光輝たちの通う高校も中間テストが終わり、五月も後は体育祭を残すだけになった。
普通この高校では体育祭にあまり力を入れない。参加できる生徒だけで朝練や自主練をしたのも、一年では光輝のクラスを除けば一クラスだけだった。そんな事情もあって、クラスのやる気は非常に低かった。ハジメなど、クラス練習に参加したことすらなかった。
とはいえ、やるからには勝ちたいと実行委員の遠藤に頼まれたので、光輝は自ら発破をかけてリレーの練習に精を出していた。
(俺も同意見だ、遠藤。)
全力で取り組んだ上で、勝ち負けを決めるべきなのだ。その結果が勝利ではなくても、得るものはある。そして、やるからには勝ちたい。そういうものだ。
「檜山。士郎。本番では仲良くやるんだぞ。大丈夫だ、二人なら出来る。」
バトンパスを繰り返しながら光輝はそう声をかける。
(……俺は?)
光輝は遠藤のことを忘れてそう言う。能力は低くないのだが、こういう場面ではいつも忘れられる、遠藤とはそういうクラスメートだった。
「心外だな光輝。別に俺達は仲が悪いわけじゃないぞ。良くなる仲がそもそも無いだけだ。」
士郎は温厚そうな顔をして煽り癖もある男だった。煽りに弱い檜山の性格もあり、二人が仲良くなる可能性はゼロに近いと言ってもいいだろう
「衛宮の奴が足引っ張らねぇ限り負けねぇよ。二組でやべーのは悟だけだろ?」
二組の悟という生徒は、陸上部のエースだった。運動能力では光輝にも引けを取らず、間違いなくこのリレーでもアンカーを務めるだろう。
遠藤はじゃれあう二人に挟まれて声も無い。現在クラスでは、士郎と檜山が煽り合うことが恒例行事となっていた。
(……まあいっか。天之川に丸投げしようっと。)
遠藤はそう思い、靴紐を結びなおした。
(困ったものだな、二人には。)
内心で苦笑しながらも、光輝の中で勝ちたいという思いは強くなっていた。
勝利は、多少の不満やストレスならば軽減できるのだ。ここで二人のストレスを発散させておこう。
その後も光輝たちは練習を重ね、確実にタイムは短くなっていた。
「……檜山が足に自信があるとは思わなかったな。」
「これでも俺は中学時代はエースだったんだぜ?」
「なら、何で辞めたんだ?」
そう士郎が聞くと、檜山は何も言わずにバトンを渡した。
朝練を終えて着替える中で、光輝は檜山に話しかけた。
「檜山、カッカさせて悪いな。士郎にはあれで悪気は無いんだ。許してやってくれ。」
光輝が遠藤から特に頼まれた仕事は、揉め事の仲裁とフォローだ。檜山でも、光輝の意見は無視できない。
「別に気にしてねーよ。タイム順だったんだから仕方ねぇだろ。」
今回、リレーの選出基準となったのはくじでも立候補でもなく、純粋なタイムによるものだ。意外なことに、檜山は中距離ならクラスで三番目に足が速かった。
性格と能力は比例しないってことね、と雫が呆れていた。
「……で、どうなんだよ実際。今回、俺らはリレーで勝てんのか?」
そう檜山が聞いてくる。光輝は他所のクラスの情報を聞いていた通り答えた。
「二組ばかりに気を取られるが、三組も難敵だ。あの組には陸上部が三人居るからな。」
熱心にクラス練習に取り組んでいるのは、二組だけだ。
しかし、リレーに限って言えば三組も警戒すべきだと、光輝の勘が告げていた。
そう言うと、檜山は軽く舌打ちする。
「めんどくせぇなぁ。手ぇ抜いて適当に終わらせてぇ。」
そう愚痴るので、光輝は考えていた言葉を投げかける。
「まぁそう言うな。リレーは最後の最後だし、香織たちもしっかり見てくれるぞ。」
(俺も檜山も、香織の眼中にはないだろうが。)
と続く言葉は胸の内にしまっておく。
五月になってから、光輝は髪型を変えたり、毎朝香織を口説いたりと積極的にアプローチを試みた。しかし、そのことごとくを軽く躱された。流石にそんな日が二週間も続けば、光輝だって脈が無いと自覚する。
「……っし。ならやってみるかぁ。」
しかし、屈伸運動を終えて教室に戻る檜山は、光輝よりも一途なのかもしれなかった。
原作檜山くんって南雲くん相手のあの言動でクラス内でそこそこ肯定されてるあたりクラス内ではそこそこ顔が広かったんでしょうね。
なお本作では咬ませ犬になってもらう。