ごくありふれた正義の味方   作:taiken

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士郎くんって法学部志望だったけど成績は普通なんですよね……


ごくありふれた友達の家 その2

 

 色々あった四月も終わり、生徒たちが楽しみにしていたゴールデンウイークも、士郎たち運動部は休みなく活動して、はや五月。

 

 中間考査の日が迫ってきた。

 

 まだ一年一学期の中間考査とはいえ、自分自身の学力を確認するいい機会ではある。

 一応進学校の生徒である士郎、光輝、龍太郎、そして雫は、衛宮邸で勉強に励んでいた。テスト前ということもあり、光輝が他の四人を誘って衛宮邸でたむろしながら勉強しようということになったのだ。

 もっとも、香織からは用事があると断られてしまったのだが。

 

「ううむ。」

 

 政経の問題を解いていた士郎は唸る。授業はちゃんと聞いていたが、士郎の頭では現代日本の政治についての疑問がぐるぐると回って先に進まない。

 

 奴隷的拘束及び苦役からの自由ってほんとに機能してるのか?なら何でブラック企業がニュースになってるんだ?

 拷問・残虐な刑罰の基準ってどうやって決めたんだ?

 専守防衛と個別的自衛権の違いってなんだ?

 

 それらの基本的な疑問に、光輝は回答したが士郎は納得しなかった。

「結構不便だなぁ、日本の法制度って。」

「法制度は万能じゃない。万能じゃ無いから、都度追加されたり改正されたりするんだ。」

 

 

「士郎、そういうどうでもいい疑問は愛ちゃん先生に聞こうぜ。あの先生なら教えてくれるだろ。それより、数学の背理法を解こうぜ。」

「……そうだな。政経は次の授業で聞いてみるか。」

 龍太郎の言う通り、政経だけで勉強を止めるわけにもいかない。

 そうなった経緯はさておき、法律と関連する出来事を頭にしまいこむ。疑問の答えはまた今度だ。

 

 愛ちゃん先生とは、新任教師の畑山愛子先生である。小柄な体躯と童顔な事も相まって、生徒たちからは慕われつつも舐められているのだった。

 なお、彼女は士郎たちの担任ではない。

 

 

(将来のために必要なことなんだが……)

 士郎は、社会制度について知ればしるほどに、自分の中の倫理観とのズレを感じている。苦手に感じている原因も、実はそこにあった。

 

「計算じゃなくて証明問題が増えると時間が足りねぇよ、ったく、光輝と雫は余裕そうだな?」

 

「そう見えるのは、そう見せているだけかもしれないぞ?テストの結果がどうなるかは終わってみるまで分からない。」 

 

「まだテスト範囲も狭いしねー。普段からやってれば余裕よ余裕。」

 余裕の表情で自分の勉強に取り組んでいる雫と光輝を羨ましそうに見ながら、士郎と龍太郎は自分の苦手科目に取り組む。

 日頃の勉強量の差が表れた光景と言えた。

 

「たのもー!」

 

 すると、衛宮邸に若い女性の声が響き渡る。ご近所さんの迷惑を機にした様子もない。

 

「なんだ藤ねぇか。ちょっと待っててくれ。」

 

 

「おっと道場破りか?」

「いやそれは無いでしょ。ここ道場じゃないし。あの写真の人ね、きっと。」

 

「……藤ねぇ、というと。士郎のおねぇさんか。挨拶しておこう。」

 

 

 そうして現れたのは、士郎が藤姉だと言う藤村大河さんだった。

 

 断じてタイガーではない。

 

 顔立ち自体は整っているし、恐らくは雫たちより10歳は年上のはずだ。だが、身に纏った雰囲気にはどこか親しみやすいものがあった。

 

(この人は多分鈴の同類ね。)

 雫は第一印象でそう感じた。何と言うか、人懐っこいところがよく似ている。

(頼むから変態ではありませんように。)

 

 と心の中で雫は祈った。わりと切実な願いである。

 

「貴方たちが士郎のお友達!?うわー本当によく来てくれてありがとう!士郎がお世話になってます!改めまして藤村大河です!」

「おいよせ藤ねぇ。そこまでにしてくれ。」

 

 大河を止める士郎の姿は、姉に自分の交友関係を知られて気まずい弟のようでもあった。

 

 

「いやぁそんな。俺は天之川光輝と言います。士郎くんにはいつも楽しく遊んてもらってます。」

「学校での士郎ってどんな感じなの?ちゃんとみんなと話せてる?」

 

「そりゃもう。士郎くん、結構モテモテですよ?」

 光輝が冗談でそう言うと、大河もおほほと笑う。

 

 実際には、誰にでも優しい士郎は”いい奴”扱いである。女子の世界は厳しいのだ。

 

「それは良かった。そっちの大きな子が坂上くん?」

 

「押忍!俺は坂上龍太郎です!いつもお世話になってます!」

 その流れで、雫も深々と頭を下げる。

 

「八重樫雫です。私はまあ、衛宮くんとはそこそこです。」

 実際、深く会話したわけではない。今回も前回も、龍太郎や光輝の付き添いだ。

 

「ありがとう。ええと、南雲くんと香織ちゃん?だったかしら?は居ないの?」

「南雲くんはどうか知りませんが、香織は用事があったようで。」

「あら、残念。」

 

 

「良かったわね、友達に恵まれて。士郎、これ回覧。あと親戚からお野菜を頂いたからおすそ分け。早めに食べてね。」

「サンキュー藤ねぇ。おっ、キャベツと人参か。ロールキャベツにしようかな?」

 

 野菜を消費するメニューを考えながら、士郎は台所まで移動する。

 

「藤村さんは、衛宮くんのこと気に掛けていらっしゃるんですね。」

「そうねー。子供のころからかな?」

 雫の問いかけに、大河は曖昧に言葉を濁す。実際のところ、一言で言い表すのが難しい関係ではあった。

 

 からからと笑う大河に、雫は話を出すきっかけが見いだせない。

(どうしようかな。お礼が言いたいんだけどなー。昔過ぎて覚えてないわよね、流石に。)

 

 雫が大河のことを思い出したのはつい最近だ。

 

 それ以前に、今は隣に光輝も龍太郎もいる。お礼をするなら、一対一で言いたかった。

 

 

「あのう。俺たちはこの間、実はこの家の道場を見学させて頂きました。それで、貴方の竹刀も拝見しました。

 藤村さんも、剣道をしておられるんですか?」

「あのねぇ光輝。ちょっとは自重しなさいよ?藤村さんだって迷惑よ。」

 

 光輝は剣道オタクとして、同好の士には目がない。実際には、昔はやっていたけど今は全然、なんてこともありえるのだが。

「…ふふふ。中間テスト期間中に竹刀で遊ぼうという魂胆ね?」

 ギラりと、大河の目が光った。ような気がした。

 

「甘い甘い!試験で百点を取ってから出直してきなさい!青春は一度きり、テストは今しか出来ないのだ!」

「ぐっ。仰る通りです。失礼いたしました。」

 光輝は深々と頭を下げる。ついでに龍太郎も頭を下げた。

 

「すんません。光輝のやつ剣道になると……」

「いいのいいの。若い内はそうやって意気揚々と生きるべきよ。」

 そうやって話し込んでいると、お盆に和菓子とお茶を乗せた士郎がやってきた。雫の見たところお菓子は安物だが、茶葉はいいものを使っている。

 

「おーい。お茶淹れたから藤ねぇもあがってけよ。」

「いやいや、私はここらへんで。あとは若者たちでね。士郎、テスト前だからって徹夜とかしちゃ駄目だぞー。」

 

 がおー、と虎のような挙動をしながら、大河は去っていった。




天之川くんと八重樫さんに強化フラグが立ちました。
まぁそれだけで本編を乗り越えられるわけではないんですが。
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