ごくありふれた正義の味方   作:taiken

2 / 35
教師は犠牲になったのだ……
話の都合、その犠牲にな……


ごくありふれた高校生活

 入学式の日から、一週間が経った。

 

 新学期のこの時期は、どの生徒たちもクラス内で友人作りに奔走する。この時期に友人を作れなければ、その後のクラス内での居心地に影響を及ぼすからだ。

 

 士郎たちのクラスもその例に漏れず、友人作りに明け暮れている。士郎は席が近いこともあり、光輝たちのグループに所属していた。

 

 

 

 たった一週間で出来た人間関係は、この後も刻々と変かしていくものだ。しかし、そのたった一週間の間でも、人間関係で明暗が分かれていた。

 

 

 

「南雲くん、もう少しきちんと授業を受けるべきじゃないか?いくら何でも不真面目が過ぎるぞ。」

 

 そう注意しているのは、女子たちからの圧倒的な支持票でクラスの委員長に就任した光輝だ。端正な顔を困ったようにしかめながら、一人の同級生を注意している。

 

 

 

「あはは……ごめんよ、天之川くん。」

 

 困ったように曖昧な笑みを浮かべて、その同級生、南雲ハジメは謝罪する。

 

「いや……俺に謝罪してもらってもな。先生たちだってちゃんと考えて授業をしてくれているんだから、眠るのは失礼だろう?」

 

「う、うん……」

 

 

 

 ことの原因は、ハジメにあった。入学式から遅刻寸前だった彼は、その後も散々な高校デビューを果たしていた。周囲からは体調管理が上手くいっていないと思われており、授業中に眠りこけること数十回。教師から注意されること、数回である。

 

 実際は、家業の手伝いで徹夜すること数日、その疲労で上手く睡眠時間がとれていないことが原因だった。

 

 

 

 その後も光輝から、今日は寝ないようにと注意を受け、南雲はそれに応える。そんなやり取りの後、ハジメにとって試練の時間は続く。

 

「おはよう、南雲くん。今日もいい天気だね。」

 

「あ、おはよう、白崎さん。」

 

 ハジメにそう声をかけたのは、クラスの副委員長である白崎香織だ。腰まで届く艶やかな黒髪が、南雲の目の前で揺れる。ハジメは少し緊張しながら、香織とあいさつを交わし合った。

 

 

 

 光輝の幼馴染だという彼女は、光輝とは逆に男子そして女子からの圧倒的な支持票を集めて副委員長に就任した。恵まれた容姿と穏やかな物腰から、責任のある面倒な立場を押し付けられた、と言えなくもない。

 

 

 

 そんな彼女に構われたことが、自分の最大の不幸だった、と南雲は思っている。

 

 

 

(僕のことなんて放っといてくれればいいのに……)

 

 香織や光輝が自分を放っていてくれれば、目立たない地味な生徒として平穏に過ごせるのに、とハジメは思う。だが、そうは問屋が卸さない。

 

 結局その日も始業ベルが鳴り終わるまで、香織はハジメを開放してくれなかった。

 

 

 

 

 

 次の日も、南雲は光輝から説教を受けることになる、と思った。だが、実際はもっと悲惨だった。

 

「おいおい南雲ぉ~。お前何回授業で寝たんだよぉ~。」

 

「マジあり得ねぇわ~。授業なんて受けなくても余裕って感じ?」

 

「あ、あはは……」

 

 光輝よりさらに性質の悪い生徒に、ハジメは構われていた。何処か目つきの悪い檜山大介というクラスメートと、その友人らしき中野という生徒。俗にいう不良である。

 

 ハジメは何も反論せず、ひたすらに曖昧な笑みを浮かべながら謝る。

 

 

 

(……何をやっているんだ檜山たちは。)

 

 光輝はその姿を見て、何か言いようのない不快感を覚えた。自分も南雲に対してはあんな風に絡んでいたのだろうか?

 

 

 

 生活態度を指導するつもりで声をかけていた光輝と、虐めの標的として目を付けた檜山。一方は善意から、もう一方は悪意からという違いがあるが、ハジメに絡んだ結果、ハジメを追い込む要因になったというのか。

 

(俺のせいか……!)

 

 

 

 光輝は居てもたってもいられず、南雲の席に向かった。

 

「檜山、俺の代わりに言ってくれるのはありがたいが……もう十分だよ。南雲くんも反省している。」

 

「そうかあ?天之川には悪ぃけどよ、絶対また寝るぜ、コイツ。賭けてもいい。」

 

「南雲を起こすために先生の授業が止まるのさ、俺達も迷惑してんだよね。それだけは覚えといてくれよ。」

 

 

 

 そう捨て台詞を吐いて、檜山たちは自分の席についた。

 

(……)

 

 周囲には沈黙が流れる。

 

 

 

「すまないな、南雲くん。俺も、あんな風に見えていたのかな。」

 

「え…?いや、別に……」

 

「……ただ……いや、何でもない。」

 

 本当に生活態度は改めてみてほしい、という言葉を飲み込み、光輝は自分の席に戻った。

 

 

 

「……光輝、苦労してるみたいだな?」

 

「士郎。いや、本当に困ったな……俺は別に、虐めのつもりはなかったんだ。」

 

 一連の流れを見守っていた士郎が、光輝をねぎらう。それに対して、光輝の居心地はすこぶる悪そうだった。

 

「別に光輝だけのせいじゃないと思うぞ。南雲のやり方と光輝が…いや、この学校が合ってないだけだ。」

 

 

 

 人間というものは、場の雰囲気に流される生き物だ。一度、『それが正しい』という雰囲気が形成されると、それに抗うのは難しくなる。前の席に座っていた生徒は士郎のように南雲の存在すら意識していなかったが、南雲の周囲の席の生徒は嫌でも南雲の生活態度が目に付く。

 

 先生に注意され、三度も光輝に注意され、白崎に気遣われてなお改善されない。

 

【これって南雲が悪くね?】

 

という雰囲気が形成されるのも、無理からぬことだった。

 

 

 

 ありふれた高校ではあるが、進学校だから猶更だ。

 

 

 

「人には相性ってのがあるだろ。俺に考えがあるから、南雲のことは任せてくれないか?」

 

 

 

「もう南雲のことはほっときゃ良いんじゃねぇか?何を言っても無駄だろ、ああいうやる気のない奴は。」

 

「ぶっちゃけ私もそう思う。」

 

 そう龍太郎や雫が提案するが、士郎にも考えがあった。

 

 

 

「……具体的には、どんな考えがあるんだ?」

 

「そうだな……」

 

 士郎の考えを聞き、光輝はそれを了承した。

 

 




ハジメ的には坂上や八重樫のように干渉しないでいてくれる方がありがたい模様
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。