ごくありふれた正義の味方   作:taiken

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どうしよう
白崎さんのことを考えていたらideal whiteが白崎さんの歌に聞こえてきた(違う)


ごくありふれた男の過去

 

(俺もまだまだだな……)

 

 香織がストーカーを止め、雫や清水と事態解決の打ち上げで喫茶店に行った帰り。

 士郎は、河川敷で物思いにふけっていた。

 

 香織を捕まえてからストーカーの証拠を提示し、ストーカーを止めるように説得はした。まだまだ未熟者の分際で、説教なんてこともした。

 

(そんなことをしても南雲はきっと喜ばない、白崎はそんなことをする女の子じゃない……どれも、俺の目から見た言葉でしかない。)

 

 その言葉だけで香織が説得出来た、なんて考えるほど、士郎は自惚れてはいない。

 

 決め手になったのは、怒りに震えた雫の言葉だったと士郎は思う。親友のことを心から思っている雫だったからこそ言えたことだ。

 

「本当に南雲くんのことが大切なら、自分の好きよりまずは相手のことをちょっとでも考えなさい!人を好きになれる癖に、なんでそんなことが分からないの!?」

 

 雫の言葉を聞いた時に、香織は心から反省したのだ。

 

 誰もが当たり前の幸せを享受できる時間。それを作れるように、士郎は正義の味方を目指している。士郎が法学部に進むことを決めたのも、法やルールによっを遵守することが、人々の幸福につながると信じたからだ。

 

 しかし、法による正義だけでは、人の心まで完全に救うことは出来ない。上から目線で正論を振りかざしただけで人が犯罪を止めるなら、世の中はもっと健全なのだ。

 

 そうではないからこそ人を律するために、道徳があり、倫理があり、常識がある。利害関係がある。

 

 だが、士郎は自分には道徳や倫理観が欠けていると思っている。自分のような人間が、それを完全に理解しているなどおこがましいと思っている。

 

 助かるべき人々を見捨てて、一人だけ生き残ってしまった自分にそれがあると思うなど、間違いだ。心の底から彼はそう思っている。

 

(女の子のことを本当に分かっているのは、女の子だけってことなのかな、切嗣。)

 

 かつて士郎は、『女の子に優しくしなさい。』と切嗣に言われたことがある。

 

 優しくする、というのにも色々ある。単に、弱さを許したり、柔らかく接したりすることが優しさではない。

 雫の言うように、相手のことを考えて動くことも優しさだし、真摯に接することだって、優しさだ。

 

(まだまだ修行が足りんなぁ。)

 

 そう思っている士郎は知らない。否、もう知りようが無かった。

 

 彼の養父、衛宮切嗣にとって、士郎がどんな存在であったかを。

 

 

 

 

 衛宮切嗣という男は、晩年を自虐と自嘲、そして希望の中で過ごした。

 

 切嗣の境遇は、客観的に見て筆舌に尽くしがたい苦難の連続だった。

 

 切嗣は、この世の中を形成する法の枠組みから外れ、世界の真実を追求するという崇高な使命を帯びた家に産まれた。しかし、彼の父の手で幼馴染が壊れ、幼馴染というたった一人の犠牲を許容できなかったことで、大勢が死んだ。

 

 切嗣は自嘲の中で、幼い心で悟った。自分が殺せなかったせいで、大勢の人が死んだのだと。

 

 その考えが、切嗣を過ちの中に引き込むことになる。

 

 身寄りを失った切嗣の親代わりとなった女性を殺すことで、切嗣は大勢の命を救った。それを見逃せば、無関係の大勢の人々が死ぬという理由で、女性と、もう助からなかった無関係の人々を殺した。

 

 殺すことでしか守れなかった。

 

 そうすることで、救えた命は確かにあった。

 

 しかし、少年の心には傷が残った。

 

 最愛の人を殺したという傷が。

 

 切嗣は自嘲の中でこう考えた。

(すべてが、自分に対する言い訳だった。)

 

 もう助からないであろう少数を犠牲にすることで、最大多数の最大幸福を確保する、というもっともらしい理屈。後付けで知ったそれに飛びつき、縋りつくことで、罪悪感から逃れようとしただけだと、切嗣は思った。

 

 そうして、切嗣は殺すことでしか人を守れない世界へと足を踏み入れていった。

 

 客観的に見れば、切嗣はその境遇にしては稀な善性を持っていた。彼に救われ、彼を慕う協力者も確かに存在した。しかし、それは切嗣の救いにはならなかった。

 

 殺人という手段は、人間が最も忌避すべき罪のひとつである。それを繰り返すことで人を救い、同時に自らが殺害する少数を見続けることで、切嗣の精神は限界を超えた。

 

 そして、恒久的な世界平和というありもしない希望に縋り、当然のように破滅した。

 

 殺害することでしか人を救えない人間に、恒久的な平和の実現など願えなかった。その手段を殺害によるものしか知らず、平和への過程を殺害以外で想像できない欠けた人間に、そんな願いを実現する能力など最初から無かった。

 

 人として守るべき全てを犠牲にし、もたらされたのは町を破壊する災厄。大勢の犠牲を出して、切嗣は死体となって生き残った。

 

 その絶望の中で出会った救いが、士郎という少年だった。

 

 たった一人しか、切嗣は助けることが出来なかった。だが、それで良かったのだ。 

 

 全てを失った士郎を引き取り、家族となった切嗣はあることに気付いた。

 

 士郎に、切嗣と同じ分野での才能があることに。

 

 ここで切嗣は、ある選択をした。士郎に、その才能について教えず、また、その代わりに勉強を進めた。子供にとっては退屈な道徳や倫理も、切嗣が出来なかったことをあえて教えた。

 

 

 自分が理解した気になって、間違い続けたことを。人として守るべき大切なことを。

 

 自分の二の舞にだけは、なって欲しくなかったから。

 

「いいかい士郎。頑張って得た力というものは、自分の為に使ってはいけないよ。誰かのために使いなさい。」

 自分は、自分の為に力を使いいすぎたから。

 

「いいかい士郎。女の子には優しくしなさい。」

 自分は、守るべき人達を犠牲にしてきたから。

 

 世の中の裏側で生きてきた切嗣は、そんな綺麗ごとが通用しない事を嫌というほどよく知っている。善人が絶望し、悪人が嗤う。だが、だからこそ、養子には正しい選択をして欲しいと願った。

 

 士郎の純粋で真っ白な瞳だけが、切嗣にとってのたった一つの希望だったのだ。

 

 

 養父として、士郎の幸福を願って、切嗣は言葉を尽くした。

 

 そして。

「士郎、僕はね。子供のころ、正義の味方になりたかったんだ。」

 切嗣はやっと、それを言うことが出来た。自分にそれを言う資格が無いと諦めていた、心の底からの言葉を。

 

 それに、士郎はしっかりと答えた。

「しょうがねぇなぁ。だったら俺がなってやるよ。切嗣がなれなかった、正義の味方に。」

 

 その瞳は、どこまでも澄んでいた。 

 

「……ああ。安心した……」

 

 そして、衛宮切嗣は息を引き取った。




この世界線の切嗣さんは士郎くんの幸せを願ってこういう選択をしました。
だから原作と進学先が違ったんですね。
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