映像だな」
話題の転換を兼ね、士は映像を見て感想を述べる。端末を流れる映像はまるで映画のようなクオリティだった。
「はい。うちは元々防犯カメラを作る会社だったんですよ。50年くらい前、祖父が夢玄インテリジェンスの前身の夢玄製作所を立ち上げたんです。『人々に平和な暮らしと自由を』って感じのキャッチコピーで」
角を曲がると、道の片側に今までのヒューマギアのガワが並んでいた。その奥の部屋がアルトの部屋だ。
アルトは通路の横のマギアたちを指差しながら夢玄の歴史を説明する。
「ヒューマギア事業を始めたのは20年くらい前ですね。初代ヒューマギアのコンセプトは人型防犯カメラです。ただ壁についているだけのカメラよりも親しみやすさをアップ、不審者目線では人がいるように見えるのでカカシのような役割を。『人々の笑顔を守る』みたいな。当時CM出たんですよ、俺」
部屋に入った彼は、デスクの上のリモコンを操作する。壁にモニターが現れ、そこに今彼が言ったコマーシャル映像が流れた。
中央に三人の警備員型ヒューマギア、そして周りに子供たち。向かって右のヒューマギアの、すぐ隣にいるのがアルトだった。
「ヒューマギアの歴史は意外と長いんだな」
「そうですね〜。何度かシステムを一新する世代交代は起こってますけど、ヒューマギアとして見るとさっき言ったように20年ほど経ってます。でも、暴走を始めたのはここ最近のことなんですよね。場合によっては、アークのハッキング対策をした五世代目を考える必要がありそうです」
アルトによると、アーク事件が始まってから日が経っていないらしい。それだけに情報が足りず、苦しい状況にあるのだろう。
「ヒューマギアにも安全を保証してやりたいんですよ。みんないい笑顔でいい仕事をしてくれる。それは20年前から変わりません。俺と一緒にコマーシャル撮ったヒューマギアたちも、いい笑顔でした」
「笑顔か……」
「第一世代のヒューマギアは口を開閉するだけで、頬骨など表情を作る機能は備わっていない。コストと技術の関係でな。だが工夫として子どもが見上げた時は優しい表情に、大人が見下げた時は厳しい表情になるような顔のデザインになっている。次期社長なのにそんなことも知らないのか」
士らの後に部屋に入ってきた人物がいる。
「やっと帰ってきたところ悪いがな、アルト。お前の夢の話に付き合ってる暇はない。うちも困ってるんだ。ウイルスが入り込めるのはヒューマギアだけじゃないからな」
「夢じゃねーし」
現れた男は全身を白と金を基調とした服で身を包んでいた。彼は出入り口の近くのソファに腰を下ろし、一息つく。
「誰だお前」
「ザイア社の
アルトが彼の代わりに説明する。
「俺と同じバーチャルライダーで、配信ではうちとコラボすることもちょいちょい。……てか勝手に来てるけどアポ取ったか、ガイ?」
「当然だ。こっちはお前が帰社するまで待っていたんだぞ。それより問題はアークだ。また出たんだってな。早く対策を打たないと、取り返しのつかないことになりかねん」
「そうだな。まだ起こってないけど、ハッキングされたヒューマギアが死亡事故を起こしたりしたら……」
「夢玄に出資した
「そっちが本音かよォォオオ!!」
アルトはまたわざとらしくずっこけた。
「真面目な話に戻すが、俺たちは協力してアークの正体を突き止めなくてはならない。今はウイルスということにしているが、アークによる暴走には疑問がある。一体を起点として広がっていくわけでもなく、ランダムに、何の関係もない製品が急に感染する。不思議だろう?」
「確かに……! え、てことは感染方法は意外とアナログ!? 誰かが通り魔的に一体ずつコツコツばら撒いてる……ってこと!?」
「分からない。ただこれまでの傾向を考えるにただのコンピュータウイルスとして考えるのはやめた方がいいかもしれないということだ。コンピュータウイルスに意思があるとは思えないが、奴らは暴走している割には辺りの建造物を破壊するわけでもなく、真っ直ぐに人間に向かうだろ」
士はソファに近づき、考察を話すガイを見下ろす。
「お前もライダーだったな」
「ああ。……! 興味が湧いたか!? 詳しいことはこれを見て貰えば分かる!」
「おっ……?」
ガイは嬉しそうに立ち上がり、士にタブレットを渡す。イズの夢玄製のものとは違う、彼の自社製のタブレットだ。流れてきたのは動画サイトのアーカイブだった。
『ザイアダイレクトをご覧の皆様、ご視聴いただきありがとうございます』
全身を金と銀に染めた派手なライダーが、真っ白い背景の前でこちらに話しかけている。刺々しい攻撃的な見た目のライダーが落ち着いて喋っているというだけでなんとも言えないシュールさを醸し出す。
『ザイアエンタープライズ公式バーチャルライダー・サウザーです。本日は、弊社の商品の最新情報をお届けします。まずはこちらを、ご覧くだ』
士は容赦無くタブレットの電源を切った。
「なぜ消す!? 始まったばかりじゃないか!」
「いい。バーチャルライダーとやらのことはだいたい分かった」
「サウザーのことは分かってないだろ!?」
「今ので分かった」
「嘘つけッ!! ちゃんと見れば絶対ハマる! 登録者数も同接も夢玄の
「ぐはっ!!」
「アルト様!」
アルトに思わぬダメージが入る。
「これはメインチャンネルの『サウザー課』だ。他にも公式切り抜きチャンネル『さうざーの小屋』もある! そっちでいいから見てくれ!」
「悪い、また今度な」
ガイはなんとか興味を持ってもらおうとしていたが、士は聞く耳を持たなかった。
「なあガイ、その動画って他の企業のパロディして怒られたやつ?」
「怒られてない! ……どうもネットのデマは絶えることを知らん。今でもアーカイブが消されてないのが証拠だろう」
「そっか。言われてみればそうだな。ごめん」
ガイが宣伝を諦めてタブレットを片付けたのを確認すると、士は再び彼に質問する。さっき聞きたかったことだが、ガイが盛り上がりすぎたので聞くに聞けなかったのだ。
「お前のライダー……サウザーだったか。暴走したヒューマギアを止める力はあるのか?」
「愚問だな。うちはどんな衝撃にも耐える電化製品を扱っているんだ。むしろ夢玄のシステム以上の強さで、暴走したヒューマギアも楽に破壊できる」
得意げなガイ。それを聞いてアルトは悲しそうな表情を浮かべた。しかし、士含めその場の誰もがそれに気づかなかった。
「お前はヒューマギアを倒すのに躊躇がないのか」
「ヒューマギアに出資した企業として、責任を取らなくてはな。ザイアと夢玄は数年前に衛星・デザイアを打ち上げた時から関わりがある。ヒューマギアも二社で開発したようなものだ」
「その衛星って、今は主にザイアの製品の通信に使ってんだろ。結構儲かってるらしいな」
「ふっ、まあな。特にザイアスペック2.0の売れ行きは好調だ。人間の能力を限界まで引き出すのをやめ、無理しすぎないようにと身体のケアの方向に舵を切ったのが時代にマッチした。ストレスレベルの管理及びデータ処理は全部衛星のAIがやってくれる。ちなみに、これは俺のアイデアだ」
「すごいよなあガイは」
「はっはっは。いいぞ、もっと褒めろ」
「!」
突然イズのモジュールがピコンと音を立て、彼女はビクンと体を震わす。そして一同に向かって大声で伝える。
「アークによる暴走ヒューマギアが!」
「今日二体目!? こんなにスパンが短いこと今までなかったのに!」
「行くぞ!」
士とアルトは急いで出て行く。イズもそれの後を追う。そして部屋にはガイ一人が取り残された。
ガイもアルト同様、ドライバーを常に持ち歩いているわけではない。特に今回はアークの対策を練りに来ただけだったためドライバーは会社に置いたままだった。
「また待たされることになるのか……」
ガイは呟き、誰もいない部屋でソファに再度どかっと座り、目を閉じた。
「やあ。君は行かないんだね?」
軽い口調で声をかけられた。
目を開けると、明るい髪色の男がそこに立っていた。扉から入った様子はなく、どこから来たのかも分からない。どうやら夢玄の社員ではなさそうだ。
「なんだ? 誰だ、お前は」
「僕はしがない怪盗さ。
「お宝?」
「そう。世界に散らばる素晴らしいお宝、僕はそれを探しているのさ。心当たりはないかな」
「ない。というか知らない。俺もここの社員じゃないのでな」
「そうかい。僕はとりあえず他の部屋を探すとするよ。じゃあね」
男は、今度は徒歩で出入り口から出て行った。
「全く……夢玄のセキュリティはどうなっているんだ」
ガイは頭をかいた。
*
士は先に現場に着いた。
幸い、まだ被害者は出ていない。何人かは怪我をしているようだが。無事な人々は、夢玄のヒューマギアが暴走したぞと叫びながら各々逃げたり隠れたりしている。
今回のヒューマギアはオニコマギアに変わっていた。背中から突き出した翼が印象的である。
士はディケイドに変身し、オニコマギアにパンチする。オニコは床を転がり、体制を立て直しディケイドを睨みつける。
「コウモリ相手なら、こっちもコウモリだ」
《カメンライド キバ》
「アークの意志のままに」
「またそれか」
オニコは両手をぐわっと広げ、ディケイドキバに迫ってくる。爪の鋭さを見ると、その攻撃力が想像できる。
《フォームライド キバ ガルル》
「はっ!」
狼の遠吠えと共にガルルフォームにフォームチェンジ。ガルルセイバーを使ってオニコの爪を受け止める。そして獣のように荒々しく、敵ごと剣を振り回し、オニコマギアを吹っ飛ばした。
そして追撃しようと走っていくと、オニコは空中で静止する。翼は飾りではないのだ。
ディケイドキバはそれを見てすぐに別のカードを取り出す。
《フォームライド キバ バッシャー》
今度は遠距離攻撃特化のバッシャーフォームに。オニコマギアに休憩の隙を作らせず、ダメージを与える。
「アークの……意志のままに!」
オニコは逃げるのが無駄であることが分かると、ディケイドキバに向かって両翼から刃を発射した。何発かは撃ち落とされたが、殆どがディケイドキバに命中した。
「な!? ぐわああああああああっ!!」
ディケイドはキバのカメンライドが解けてしまう。そして丁度そこにアルトとイズが追いついた。
「大丈夫ですか!?」
「あのコウモリ野郎、なかなかしぶとい」
「あれはコウモリではなくオニコニクテリスという絶滅動物です」
「だったらさっさと成仏しやがれ!」
《フォームライド ゴースト ビリーザキッド》
《百発 百中 ズキューン! バキューン!》
ディケイドは直接、ゴーストビリーザキッド魂に変身した。今度は二丁拳銃でオニコマギアに対抗する。
空中で弾がぶつかり合い、小さな爆発がどんどん大きくなっていく。そしてディケイドゴーストの攻撃がオニコに届いた。胸パーツから火花を散らしながら地面に落ちる。
「よし! やったぞ!」
誰かが叫んだ。
アルトが驚き、隣を見る。先ほどまで隠れていた人々が必死に瓦礫をどけている。それだけでなく、逃げていた人も戻ってきていた。その中にはもちろんヒューマギアもいる。
ディケイドと戦う決定をしたオニコは、それ以上他の人を襲うことはない。その隙に救助をするため、皆集まってきたのだ。
ヒューマギアも人間も、お互いの職業すら関係なく、救助活動を行なっている。アルトはそれが嬉しくなった。
「オラオラオラオラァ!」
ディケイドゴーストはオニコに銃を連射する。
ふと、オニコの赤いモジュールがピコンと音を立てた。
「なんだ!?」
「アークの……意志のままにィィイイッ!!」
急にオニコマギアは断末魔を上げ、爆発した。しぶとさの割には、あまりにあっさりとした最期だった。
ディケイドゴーストもアルトもキョトンとしていると、爆炎の中から触手が飛び出した。
「なにっ!?」
触手はとんでもないスピードで救助活動をするヒューマギアの方に伸びていく。避ける間もなく触手は突き刺さった。
「うっ!」
ヒューマギアは苦しみだし、耳の青いモジュールが次第に赤く染まっていく。そしてそのヒューマギアからさらに触手が伸び、隣のヒューマギアに接続する。
「う……あ……あ……アークの意志のまま……に……」
「……ザ……アークの……意志のままに……」
次々にトリロバイトマギアに変わっていくヒューマギアたち。そしてそれらはすぐ近くにいる人間を襲いだした。
「コンピュータウイルスの感染が始まったのか!?」
「やめるんだみんな! ヒューマギアは人間を襲うために生まれたんじゃない!」
アルトはトリロバイトマギアに近づき、腕を掴む。マギアの動きが一瞬鈍り、襲われている人を逃すことに成功した。だが、今度はアルトが腹を殴られ、地面に蹴飛ばされる。
「アルト! うだうだ言ってる暇はない! 変身してこいつらと戦え!」
ディケイドは触手を斬るが、斬ったそばから更に伸びていく。元のマギアを潰そうにも、既に湧いたマギアがそれを阻む。
「うううう……!」
「アルト様!」
イズは、苦しみながら立ち上がるアルトにドライバーを巻いた。そしてプログライズキーを渡す。
「キーの起動は済んでおります」
「くそ……。これしか……ないのか!」
アルトはそれを受け取り、ドライバーにかざした。
《オーソライズ》
「変身っ!」
《プログライズ!》
《トビアガライズ! ライジングホッパー!》
《A jump to the sky turns to a riderkick.》
「やめるんだ!」
ゼロワンに変身したが、やはりマギアを殴ったりはしない。とにかく彼らの体を掴んで動きを止め、人を逃すことだけに専念する。
「一体ずつしか増えないのが不幸中の幸いか。だが、これじゃ埒があかないぞ……!」
ディケイドはゼロワンと対照的に、容赦なくトリロバイトマギアをライドブッカーで斬り捨てていく。しかし、感染のスピードも速い。ゼロワンも一緒に戦えばなんとか収束するだろうが、あの調子では無理だ。
「!」
ディケイドは視界の端に見覚えのあるヒューマギアを捉えた。
他のヒューマギアととともに逃げるその後ろ姿は、撮増ピントのものだった。
「あいつは……!」
ライドブッカーをガンモードに変形させるが、間に合わない。周りのトリロバイトが狙いを定める邪魔をする。伸びた触手が、撮増ピントの背に突き刺さった。
「ぐあああああッ……!!」
足を止めるピント。彼の耳のモジュールがギュルギュルと激しい音を立てた。
次回 仮面ライダーディケイド2 -World of 01-
「人間の歴史は終わり、新たな歴史が始まるのです」
「アルト様!」
「お前の世界に足りないものがある!」
「アルト!!」
「自分で考え、判断することができる!」
「お前を止められるのはただ一人……俺だ!」
後編「カレらが始める新時代」
全てを破壊し、全てを繋げ!