ごくありふれた正義の味方   作:taiken

1 / 35
もしもありふれ世界に士郎が居たらどうなるか、という思考実験です。
キャラの人間関係も結構変わってきそうだよなぁと想像して書いてみます。


ありふれた高校 初日

 

 士郎は自分の教室を目指して迷わず進んだ。

 

 士郎が今日から通う学校は、偏差値はそこそこだが、国公立大学への進学実績もある、多くの学生にとっては青春の中の通過点となる、ありふれた進学校だ。

 ここでの経験を糧とし、自分の夢、弁護士や検事への道に向かって勉学に励むのだ、と士郎は意気込んでいた。

 

 そして、教室に入る。

 

 教師が入ってくるまでの間、教室の席に座る。初日ということもあり士郎は相当早く来たのだが、教室の左側の最前列、つまり士郎の前の席には既に先客がいた。

 

(……凄いやつがいたもんだ……)

 彼の後ろ姿を見て、士郎はそんな直感を抱いた。それは座っていても全くぶれない彼の姿勢を見てのものだった。

 体幹がしっかりしているのだろう。士郎も心身を鍛えるために武術を修行中の身だが、ここまで体得しているとは言えなかった。

 どの世界にも、上には上が居るものである。

 

「おはよう。早い登校だな。」

 先客に対して、士郎は後ろから声をかける。先客は振り向くと、笑顔で挨拶を返してくれた。 

 

「…ああ、おはよう。俺は天之川光輝。これからよろしく。君も随分と早めに来たんだな?」

「ああ。入学式ってことでちょっと浮かれちまった。俺は衛宮士郎。こちらこそよろしく、天之河。」

 

「士郎か。いい名前だな。」

「ほんとか?何でさ?」

 そう言われたのは初めてだったので、士郎は面白がって聞き返す。まだ教師どころか他の生徒の足音すら聞こえないので、自然と光輝との会話に興じることになった。

 

 

「何となく、響きが君らしい。武士みたいだろう?」

 

 女相手なら口説き文句だと思われるような言葉だが、光輝は本心からそう言っているのだろう。べつに冗談のつもりではないことは目を見れば分かった。

 

 

「その言葉、そっくり返すぞ、天之河。自分に自信が無きゃ言えないセリフだ。」

 

 自信に満ちた表情や言動から、士郎は光輝の実力を上方修正した。かなりの高いレベルで何かのスポーツを修めているだけではない。自信の原因はそれだけではない。

 恐らく光輝は、光輝という名前に負けないほど、高く、そして貴いことを何回も成し遂げたことがあるのだろう、と士郎は思った。士郎が武士みたい、というならば、光輝は外国の騎士のような、ちょっと周囲とは隔絶した雰囲気がある。

 

「いや、まだまだだよ。俺ももっと努力しなければとは思ってるけどね。それと士郎、俺のことは光輝でいい。」

 それから、互いに出身の中学や部活について自己紹介をし合った。予想通り光輝は剣道を嗜んでいたらしく、全国大会でも実績を残したらしい。それについて士郎が賞賛すると、

 

「いいや、本当に俺なんてまだまださ。次は勝って見せる!」

 と悔しさを滲ませて話した。どうやら、相当の負けず嫌いでもあるようだった。

(そりゃあそうだな……)

 何かに打ち込んでいる人間なら、勝てなかったからといってすぐ諦めたりはしない。敗北を糧として、さらに高みを目指す。天之川もそういう人種なのだろう。

 

 そうやって会話をしていると、周囲に生徒が増えてきた。その中に、光輝に話しかける声があった。

「よう光輝!もうダチが出来たのか?」

「龍太郎!遅いじゃないか。」

「ああ。白崎さんと八重樫さんもすぐ来るぜ。」

 

 光輝に声をかけたのは、180cmを超えた長身の少年だった。鍛えられた筋肉と快活そうな表情から、彼もまた相当の人物であることは分かる。

 

「話し込んでる途中に割り込んで悪いな。坂上龍太郎だ。光輝とはよくやってくれよ?」

 龍太郎はそう言うと手を差し伸べる。士郎もそれに対してしっかりと握り返した。

「衛宮士郎だ。こっちこそよろしくな、坂上。」

 坂上は強く握るが、士郎だって腕力には自信がある。クラス内の腕相撲対決なら、三年間勝ち越し続けたのだ。

 

「…お、衛宮。なんかスポーツやってたのか?」

「弓道をやってたらしい。」

 丁度さきほどその話題だったので、士郎より先に光輝が答える。

「へぇ、そりゃあすげぇ。高校でも弓道を?」

「そうだな。他にやりたい事も無いし、そのつもりだ。」

 士郎がそう返すと、坂上は残念そうに頷いた。

「そうか。俺は空手部だ。ま、もし他のことがやりたくなったら、空手部も視野に入れて見てくれよ。きっと楽しいぜ?」

 

 坂上も天之川も衛宮も、剣道に弓道に空手と、スポーツとしてはややマイナーに属する部ではある。

 しかし、このありふれた高校では進学校でありながら部活動でも力を入れている。実は彼ら三人はその部の中で期待される存在であるのだが、それが明らかになるのは少し先の話だった。

 

 そして担任が到着する少し前になり、クラスの全員が席についたと思われたとき、教室に駆けこむ音があった。

「……誰だ?廊下を走るなんて・。」

 

 そう言いながら天之川が振り向くのにつられて、士郎も後ろを振り向く。そこにいたのは、平凡な容姿をした、華奢な少年だった。

 

 初日から遅刻寸前となった少年の名は、南雲ハジメ。彼こそ、このクラスに波乱を巻き起こす存在だった。

 

 

 




ヒーローは遅れてやってくる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。